バレンタインデー
文字数 7,698文字
いちは:十和、バレンタインにチョコ、渡したいんだけど。
十和:無理をしなくても良いさ。お父さんの不興を買って、一遥の家庭を乱すのはぼくの本意ではない。
いちは:大丈夫。寄り道はダメだって言われたけど、学校で渡す分にはいいでしょ。
どこにもいけない土曜日に、部屋で寝転がりながら、一遥はトゥルヒスのメッセージで十和と打ち合わせしていた。
田んぼにハマった後、軽トラの荷台にスクーターを載せて、無事に家まで送り届けてもらった。
案の定、お父さんには雷を落とされて、しばらく土日は外出禁止、平日もまっすぐ帰るように言いつけられてしまっていた。
十和に勇気づけられ、お父さんときちんと話をしようと思い始めた矢先、とてつもない失態をしてしまった。
ポコっと、しばらくして返信が帰ってきた。
十和:お互い、帰りが遅くなるのはまずかろうから、昼休みに落ち合うのはどうだろうか。
いちは:それだとあんまりお話しできないけど・・・仕方ないよね。
スマホを置いて、畳に顔を埋めた。
基本的に、学校では会わない。
お互いになんとなくそう決め合わせていた。
どこで知り合いに見られるか分かったもんじゃないからな。恥ずかしい。
だが、事故ってからもう二週間経って、週明けの月曜日はもうバレンタイン当日なのに、まだ外出制限がかかっているのだ。そうも言っていられない。
まるで密会だ。
そのままの体勢で、一遥はバタ足をした。
JKってのは、どんな状況でも、楽しみを見つけられるんだからね。ちょっと反抗的な気持ちになった。
「うるさいなあ、どうしたの」
床を叩く音が響いたのか、ふすまを滑らせて、お母さんが覗き込んできた。
「ほっといてよお」
「あんた、お父さんに心配かけるようなことしちゃダメよ」
「別にお父さんのために生きてるんじゃないから」
「なに思春期みたいなこと言ってるのよ」
「思春期だよ」
お母さんはマイペースだが、一遥がお父さんにぼろくそに叱られたことを気にしてくれているようだ。
事故った次の日、お母さんは午前中休みを取って整形外科へ一遥を送ってくれた。
幸い、おじいちゃんもあの時呟いていたように、冬の田んぼは普通なら干上がって固くなっているところ、大雪や雨が続いたおかげで湿っており、一遥の身体は最小限のダメージで済んでいた。
左腕や左足に無数の擦り傷ができたが、跡が残るようなことはなく、骨にも異常は無かった。
「お父さんは、一遥のことを心配してるから、厳しくするのよ」
「うそだー。わたしより田んぼの心配してたじゃん」
――たまたま身内だったからな。よそさまに迷惑をかけなくて良かった。
――田んぼも、まだ水が入る前だったし、スクーターの油もうまく零れずに済んだ。
事故の態様が明らかになるにつれても、お父さんは軽トラの運転手がおじいちゃんであった奇貨に感謝し、田んぼの地主さんへの配慮をばかり連ねていたように思う。
一遥のことも同じように気遣っていたのかも知れないが、こういうときは、マイナスの記憶ばかりが残るものだ。
「それよりあんた、好きな男の子ができたの。写真見せてよ」
お母さんはパチッと手を叩いて、一遥の脇に腰を下ろした。
「あれ、お母さんはトゥルヒス、怒らないの」
「いやー、お母さんも遺伝子ってのはどうかとは思うけど、いまはそういう時代なんでしょ。いつまでもあんたの面倒を見られるわけでもないからさ。好きにやりなよ」
うーん、放任だ。
だが、今の一遥には、正直このくらいの距離感がありがたい。
「残念ながら写真はないなあ。あんまりそういう雰囲気にならないんだよね」
一遥は起き上がると、申し訳程度にカメラロールを滑らせた。
「フォトジェニックなとこにデート行かないの」
「海は行ったけど、ずっと話してたから」
「へえ、落ち着いた子なのね」
確かに、トゥルヒスのプロフィールになっていた解像度の粗い写真を別にすれば、十和の写真って持ってないな、と気づいた。
次に会ったら、一緒に写真を撮ろうか、と思ったが、次に会うのはバレンタインの学校だから難しいだろう。
じゃあその次は? いつになったら外出禁止は解除されるだろうか。
「お父さんは、どこ行ったの?」
一遥は気になって聞いた。
聞いたところで、では今から直ちに規制緩和を交渉しようという気概があるわけではないけれども。
「ちょっと本家まで行ってるんよ。なんかおじいちゃんの調子がよくないらしい」
「え、そうなの。大丈夫?」
「まあたいしたことはないらしいけど。ちょっと家の手伝いに来てくれって、おばあちゃんに頼まれたんだって」
一遥と十勝クラッシュしかけた夜は、珍しく昼過ぎに軽トラで出かけて、あの時間まで出歩いていたらしい。
まだボケるような歳ではないが、いつものホームセンター巡りにしては長時間過ぎる。
「ふらっといなくなる人ではあるけどね。ちょっと疲れがたまってるのかも」
「おばあちゃんもおじいちゃんのこと、じっとしていられない人、って言ってた」
「そうね。でもお父さんもちょっと疲れてるかも。こないだ誰もいない方に向かって会釈したりしてたし」
「地主さんに謝る練習でもしてたんじゃないの。エア謝罪」
「あんた大した怪我もなくてよかったわ」
お母さんは呆れたように言うと、エプロンで両手を払ってどこかに行ってしまった。
さて、わたしもそろそろ紀浦大水害の調査を再開するか。
大きくのびをした。
二月十四日月曜日。
教室に入ると、なんだか重々しい。
百伊もどことなく元気がないが、千咲はそれ以上に、見るからに悄然としていた。
「はぁ、これ、頼まれてたブツだよ」
百伊がラッピングされたバレンタインチョコを持ってきてくれた。
出歩けない一遥の代わりに、この土日に関鉄百貨店に買い出しに行ってくれていたのだ。
「ありがとう。って、どうしたの、ふたりとも」
「いやー、わたしはちょい疲れただけだよ。土日バタバタしてさ」
「関鉄まで行くの大変だった? ごめんね」
「いや、それはいいんだよ。わたしもどうせ英治さんにあげるのを買わないといけないし。というか、英治さんに連れて行ってもらったから」
「そうなんだ。あ、わたしの分、お金払うよ」
「はぁの分も、英治さんが出してくれたんさ」
ええ?
それは悪いな、というか、ちょっと押しつけがましいな。
せっかく十和に渡すものなのに、会ったこともない男の人のお金で買ったものにするのはどうだろう。
と、ちょっと思ったが、払ってしまったものは仕方がない。百伊を通して返還するのも話がややこしい。
「あー、それじゃ、お礼言っといてよ」
「うん。どうせ今週末も会うから」
「凄いね。毎週会ってるじゃん」
久間英治という男がもう少し年かさなら、別の関係を疑われそうな状態になっているような気がした。
が、二十三歳ならまあ、大丈夫か。
「けどちょっと気が重いなー」
百伊が零した。
「なんで?」
「英治さんの家にあがらせてもらったんだけど、なんか選挙前で忙しいみたいで、ずっと親戚の子の面倒を見させられたんだよ。まあうち、いとこも多いし、慣れてるからいいんだけど、なんかもやっとしたわ」
この間のお正月も、百人一首で盛り上がっていたみたいだし、親戚の少ない一遥と違って、確かに百伊は小さい子どもたちにウケが良い。
「じゃ、今週も、相手の家に行くの?」
「そういう話なんだけど、また子守だったら、なんだかな」
百伊は腕組みをして考え込み始めた。
と、ここまで話をしていたのに、千咲が全く言葉を発しない。
いつもは百伊が喋って、千咲が相槌を打ち、一遥が聞き役になるのが定型なのに、今日はなんだか一遥ばっかり相槌を打っているではないか。
おそるおそる千咲の顔を窺いながら、
「テニス部でも、ビッグファミリーは流行ってるの」
「まあね。どうしたの」
「こないだ佐波っちが、プレヒスで全然マッチングしないって言ってたから」
「ははは、なんじゃそら。おもろいじゃん」
百伊が遠慮会釈無しに笑い転げる。
「それ、予想通りの展開だけど、なかなか素直で良いね」
千咲もようやく苦笑している。
「ちぃちゃんはさ」
一遥は探るように言葉を重ねた。
「佐波っちとか、別に佐波っちじゃなくてもいいけど、テニス部の男の子と付き合おうとは思わなかったの。みんなそこそこかっこいいと思うけど」
「あー」
千咲は髪を振り払った。
「なんか、気を遣わせちゃってるかな。常井くんと上手くいってないから」
やっぱりか。
一遥はどうしたの、と水を向けた。
「ちょっと連絡が滞りがちになって、もどかしい感じだったんだけど、それを言ったら怒られちゃって」
「ほーう。あんまりマメなタイプじゃないわけだ」
百伊はいつもの調子で口を丸めた。
「でもやっぱり、わたしは地元で終わりたいとは思えないんだよね。地元に骨を埋めるつもりの百伊には悪いけどさ」
「いやー、なんかわたしもちょっと揺らいできてるよ。ちぃみたいにイケメン狙いで行ってもよかったかもな」
「大阪とか、東京の大学に行きたいから、同級生とは付き合わないってこと? それってよく分からないな」
一遥は食い下がった。
「なんか、はぁちゃん、いつもと違う。どうしたの」
千咲が驚いたように言った。
いつも聞き役に徹していた一遥が、こうやって鋭く問いかけることに、たじろいでいるようにも見えた。
「うーん」
どうしてだろう。トゲトゲしてしまう。
幼なじみの佐波っちをちょっとだけ弁護したい気持ちになっていたのかも知れない。
そう、だったら、佐波っちでいいじゃん、って。
「同級生だからって、みんなが地元に残るわけじゃないじゃん。東京を目指す子だっているかもしれない。一緒に目指そうとか、もっとみんなの考えていること、お話しして聞いてみたらいいんじゃないかな」
「まあ、それはそうかもね」
千咲は考え込むように言った。
「ありがと。彼だけが男じゃないって慰めてくれてるんだね。でもまあ、もうちょい頑張ってみるよ」
千咲の理解は一遥の思いとは少しズレてしまっているが、自分の思いをぶつけて、そのことで相手の考えや行動に影響を与える、というのは一遥にとってこれまでにない経験だった。
ちょっとくらい、トゲトゲするのもいいもんだ。
いや、でもあんまりやり過ぎるとうざがられるし。ほどほどに。
「はぁは変えられちゃったんだよ。いとしの十和くんに」
「はぁちゃんは、上手くいってるんだね」
「どうなんだろう。外出禁止令が出ちゃったから」
「今日の帰りに渡すんだろ! わたしらも見に行って良い?」
「やめてやめて!」
一遥は慌てて手を振った。
百伊に買い物を頼むに当たって、帰りに渡す、という話にしてあるのだ。
そうでなければ、二人とも昼休みの密会について来かねない。
というかそもそも、十和が同じ高校の先輩であることから説明しないといけないので、すこぶる面倒だ。
十和からは、他の生徒の動きとかち合わないように、昼休みが始まってから十五分後くらいにテニスコートのあたりで待ち合わせようと言われた。
お弁当を半分くらいで切り上げると、お花摘みにと断りを入れて、教室を出た。
百伊と千咲の視界から外れると、駆け出した。
「十和」
十和はテニスコートの植え込みに待機していた。
鰹波の海で会ったときと同じ、黒いコート姿だ。
一遥は自分も上着を羽織ってくれば良かったと思ったが、仕方ない。
いそいそとポーチから出した関鉄百貨店のチョコレートを、十和の手へと移し替える。
その手は、もう一時間も外にいたかのように冷えていた。
「ありがとう一遥。それで、この間は済まなかった。蔑ろにして、帰ってしまった」
「ううん、寝かせてくれたんでしょ。いいよ」
「しかも、事故をしたって。身体は大丈夫なのか」
「全然問題ないよ。外出禁止令のせいで、持て余してる」
一遥はくるくると身体を回して健在をアピールした。
むむっと。
十和は、周りの目を気にするような素振りを見せた。
一遥には、その気持ちはよく分かった。動くと、そこにいるのが知られちゃうもんね。
それは、わたしも、恥ずかしい。
でも同時に、
自分が当然のように行っていることを、相手が行ったなら寂しくなる。
我が儘で、傲慢だ。
「身体を大切にしないといけない」
十和は心配げに言った。
「精神とは、身体性の範疇に拘束されるのだ。以前、巧緻性について訓戒を吐いた教諭がいたと話してくれたけれど」
「ああ、うん」
テニスには向いていないと、一遥に言い捨てた顧問の話だ。
「だけれど、身体とは成長するものだ。精神を自由に、広く逍遙させるための基礎は、基礎でありながらも可変だ。そしてそれは、精神によって耕される。逍遙し、摂取したものが、再び逍遙するための英気となる」
「ええと、どういうこと」
なんだか雰囲気がヘンだな、いつも以上に言い回しが難解だぞ、と思った。
「初めてメッセージを交わしたときの一遥は、分からないけれど、どこまでが自分なのか、自意識というものをまだ探り当てていないような気がしたんだ」
「自意識。どうだったかな」
「言葉を発することで、砂浜が波にさらわれるように、自分の中の粒が流されてしまうと感じ、そのことを恐れ、惜しむような心持ちだよ」
「あー、それは、トゥルヒスが情報を漏らすかもしれないって、怖かったからかな」
「自分のことが知られるのは怖い。それは当たり前の感情だと思う。なかんずくビッグファミリーというアプリは、不特定の他者に対して、遺伝子情報という自分でも知らない自分のことを知られてしまうことを許容する構造になっている。それが原初的な恐れをもたらすことは、想像に難くない」
「うん。まあそんな感じだと思う」
「けれどそれは、自分という存在の、どうしても不可知の部分があることをあからさまにしてしまうことで、少しずつ自分を見つけていく、そうした営みへと踏み出すことを諦めさせてしまうのかもしれない。一遥にはそうしてほしくないのだよ」
「えっと」
何かを伝えようとしてくれていることは伝わってくる。
その真剣なまなざしに応えて、一遥は考えた。
「自分のことを、もっと知れ、っていうこと?」
「分かったようなことを言っているのかも知れない」
十和は焦ったように続ける。
「でも、だから、水災のこと、顕彰に積極的に取り組んでくれている一遥のことを、ぼくは好ましいと思う。すべきことも、させられていることもある。だけれども、誰にでも、やりたいことがあるはずだ。もしかしてこれまでも、我慢していたこと、やりたかったことがあったんじゃないのかな」
「そう、なのかな」
傍らのテニスコートをちらりと見た。
中学の顧問に抑圧されて、本当は続けたかったテニスを続けることに尻込みしてしまったことを、わたしは悔やんでいるのだろうか。
そうではない。テニスを続けること自体に拘っていた訳ではない。
ただ、テニスを続けることを、そのように選択する自分を、尊重し見守って欲しかったのだ。
そしてまた、プレヒスではなく、トゥルヒスを選ぶ自分を、それもまたつきづきしい姿だと理解して欲しかったのだ。
そうだ、選ぶこととは、自分を表現することだ。
誰かの顔色を伺って、
そして、わたしを表現するためには、わたしのことをよく知らなければならない。
自分の内奥に潜む、芯を知ることができるのは、唯一、自分だけなのだ。
隠す必要など無い。なぜならわたしがわたしであることに、正しい姿などあらかじめ存在しないからだ。
ただその場その場で、わたしの声に従って、選び取っていく。
そのことの楽しみと歓びを、一遥はようやく得ることができるようになってきている。
その萌芽のときをもたらしてくれたのは、間違いなく、目の前の彼なのだ。
「そう、きっとそうだね」
一遥は確かめるように言った。
声に出す一語ずつが、白い息とともに空気を震わせる。
十和はようやくホッとしたよう顔をして、
「チョコレートというものも、食べるのは初めてかも知れない」
「ほんとに? いつもどんな食生活なの」
「米と、漬物と、川魚があればそれで十分だよ。でも一遥のおかげで、どんどん色々なことを知っていけ」
「じゃあさ、ホワイトデーのお返しは、十和もいっしょに食べようよ。十和の食べたいものを、わたしに贈って」
「ホワイトデー、ああそうか、お返しをしないといけないのだったね」
そうだよ、忘れないでよ、と一遥は微笑んだ。
さっきから繋いだままになっていた手と手が、二人の体温を伝え合って暖かくなってくる。
「そろそろ、戻らないと。友だちが怪しんじゃうから」
名残惜しみながら、一遥は申し出た。
「そうだね」
「また夜に、メッセージ送るから」
「うん」
もう一度だけ、透き通った十和の瞳を見つめて、潤んだ視線を交換してから、一遥は踵を返した。
さくさくと小枝を踏んで、校舎へと戻る。
「みたぞー」
不意に声をかけられて、飛び上がってしまった。
「なんだ、愛梨ちゃんか」
「幽霊に会ったみたいな反応しないでよ。傷つくわ」
マグを持ったまま、愛梨ちゃんが美術室の窓越しに一遥に呼びかけていた。
「見たって、なにを」
一遥はしらばっくれた。
植え込みの奥の逢瀬は、そうと知らなければ目撃されないと信じた。
「いやいや、そこからあんたが出てくるとこしか見てないけど、昼休みの終わりまで見張ってれば、そのうち男の子が出てくるって寸法でしょ」
「えー、ヒマなの。やめてよ」
「ってことは、ほんとにそこでバレンタインやってたの」
しまった、誘導尋問だ。
「発情してんなー、青少年」
「コメントがおばさん過ぎるよ」
「失敬なやつだな。相手はうちの生徒だっけ?」
「なにもお答えすることはありませーん」
「はは、一遥、あんた明るくなったな」
愛梨ちゃんは大きな口を開けて、ありがと、と言った。
「なに、急に」
「いや、SS紀浦を受けてくれた礼を言ってないなと思って。期末試験終わった後まで引きずり回しちゃうからさ。あれ、もうちょっといい日程にできたら良かったんだけど」
そういえば担任のラーメンに一遥をオススメしたのは、愛梨ちゃんだったな。
「全然いいんだけど、むしろ期末試験が近いことに今気づかされたよ」
「まあ頑張ってよ。でも、いい顔してる。きっと彼氏くんがいい奴なんだね」
そう言って愛梨ちゃんはくるりと背を向けた。
一遥は嬉しかった。自分が成長していることが、他の人からもそうみえるくらいにハッキリとした変化として現れているのだ。
これから十和のことをもっと好きになって、もっと色々なことを教えてもらって、色々な体験をして、トゥルヒスのマッチング率98%のパートナーとともに、一直線に上昇していける未来が繋がっていくような、そんな幸福な気持ちに包まれていた。
だが、そんな一遥の思いとは裏腹に、この日を境にして、十和からのメッセージはすっかり途絶えてしまったのだった。
十和:無理をしなくても良いさ。お父さんの不興を買って、一遥の家庭を乱すのはぼくの本意ではない。
いちは:大丈夫。寄り道はダメだって言われたけど、学校で渡す分にはいいでしょ。
どこにもいけない土曜日に、部屋で寝転がりながら、一遥はトゥルヒスのメッセージで十和と打ち合わせしていた。
田んぼにハマった後、軽トラの荷台にスクーターを載せて、無事に家まで送り届けてもらった。
案の定、お父さんには雷を落とされて、しばらく土日は外出禁止、平日もまっすぐ帰るように言いつけられてしまっていた。
十和に勇気づけられ、お父さんときちんと話をしようと思い始めた矢先、とてつもない失態をしてしまった。
ポコっと、しばらくして返信が帰ってきた。
十和:お互い、帰りが遅くなるのはまずかろうから、昼休みに落ち合うのはどうだろうか。
いちは:それだとあんまりお話しできないけど・・・仕方ないよね。
スマホを置いて、畳に顔を埋めた。
基本的に、学校では会わない。
お互いになんとなくそう決め合わせていた。
どこで知り合いに見られるか分かったもんじゃないからな。恥ずかしい。
だが、事故ってからもう二週間経って、週明けの月曜日はもうバレンタイン当日なのに、まだ外出制限がかかっているのだ。そうも言っていられない。
まるで密会だ。
そのままの体勢で、一遥はバタ足をした。
JKってのは、どんな状況でも、楽しみを見つけられるんだからね。ちょっと反抗的な気持ちになった。
「うるさいなあ、どうしたの」
床を叩く音が響いたのか、ふすまを滑らせて、お母さんが覗き込んできた。
「ほっといてよお」
「あんた、お父さんに心配かけるようなことしちゃダメよ」
「別にお父さんのために生きてるんじゃないから」
「なに思春期みたいなこと言ってるのよ」
「思春期だよ」
お母さんはマイペースだが、一遥がお父さんにぼろくそに叱られたことを気にしてくれているようだ。
事故った次の日、お母さんは午前中休みを取って整形外科へ一遥を送ってくれた。
幸い、おじいちゃんもあの時呟いていたように、冬の田んぼは普通なら干上がって固くなっているところ、大雪や雨が続いたおかげで湿っており、一遥の身体は最小限のダメージで済んでいた。
左腕や左足に無数の擦り傷ができたが、跡が残るようなことはなく、骨にも異常は無かった。
「お父さんは、一遥のことを心配してるから、厳しくするのよ」
「うそだー。わたしより田んぼの心配してたじゃん」
――たまたま身内だったからな。よそさまに迷惑をかけなくて良かった。
――田んぼも、まだ水が入る前だったし、スクーターの油もうまく零れずに済んだ。
事故の態様が明らかになるにつれても、お父さんは軽トラの運転手がおじいちゃんであった奇貨に感謝し、田んぼの地主さんへの配慮をばかり連ねていたように思う。
一遥のことも同じように気遣っていたのかも知れないが、こういうときは、マイナスの記憶ばかりが残るものだ。
「それよりあんた、好きな男の子ができたの。写真見せてよ」
お母さんはパチッと手を叩いて、一遥の脇に腰を下ろした。
「あれ、お母さんはトゥルヒス、怒らないの」
「いやー、お母さんも遺伝子ってのはどうかとは思うけど、いまはそういう時代なんでしょ。いつまでもあんたの面倒を見られるわけでもないからさ。好きにやりなよ」
うーん、放任だ。
だが、今の一遥には、正直このくらいの距離感がありがたい。
「残念ながら写真はないなあ。あんまりそういう雰囲気にならないんだよね」
一遥は起き上がると、申し訳程度にカメラロールを滑らせた。
「フォトジェニックなとこにデート行かないの」
「海は行ったけど、ずっと話してたから」
「へえ、落ち着いた子なのね」
確かに、トゥルヒスのプロフィールになっていた解像度の粗い写真を別にすれば、十和の写真って持ってないな、と気づいた。
次に会ったら、一緒に写真を撮ろうか、と思ったが、次に会うのはバレンタインの学校だから難しいだろう。
じゃあその次は? いつになったら外出禁止は解除されるだろうか。
「お父さんは、どこ行ったの?」
一遥は気になって聞いた。
聞いたところで、では今から直ちに規制緩和を交渉しようという気概があるわけではないけれども。
「ちょっと本家まで行ってるんよ。なんかおじいちゃんの調子がよくないらしい」
「え、そうなの。大丈夫?」
「まあたいしたことはないらしいけど。ちょっと家の手伝いに来てくれって、おばあちゃんに頼まれたんだって」
一遥と十勝クラッシュしかけた夜は、珍しく昼過ぎに軽トラで出かけて、あの時間まで出歩いていたらしい。
まだボケるような歳ではないが、いつものホームセンター巡りにしては長時間過ぎる。
「ふらっといなくなる人ではあるけどね。ちょっと疲れがたまってるのかも」
「おばあちゃんもおじいちゃんのこと、じっとしていられない人、って言ってた」
「そうね。でもお父さんもちょっと疲れてるかも。こないだ誰もいない方に向かって会釈したりしてたし」
「地主さんに謝る練習でもしてたんじゃないの。エア謝罪」
「あんた大した怪我もなくてよかったわ」
お母さんは呆れたように言うと、エプロンで両手を払ってどこかに行ってしまった。
さて、わたしもそろそろ紀浦大水害の調査を再開するか。
大きくのびをした。
二月十四日月曜日。
教室に入ると、なんだか重々しい。
百伊もどことなく元気がないが、千咲はそれ以上に、見るからに悄然としていた。
「はぁ、これ、頼まれてたブツだよ」
百伊がラッピングされたバレンタインチョコを持ってきてくれた。
出歩けない一遥の代わりに、この土日に関鉄百貨店に買い出しに行ってくれていたのだ。
「ありがとう。って、どうしたの、ふたりとも」
「いやー、わたしはちょい疲れただけだよ。土日バタバタしてさ」
「関鉄まで行くの大変だった? ごめんね」
「いや、それはいいんだよ。わたしもどうせ英治さんにあげるのを買わないといけないし。というか、英治さんに連れて行ってもらったから」
「そうなんだ。あ、わたしの分、お金払うよ」
「はぁの分も、英治さんが出してくれたんさ」
ええ?
それは悪いな、というか、ちょっと押しつけがましいな。
せっかく十和に渡すものなのに、会ったこともない男の人のお金で買ったものにするのはどうだろう。
と、ちょっと思ったが、払ってしまったものは仕方がない。百伊を通して返還するのも話がややこしい。
「あー、それじゃ、お礼言っといてよ」
「うん。どうせ今週末も会うから」
「凄いね。毎週会ってるじゃん」
久間英治という男がもう少し年かさなら、別の関係を疑われそうな状態になっているような気がした。
が、二十三歳ならまあ、大丈夫か。
「けどちょっと気が重いなー」
百伊が零した。
「なんで?」
「英治さんの家にあがらせてもらったんだけど、なんか選挙前で忙しいみたいで、ずっと親戚の子の面倒を見させられたんだよ。まあうち、いとこも多いし、慣れてるからいいんだけど、なんかもやっとしたわ」
この間のお正月も、百人一首で盛り上がっていたみたいだし、親戚の少ない一遥と違って、確かに百伊は小さい子どもたちにウケが良い。
「じゃ、今週も、相手の家に行くの?」
「そういう話なんだけど、また子守だったら、なんだかな」
百伊は腕組みをして考え込み始めた。
と、ここまで話をしていたのに、千咲が全く言葉を発しない。
いつもは百伊が喋って、千咲が相槌を打ち、一遥が聞き役になるのが定型なのに、今日はなんだか一遥ばっかり相槌を打っているではないか。
おそるおそる千咲の顔を窺いながら、
「テニス部でも、ビッグファミリーは流行ってるの」
「まあね。どうしたの」
「こないだ佐波っちが、プレヒスで全然マッチングしないって言ってたから」
「ははは、なんじゃそら。おもろいじゃん」
百伊が遠慮会釈無しに笑い転げる。
「それ、予想通りの展開だけど、なかなか素直で良いね」
千咲もようやく苦笑している。
「ちぃちゃんはさ」
一遥は探るように言葉を重ねた。
「佐波っちとか、別に佐波っちじゃなくてもいいけど、テニス部の男の子と付き合おうとは思わなかったの。みんなそこそこかっこいいと思うけど」
「あー」
千咲は髪を振り払った。
「なんか、気を遣わせちゃってるかな。常井くんと上手くいってないから」
やっぱりか。
一遥はどうしたの、と水を向けた。
「ちょっと連絡が滞りがちになって、もどかしい感じだったんだけど、それを言ったら怒られちゃって」
「ほーう。あんまりマメなタイプじゃないわけだ」
百伊はいつもの調子で口を丸めた。
「でもやっぱり、わたしは地元で終わりたいとは思えないんだよね。地元に骨を埋めるつもりの百伊には悪いけどさ」
「いやー、なんかわたしもちょっと揺らいできてるよ。ちぃみたいにイケメン狙いで行ってもよかったかもな」
「大阪とか、東京の大学に行きたいから、同級生とは付き合わないってこと? それってよく分からないな」
一遥は食い下がった。
「なんか、はぁちゃん、いつもと違う。どうしたの」
千咲が驚いたように言った。
いつも聞き役に徹していた一遥が、こうやって鋭く問いかけることに、たじろいでいるようにも見えた。
「うーん」
どうしてだろう。トゲトゲしてしまう。
幼なじみの佐波っちをちょっとだけ弁護したい気持ちになっていたのかも知れない。
そう、だったら、佐波っちでいいじゃん、って。
「同級生だからって、みんなが地元に残るわけじゃないじゃん。東京を目指す子だっているかもしれない。一緒に目指そうとか、もっとみんなの考えていること、お話しして聞いてみたらいいんじゃないかな」
「まあ、それはそうかもね」
千咲は考え込むように言った。
「ありがと。彼だけが男じゃないって慰めてくれてるんだね。でもまあ、もうちょい頑張ってみるよ」
千咲の理解は一遥の思いとは少しズレてしまっているが、自分の思いをぶつけて、そのことで相手の考えや行動に影響を与える、というのは一遥にとってこれまでにない経験だった。
ちょっとくらい、トゲトゲするのもいいもんだ。
いや、でもあんまりやり過ぎるとうざがられるし。ほどほどに。
「はぁは変えられちゃったんだよ。いとしの十和くんに」
「はぁちゃんは、上手くいってるんだね」
「どうなんだろう。外出禁止令が出ちゃったから」
「今日の帰りに渡すんだろ! わたしらも見に行って良い?」
「やめてやめて!」
一遥は慌てて手を振った。
百伊に買い物を頼むに当たって、帰りに渡す、という話にしてあるのだ。
そうでなければ、二人とも昼休みの密会について来かねない。
というかそもそも、十和が同じ高校の先輩であることから説明しないといけないので、すこぶる面倒だ。
十和からは、他の生徒の動きとかち合わないように、昼休みが始まってから十五分後くらいにテニスコートのあたりで待ち合わせようと言われた。
お弁当を半分くらいで切り上げると、お花摘みにと断りを入れて、教室を出た。
百伊と千咲の視界から外れると、駆け出した。
「十和」
十和はテニスコートの植え込みに待機していた。
鰹波の海で会ったときと同じ、黒いコート姿だ。
一遥は自分も上着を羽織ってくれば良かったと思ったが、仕方ない。
いそいそとポーチから出した関鉄百貨店のチョコレートを、十和の手へと移し替える。
その手は、もう一時間も外にいたかのように冷えていた。
「ありがとう一遥。それで、この間は済まなかった。蔑ろにして、帰ってしまった」
「ううん、寝かせてくれたんでしょ。いいよ」
「しかも、事故をしたって。身体は大丈夫なのか」
「全然問題ないよ。外出禁止令のせいで、持て余してる」
一遥はくるくると身体を回して健在をアピールした。
むむっと。
十和は、周りの目を気にするような素振りを見せた。
一遥には、その気持ちはよく分かった。動くと、そこにいるのが知られちゃうもんね。
それは、わたしも、恥ずかしい。
でも同時に、
十和にそんな素振りをとってほしくない
とも思った。自分が当然のように行っていることを、相手が行ったなら寂しくなる。
我が儘で、傲慢だ。
「身体を大切にしないといけない」
十和は心配げに言った。
「精神とは、身体性の範疇に拘束されるのだ。以前、巧緻性について訓戒を吐いた教諭がいたと話してくれたけれど」
「ああ、うん」
テニスには向いていないと、一遥に言い捨てた顧問の話だ。
「だけれど、身体とは成長するものだ。精神を自由に、広く逍遙させるための基礎は、基礎でありながらも可変だ。そしてそれは、精神によって耕される。逍遙し、摂取したものが、再び逍遙するための英気となる」
「ええと、どういうこと」
なんだか雰囲気がヘンだな、いつも以上に言い回しが難解だぞ、と思った。
「初めてメッセージを交わしたときの一遥は、分からないけれど、どこまでが自分なのか、自意識というものをまだ探り当てていないような気がしたんだ」
「自意識。どうだったかな」
「言葉を発することで、砂浜が波にさらわれるように、自分の中の粒が流されてしまうと感じ、そのことを恐れ、惜しむような心持ちだよ」
「あー、それは、トゥルヒスが情報を漏らすかもしれないって、怖かったからかな」
「自分のことが知られるのは怖い。それは当たり前の感情だと思う。なかんずくビッグファミリーというアプリは、不特定の他者に対して、遺伝子情報という自分でも知らない自分のことを知られてしまうことを許容する構造になっている。それが原初的な恐れをもたらすことは、想像に難くない」
「うん。まあそんな感じだと思う」
「けれどそれは、自分という存在の、どうしても不可知の部分があることをあからさまにしてしまうことで、少しずつ自分を見つけていく、そうした営みへと踏み出すことを諦めさせてしまうのかもしれない。一遥にはそうしてほしくないのだよ」
「えっと」
何かを伝えようとしてくれていることは伝わってくる。
その真剣なまなざしに応えて、一遥は考えた。
「自分のことを、もっと知れ、っていうこと?」
「分かったようなことを言っているのかも知れない」
十和は焦ったように続ける。
「でも、だから、水災のこと、顕彰に積極的に取り組んでくれている一遥のことを、ぼくは好ましいと思う。すべきことも、させられていることもある。だけれども、誰にでも、やりたいことがあるはずだ。もしかしてこれまでも、我慢していたこと、やりたかったことがあったんじゃないのかな」
「そう、なのかな」
傍らのテニスコートをちらりと見た。
中学の顧問に抑圧されて、本当は続けたかったテニスを続けることに尻込みしてしまったことを、わたしは悔やんでいるのだろうか。
そうではない。テニスを続けること自体に拘っていた訳ではない。
ただ、テニスを続けることを、そのように選択する自分を、尊重し見守って欲しかったのだ。
そしてまた、プレヒスではなく、トゥルヒスを選ぶ自分を、それもまたつきづきしい姿だと理解して欲しかったのだ。
そうだ、選ぶこととは、自分を表現することだ。
誰かの顔色を伺って、
選ぶことを放棄するたびに、わたしはわたしを抑圧していたのだ
。そして、わたしを表現するためには、わたしのことをよく知らなければならない。
自分の内奥に潜む、芯を知ることができるのは、唯一、自分だけなのだ。
隠す必要など無い。なぜならわたしがわたしであることに、正しい姿などあらかじめ存在しないからだ。
ただその場その場で、わたしの声に従って、選び取っていく。
そのことの楽しみと歓びを、一遥はようやく得ることができるようになってきている。
その萌芽のときをもたらしてくれたのは、間違いなく、目の前の彼なのだ。
「そう、きっとそうだね」
一遥は確かめるように言った。
声に出す一語ずつが、白い息とともに空気を震わせる。
十和はようやくホッとしたよう顔をして、
「チョコレートというものも、食べるのは初めてかも知れない」
「ほんとに? いつもどんな食生活なの」
「米と、漬物と、川魚があればそれで十分だよ。でも一遥のおかげで、どんどん色々なことを知っていけ」
「じゃあさ、ホワイトデーのお返しは、十和もいっしょに食べようよ。十和の食べたいものを、わたしに贈って」
「ホワイトデー、ああそうか、お返しをしないといけないのだったね」
そうだよ、忘れないでよ、と一遥は微笑んだ。
さっきから繋いだままになっていた手と手が、二人の体温を伝え合って暖かくなってくる。
「そろそろ、戻らないと。友だちが怪しんじゃうから」
名残惜しみながら、一遥は申し出た。
「そうだね」
「また夜に、メッセージ送るから」
「うん」
もう一度だけ、透き通った十和の瞳を見つめて、潤んだ視線を交換してから、一遥は踵を返した。
さくさくと小枝を踏んで、校舎へと戻る。
「みたぞー」
不意に声をかけられて、飛び上がってしまった。
「なんだ、愛梨ちゃんか」
「幽霊に会ったみたいな反応しないでよ。傷つくわ」
マグを持ったまま、愛梨ちゃんが美術室の窓越しに一遥に呼びかけていた。
「見たって、なにを」
一遥はしらばっくれた。
植え込みの奥の逢瀬は、そうと知らなければ目撃されないと信じた。
「いやいや、そこからあんたが出てくるとこしか見てないけど、昼休みの終わりまで見張ってれば、そのうち男の子が出てくるって寸法でしょ」
「えー、ヒマなの。やめてよ」
「ってことは、ほんとにそこでバレンタインやってたの」
しまった、誘導尋問だ。
「発情してんなー、青少年」
「コメントがおばさん過ぎるよ」
「失敬なやつだな。相手はうちの生徒だっけ?」
「なにもお答えすることはありませーん」
「はは、一遥、あんた明るくなったな」
愛梨ちゃんは大きな口を開けて、ありがと、と言った。
「なに、急に」
「いや、SS紀浦を受けてくれた礼を言ってないなと思って。期末試験終わった後まで引きずり回しちゃうからさ。あれ、もうちょっといい日程にできたら良かったんだけど」
そういえば担任のラーメンに一遥をオススメしたのは、愛梨ちゃんだったな。
「全然いいんだけど、むしろ期末試験が近いことに今気づかされたよ」
「まあ頑張ってよ。でも、いい顔してる。きっと彼氏くんがいい奴なんだね」
そう言って愛梨ちゃんはくるりと背を向けた。
一遥は嬉しかった。自分が成長していることが、他の人からもそうみえるくらいにハッキリとした変化として現れているのだ。
これから十和のことをもっと好きになって、もっと色々なことを教えてもらって、色々な体験をして、トゥルヒスのマッチング率98%のパートナーとともに、一直線に上昇していける未来が繋がっていくような、そんな幸福な気持ちに包まれていた。
だが、そんな一遥の思いとは裏腹に、この日を境にして、十和からのメッセージはすっかり途絶えてしまったのだった。