第1話

文字数 1,494文字

あー、今日の晩ごはん、何にしようかなぁ。

夕方4時過ぎ、そろそろ保育園のお迎えに行かなくてはいけない時間になるとぼんやり考えはじめる。

小6、小4、小1、保育園、4人の子どもたちに、ご飯を作る毎日。
食べたいものなんかある?と子どもたちに聞けば、唐揚げ、ハンバーグ、スパゲッティ、グラタン、そんなものばかりリクエストしてくるので、参考にならない。

日常のご飯である。
時々は、子どもが好きな簡単に味覚を満足させられるメニューもいいけれど、毎日のご飯ってそういうものじゃない、という小さなこだわりを持っているので、結局冒頭にもどる。

あー、今日の晩ごはん、どうしようかなぁ。

日常のご飯は、シンプルで、それこそ昔から日本人が食べてきたようなものがよい。
ごはんに味噌汁、漬物、野菜の煮物...
しかし、こういうメニューは、決まって食べ盛りの子どもたちに「何にもない」と言われてしまう。

作ったのに何もないと言われたときの、いらだち、そして「そんなことないから食べなさい!」という自分からうまれる圧、それによってしょうがなくご飯を食べる子どもたち、そこに「こういうご飯もおいしいでしょ」、さらには「体にいいんだから」と言ってしまったら、もう最悪だ。

ご飯は体にいいから食べるもんじゃない、そこは百も承知なのだが、勢いあまって言ってしまうこともある。おいしいくて食べるものが体に良かった、そんな食事だったら母もにこにこ、子どももにこにこになるんだけどな。

さて、晩ごはんどうしよう問題は解決していない。

THE 子どもが好きなメニューを作るのは違う、だからといって、THE 日本の食事みたいなのを作るのも人気がないのが目に見えていて気が進まない...その解決の糸口としてあらわれるのが、みんな大好き甘じょっぱい味である。

ある日の晩ごはんのメインメニュー。
塩こうじにつけておいた鶏の胸肉を、片栗粉をまぶして多めの油で焼き揚げにする。
焼き揚げた鶏肉をお皿に移して、次に冷蔵庫にある野菜やキノコもフライパンで焼く。
最後に、鶏肉と野菜をフライパンで混ぜあわせ、そこに酒、砂糖、しょうゆを混ぜたものをまわしかける。

じゅわぁ~。
甘辛味の調味料が、火を入れるとともに、だんだんとろーんとなってくる。

ぐるぐると具材をからめ、てりてりになったら、甘辛鶏肉野菜炒めの完成!
ちなみに、そこに柚子胡椒や山椒をふって食べると、大人甘辛味になって夫が喜ぶ味になる。
子どもも文句なし、野菜もたくさんで母も文句なしの一品であった。

甘じょっぱい味は、メインだけにとどまらず、脇役たちでも活躍する。

シイタケだけを炒めて甘じょっぱい味にする、ジャガイモの煮っころがしも甘じょっぱい味に、そういえばひじきの煮物も甘じょっぱい味になってない!?

甘じょっぱい味は万能であり、火を通してたべる食材であればなんでもおいしくできちゃうのではないかと思える味付けなのだ。

気づけば、困ったときはなんでも甘辛味になっている自分にきづき、それも嫌だなと思いながら、やっぱり少しお世話になってしまう。

こんな主婦は、私にとどまらず、案外身近にもいるものだ。

毎週、仲良し3人組で開催されるモーニングの会。
ここは、とりとめもない話を気がねなく、永遠にできる最高の場所なのだが、晩ごはん何にする問題は、主婦なら誰しもが直面する問題であるので、話題の一つとして確実に取り上げられる。

すると、甘じょっぱい味がでてくる、でてくる。

甘じょっぱい味は間違いないからね、という友だちの言葉に深くうなずく。

こうなると、甘じょっぱい味は、日本人の遺伝子に刻み込まれた味といっても過言ではないかもしれない。



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