第25話 作戦会議

文字数 2,352文字

「まずはこれを見てくれ」
 ローディは床に紙を広げた。ここは、彼が長期で借りている宿の部屋だ。四人でいると少し狭い。
「こんなもの、どうやって手に入れたの?」
 紙を指さしながら、驚きと呆れの中間のような口調でルカが言った。紙に書かれていたのは、どう見ても教会の見取り図だ。ごく簡易なものではあるが、かと言って部外者がそうそう入手できるものではない。
「ま、ちょっとね。シスターに知り合いがいるんだよ」
「ふうん」
 ルカは胡乱(うろん)げな表情でローディを見た。どういう

なのかランツは何となく察しがついたが、口には出さなかった。
「とにかく、内容は信用してもらっていい。で、どこにアリエルが捕まってるかだけど……」
「地下が書いてないな」
 ランツがぽつりと言った。建物の奥まった場所に下り階段があるのだが、繋がる先はどこにも無かった。二階や三階へ上るための階段はちゃんとあるので、あえて書かないままにしているようだ。
 すると、ローディは満足げに頷いた。
「うん、やっぱりそこが気になるよね。地下に捕まってるんじゃないかと思ってるよ。牢屋なんかがあるとしたら、地下だろうしね」
「この階段まで行くのは大変そうだな」
「まあね。どこかの窓から侵入するとして、どこがいいか……」
「ちょっと待って、忍び込むつもりなの?」
 今まで黙っていたルカが、不思議そうに言った。ローディとランツは顔を見合わせる。
「他に方法ある? 話し合いで済むなら、そりゃそれがいいけどさ……相手は村をまるごと一つ滅ぼそうとするような集団だよ?」
「そういうことじゃないわよ。途中までなら普通に入れるでしょう? 聖堂は一般人にも開放されてるんだから」
「ふむ。確かにそうか」
 ローディは口元に手をやると、地図を凝視した。ランツも同じようにして、ルカの案を検討する。
 教会は、左右が大きく奥に曲がった帯状の形をしていた。円の真ん中を大きくくりぬいて、さらに半分に切ったような形だ。帯の真ん中には丸い聖堂があって、外側に少し膨らんでいる。
 誰でも入れるのは、一番手前にある聖堂だけのようだ。問題の地下への階段は、聖堂と建物の右端のちょうど中間、円の中心に近い場所にあった。
「聖堂からだと遠いな。やっぱりここから入った方がいいんじゃないか」
 ランツは階段に近い建物の壁、つまり円の内側の壁を指さした。この辺りから侵入できれば、すぐに階段に着けると思ったのだが……。
 出し抜けに、ニアが言った。
「そっち側は行けないよ。木があるところだから」
「木? ああ、世界樹か」
 ローディがぽんと手を叩く。
「ああ、だから建物が曲がってるんだね。この空間に世界樹があるんだ」
 と、彼は半円のくりぬかれた部分を指さした。なるほど、余裕を持って収まるサイズだ。
「こっち側には何があるの?」
 ルカが、円の切り取られたもう半分を指さした。地図には何も書かれていないが、教会の施設があるはずだ。さもないと、誰でも世界樹に近づけるということになる。
「教会の人が住んでるとこ。木の近くには人いっぱいいるよ。見張り小屋もあるし」
 すらすらとニアが言った。ローディが訝しげに尋ねる。
「どうしてそんなに詳しいんだい?」
「いいだろ、今は」
 ランツは質問を遮ると、言葉を続けた。
「とにかく、裏から行くのは無理そうだな。聖堂から行くか、もしくはここか」
 階段に近い外側の壁を指さしながら言った。少し距離があるが、それでも聖堂からよりは近い。どちらが見つかりにくいのか。
「あー」
 不意に、ニアが声を上げた。全員の視線が集まる。
「なんだい。いい案でもある?」
 ローディが聞くと、彼女はこくりと頷いた。
「やっぱりこっちから行けるかも」
 と、内側の壁を指さした。ローディは眉を寄せた。
「世界樹があるから無理って言ったのはニアだろ? その意見には僕も賛成だよ」
「あのね。えーと」
 ニアはきょろきょろと部屋の中を見回したが、目的のものは見つからなかったようだ。諦めたように視線を戻すと、説明を始めた。
「ここに木があるでしょ。木の近くは綺麗になってて、見張りがたくさん」
 半円のくりぬかれた部分、教会の壁から少し離れた場所に拳を置くと、その周りを逆の手の指でなぞった。ローディが首を傾げて言った。
「綺麗にって?」
「草刈ったりとか? だから隠れるとこもないけど」
 ニアは、さっきなぞった円よりもう少し大きな円を描いた。教会の建物の、少し内側だ。
「このへんは草だらけだし、たぶん見つからない。ここは道があるから駄目だけど」
 と、聖堂から世界樹までを線で結びながら言った。ローディは、腕を組んで深く頷いた。
「なるほどね。一度中に入っちゃえば、茂みに隠れて教会の近くまで行けるってことか」
「うん」
「でも、そもそもそう簡単に入れるの? 教会を通り抜けないといけないなら無意味だよ」
「んー?」
 ニアはこてりと首を傾げた。そこまでは分からないようだ。
「ふむ。とにかく、今出てる案は三つだね。聖堂から行く。外側の窓から侵入する。内側の窓から侵入する」
 地図を指さしながらローディが言った。「他に案はあるかな?」と言葉を続けたが、誰も手を上げない。
「じゃあ三つの中から選ばなきゃね。どれがいいか……」
「まずは手分けして調べてみない?」
 と、ルカが提案した。
「聖堂には入れるし、窓の位置は調べられるわ。内側に行けるかどうかも、ある程度は分かるでしょう」
「そうだね」
 ローディもその意見に賛成のようだった。全員で相談して、分担を決める。
「よし、行こうか!」
 彼の言葉とともに、作戦は開始された。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み