第六曲 情景(白鳥あるいは黒鳥の)(1)
文字数 1,494文字
ともあれ、毎週とは行かないまでも、木曜の午後を聖シュテファンで過ごせるようになりました。木曜日おめでとう(ハッピー・サーズデー)! けっきょくベンノに送り迎えしてもらっています。初回の日、ベンノは悲壮なまでに緊張していて、聖堂の石段でころびかけたほどだったのですが、重い木づくりの扉をそろそろと開けると同時に流れ出してきたオルガンの音を耳にしたとたん、いきなり陽だまりに置かれた子すずめのようにぽかんと口を開け、それからぼくをふりかえって、力づよくうなずいたのでした。ロットバルトも落ちつきはらって「ほらね」なんて言うし、何が「ほらね」だ。ヤーパンにはこういうとき「キツネにつままれた気分」という言い方があるそうで、いったいキツネがどこをどうつまむのか知りたい。もっとも、
今日もそうしていたら、向こうの扉が開いて、通路をたくさんの子どもたちが通っていきました。少年聖歌隊です。ウィーンやレーゲンスブルクほど有名じゃないけど、うちだってあるんだよ。六、七歳から十五、六歳くらいまでかな? ゆったりした白い、おそろいの服。ふと、鳥のひなの群れのようだと思いました。扉の外ではさわいでいたのに、聖堂に入ったとたんみんなしんとなって、すまして先生について歩いていくのがかわいい。見ていたら、列の最後のほうにいた子が二人、十歳くらいのがふりかえりました。顔がそっくり。ふたごだ。ぼくを見て、同時ににっこりしました。その瞬間、ぼくも——こうして言葉にするとへんだな。ぼくも、なつかしくて、笑ってしまったのです。笑ってから、誰だろう、と思いました。思いながら、何言ってるんだ弟たちじゃないかと思いました。ぼくに弟などいないのです。でもほとんど、名前まで思い出しそうになった。思い出せなかったけれど。
あれは、何だったのだろう。
あらためて考えたら、ちょっと、ぞっとしました。まあ——いいけど。たぶん、楽譜の読みすぎで疲れているのです。