第95話 お礼参り ~ 大切な親友の為に ~ Bパート

文字数 5,567文字


 そして保健室に入ってからまずは二人の手当てを先に済ませて、妹さんも服をちゃんと着直してから改めていきさつを話し始める。
 妹さんが一通りを穂高先生に話している間、私は昨日も立ち会ってその中身は知っているからと、妹さんに何かをされてベットで寝かされている伸びたままの女子生徒を見るともなしに見ておく。
 しかし、優珠希ちゃんの服が何とも無くてよかった。優珠希ちゃんに何かあったら絶対優希君が心配して笑顔が無くなってしまうのは、想像に難しくない。
「岡本さん。本当にありがとう。今日の事は本当に大きいわよ」
 私がベットで寝ている女子生徒を眺めていたら、あの穂高先生が頭を下げて来る。
「ウチからもおおきに。ちょっとやり過ぎやとは思うけど優珠ちゃんを助けてくれてありがとう」
「……やっぱりアンタもわたし側の人間だったのね。まあ、助かったわよ」
 そして穂高先生に追随する形で二人とも私にお礼を言ってくれる――1人はあまりそうは思ってはいなさそうだけれど。
「私はあくまで友達として今日の事に首を突っ込んだだけだから、そんなに気にしなくても良いよ」
 私としては統括会としてでは

、あくまで

赴いた事を分かって欲しかったのだけれど、
「アンタまさか佳奈と友達とかゆうんじゃないでしょうね」
 妹さんの目が鋭く私の方に向けられ――
「優珠ちゃん。いくら何でも恩人さんにそんな態度アカンで」
 ――るまえに、御国さんがたしなめる。
「良い? 佳奈。前にもゆったじゃない。このハレンチ女を調子乗らせたら駄目だって」
「ちょっと待って。私がハレンチって、優珠希ちゃんに言われたくないんだけれど」
 いくら何でも自分の服装を見てから言ってもらわないと困る……まぁ。見えていた下着はすごく少女っぽくて可愛かったけれど。

 ……期待しても妹さんがどんな下着を付けていたかは言わないよ? こう言う事は男子は知らなくて良い事だからね。

「分かった。あんたがわたしに喧嘩を売るってゆうんなら、今朝のお兄ちゃんとの電話の分もまとめて買うから」
 いやちょっと待って。そこまで言ってしまったらこの腹黒に色々気付かれてしまうんじゃないのか。
「ちょっと待って。貴方たちみんな知り合いなの?」
 ほら。腹黒が食いついて来たよ。
「違うわよ。毎月第一月曜日に統括会の挨拶とかゆうのをやっているのを聞いてるから、知ってるだけよ」
「はい。ウチは知ってる言うか、時々園芸部に顔出して手伝ってくれはるし、仲ようさせてもらってます」
 そう言って優珠希ちゃんに何かの花、ブドウみたいな付き方をした黄色い花の描かれた押し花を手渡すのを、優珠希ちゃんが珍しく嫌そうに受け取る。

 まあ私としては、放課後の遅い時間に礼儀正しく挨拶をして、この保健室を出て来るのを何回か見ているのだから知っているも知らないも無いのだけれど、そうか。そう言う事なのか。
 今までに何度かこういう事があった時に、今日みたいに御国さんを盾にされて妹さんも何も出来ずに、園芸部を荒らされたり、今日みたいに暴力もあったと言う事なのか。(17話)
 そしてその内の一回、保健室での手当てが終わった時を私は見たのか。
「まあ私としては、今まで以上に仲良く出来たら良いなって思ってはいるかな」
 ――お兄ちゃん。
 最後の部分は声には出さずに、口パクだけで妹さんに単語だけを伝える。
「ほんっとに、アンタのそうゆう所、大っ嫌いっ!」
 すると効果てきめんだったのか、私に噛みつかんばかりの勢いで嫌悪感を丸出しにしてくる妹さん――を見て腹黒教師がまた驚いている。
「先生の思ってる通り、この二人。ものすごい気が合うみたいなんですよ」
 私が御国さんの意見に心の中で異議を唱えていると、ベットで伸びていた女子生徒が意識を取り戻す。


 目を覚ましてすぐに妹さんに殴りかかろうと腕を振り上げたそのタイミングで、
「その腕。どうするつもりなのかしら」
 腹黒教師がパーティションの役割をしているベットのカーテンを開け放つ。
「いや。これは起きて背伸びをしていただけです」
「その不自然な腕の角度で?」
 まるで伸びていたとは思えないくらいの明瞭な意思と意識を持って、この分かっているのにいたぶるような言い方をする保健の先生と対峙する女子生徒。
とてもじゃ無いけれど、私にはこの先生のような腹黒い真似は出来そうにもない。
「大体私は暴力を振るわれた方ですよ。どうしてこの後輩の言う事を信じて私にそんな目を向けて来るんですか?」
 腹黒先生の視線を受けて開き直る女子生徒。
「暴力って貴方。この子の制服をほとんど脱がせていたのよね。それに対する正当防衛だって先生は聞いたけど?」
 そして腹黒らしくない涼しい顔で聞き返す。
「正当防衛って。私、気を失ってたんですよ。そんな格好してるくらいなんですから自分から服を脱いだんじゃないかって考えないんですか? どうせ男の気を引きたかったんでしょうし」
 そして妹さんの事を何も知らずに好き勝手な事を言う女子生徒。まあ私もそれほどまだ教えてもらっている訳じゃ無いから、その辺りにも何かあるのか、妹さんのファッションの一環かは分からないけれど。
「貴方ねぇ。何を考えているかは分かったけど。自分から服を脱ぐ女の人なんて

いないわよ」
 それに校内とは言え、自ら脱いでいたとしたら公然わいせつ罪よ。と付け足す穂高先生。
「それに貴方さっきからそれらしい事を色々並べ立てているけど、自分が脱がせた事については否定しないのね」
「……」
 今までの勢いは何だったのか、先生のたった一言に沈黙する女子生徒。
 それを確認した穂高先生が
「じゃあ貴方の名前とクラスを教えてくれるかしら」
 他の三人の時と同じ事を口にする。
「それ。聞いてどうするんですか?」
「あなたがこの子にした事はたとえ同性であっても年齢によってはわいせつ罪になる。それにいじめ防止法にも引っ掛かって来るから、一度担任の先生と相談するのよ。もちろん生活指導の先生や教頭先生ともね」
 先生の言葉を聞いてやっぱりその自覚自体はあるのか、自分が被害者だって言っていたにもかかわらず、顔色を変えて黙り込む。
「この子。岡本さんのクラスの子?」
「いえ違います。たださっきの女子は同じクラスです」
 だからさっき何も言わずに逃げて行った女生徒の身元だけでもと私がバラすと
「岡本っ! “統括会”は生徒を守るんじゃないのかよ!」
 ここが保健室の中と言う事も忘れて、怒鳴り散らしながら襟を掴まれる。
「守る? 守るって何から? これ以上どうやって守るのよ。私さっきのクラスメイトに何度も何度も言っていたの。これ以上私の

にオイタをしたら私、キレるよって。私の足を思いっきり蹴った事も明るみにならないと良いねって。さっきも私の足を蹴った事をその場で収めるのか、先生に言う方が良いのか全部選ばせてあげたじゃない。それはあの時全員聞いてたんじゃないの? なのに、

止めなかったんじゃないの? “知らなかったんならともかく、知っていて止めなかったんだから、同罪”に決まっている『――っ!!』じゃない」
 そう言って、私は掴まれていた手を振り払う。
「それに、いくら何でも統括会でも出来ない事はあるに決まっている。法律に関する事、犯罪に関する事なんて、統括会で何とか出来るわけがない。そう言うのは弁護士――にでもお願いして」
 そこで、いつか優珠希ちゃんが法学部関連の過去問ばかりを重点的に解いていた事を、赤本を借りて過去問を解いていたらしき事を思い出す。
 ひょっとしたらもっと前から色々あって、この状況を打破するためにそう言う道に進む事を考えていたのかもしれない。
「もう一つ。統括会はあんたらの親じゃ無いんだから自分で蒔いた責任は自分で取るか、親に取ってもらいないよ」
 せっかくだからと、今まで言いたい事を我慢してた内の半分くらいをぶちまけさせてもらう。
 それでも最後まで私を睨むだけで、何も言わずに帰っていく女子生徒。どうして学校と言う狭い空間で逃げ切れると思うのか。この広い世間でも犯罪者が逃げ切れることなんてほとんどないと言うのに。
 そう考えると、最後まで浅はかな同学年らしき女子生徒にため息しか出て来ない。


 結局その後は簡単な話だけで、下校時刻のチャイムが鳴ったからと
「明日多分話を聞かせてもらう事になると思うから、少しだけで良いから朝早めに来てもらえると助かるわね」
 伝言だけを聞いてほんの途中までの道を三人で歩いて帰る。
「……今日は助かったわよ。正直今まであそこでいつも詰まってたから」
 日によっては備品を荒らされる日もあったり、穂高先生についてもらっている日には何もなかったりと言うのがずっと続いていたみたいだ。
「ほんまにごめ――ありがとうな。いつもウチの親友をやってくれてて」
「何ゆってるのよ。そんなの今更でしょ。それよりも今はあのオンナがいるんだから我慢するのよ」
 そう言ってあの日の放課後のように御国さんを抱きしめる。  ※23話の事
「……」
 だから私は御国さんが優珠希ちゃんにしか見せない表情を見ないために。優珠希ちゃんが自分にしか見せて欲しくない御国さんの表情を私が見ないために、敢えて視線を逸らす。
 明日からはもう少し笑顔になれると分かっているから、人の笑顔が大好きな私は、その明日を楽しみにする。
「じゃあ私。帰る方向こっちだから」
 ほんの途中までの帰り道。私はそのまま振り向く事なく自分の家に歩を進める。
「――ありがとう……――……――」
 誰かの嗚咽で半分以上かき消された妹さんの言葉を背に。


 下校チャイムが鳴ってから家に帰ったのだから、いくら夏の陽が長くてまだ明るいからとは言え、もうかなり良い時間にもかかわらず、まだ慶が帰って来ていない。
 仕方が無いから先に夜ご飯の用意とお風呂の準備を済ませようと一度部屋着に着替える。

 シャワーも含めた一通りの準備を済ませたにもかかわらず、まだ慶が帰って来る気配はない。
 先週はお父さんが帰って来て慶のお小遣いの話をしているから、今週は間違いなくお母さんが帰って来てくれるはずなのだ。だからこっちも慶と話してどういう理由でいくら増やして欲しいのかそう言うのもきちんと話しておきたい。
 ちなみに私は慶がいくらもらっているからとかは全然知らない。ただ私は、家の事をするのに必要になるからと言う事で、通帳自体を任されている。
 だからってお父さんとお母さんが私達の為に働いてくれている大切なお金。余計な事に使おうとか、そう言う気持ちには中々ならない。
 そんな事を考えていると、やっと慶が帰って来たのか玄関のドアが開く音がする。
「……」
「慶。あんたいつまで外で歩いてんの?」
 そして無言でリビングに入って来る慶。誰が帰って来たとか、入って来たとか分からないと不安だから声を掛けてと言っているのに、少し前の慶に戻ったかのような雰囲気を感じる。
「うっせーな。テスト終わったんだから良いだろ」
 私に一言言い捨てて着替えるためか、一度自分の部屋に戻る慶にお風呂に入れることだけは伝える。

 そして二人だけの夕食時。
「慶。最近帰って来るの遅いけれど、テスト終わったからってちょっと気を抜き過ぎじゃないの?」
 これじゃあ少し前に慶と大喧嘩した時とそう変わらない。
「もう俺の事はほっとけよ」
 慶が何にイラついているのか分からない。
「ほっとけって……お小遣いの事、お姉ちゃんからお母さんに頼まなくて良いの? 自分でお母さんに言うの?」
 慶の話と言うか、お願いを聞くっていう話をするのに、なんで私が不機嫌な態度を取られないといけないのか。
 いくら反抗期か何かは知らないけれど、いくらなんでも勝手すぎる。
「もう良い。オヤジから頼んでもらう」
 いやお父さんからって……
「ちょっと慶。何が気に入らないのか知らないけれど、ちょっと勝手すぎるんじゃないの?」
 じゃあ何のために今朝テーブルの上に返却された答案用紙をこれ見よがしとばかりに置いていたのか。
 言ってる事とやってる事がチグハグ過ぎて意味が分からない。
「それと最近、朝遅いけれど遅刻せずにちゃんと学校行ってるんでしょうね」
 今朝も少し早い目に家を出たとはいえ、本来私よりも早く家を出ないといけない慶が起きてすらいないのだから気になるに決まっている。
「ちゃんと行ってるって。そんなに疑うなら学校に電話して聞けば良いだろ。それに今朝はねーちゃんが誰かと喋ってたから部屋から出なかっただけだっつうの」
 なのに私のせいで部屋から出なかったと言う。電話のせいでリビングに入って来れなかったとか聞いた事が無い。
「分かった。そこまで言うならもうお姉ちゃんは知らない。自分で勝手にしたら良いよ。それと今週はまだ連絡無いけれど、多分お母さんが帰って来ると思うから、自分で言うなら考えて喋りなよ。お姉ちゃんは関わらないから」
 あまりにもアホらしくなった私は、そのまま今日休んだ咲夜さんに電話しようと、慶の事は放っておいて、自分の部屋に戻る。

―――――――――――――――――次回予告―――――――――――――――――
   『愛さんに彼氏さんが出来てから、わたしに対して冷たすぎるんだよ』
               抗議の電話の朱先輩
        「おい岡本。昨日はよくもカマしてくれたな」
         当然昨日の事は耳に入っている昨日の女生徒
      「分かった。岡本が怖いんならこっちで何とかしてやる」
               作り上げられる話

          「やっぱり愛ちゃんは愛ちゃんだねぇ」

           96話 断ち切れない鎖 4 ~産声~
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