第4話 廊下

文字数 611文字

 友人の看護師が長く勤めていた病院を退職して、次の勤め先が決まるまで派遣をしていた時の話。

 実入りがいいので、夜勤専門の派遣をこなしていた時期があった。
 その病院に初めて出勤した時の事。
 その病院の看護師さんが、
「昨日、急変して三人の方が死亡退院したから、今日の夜勤は落ち着いてると思うよ」
と言う、昨日までは大変忙しかったそうだ。
 そのまま、申し送りもおわり、勤務が始まったばかりの時に、院内が停電した。
 折からの雨で設備が漏電したらしい。
 自家発電になかなか切り替わらず、
 暗闇の中、何名かの入院患者さんが起きだして、運悪く高齢のご婦人が転倒してしまった。
 夜勤の医師を呼び、処置を行い、捻挫と診断された。
 落ち着いているはずの病棟は不測の事態でばたばたし、三時頃やっと落ち着き始めたのだそうだ。
 見回りの時間が三時だったので、彼女がライトを手に廊下を歩いていると、
 何かにつまずいて転んだ。
 先ほどのご婦人と同じ場所だった。
 静かな病棟に転倒した音が響いて、恥ずかしく、そそくさと見回りをすませ病棟に戻った。

 夜勤明けの申し送り後にしきりと足が痛むので、ストッキングを脱いで見てみると、指の形に見える痣があった。
「昨夜の転倒事故の原因はこいつか」と腹立たしく思い、
 廊下に塩をまいて帰ってきたそうだ。
 その後は何もなく派遣も終了し、痣もほどなく消えた。

「アジシオって効果あるかなぁ…」 と豪胆な彼女を私は尊敬している。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み