第一章 『お姫様』と彪

エピソード文字数 1,127文字

 次の日の午後、休憩時間に、彪は再び暎蓮の待つ『雲天宮』へと行くことになっていた。夕方、再び集合ということにはなっているのだが、暎蓮が、『それなら、明日もご一緒にお茶を』と言ったのだ。……今夜の作戦会議も兼ねて、というのが、彼女の言い分だったが、どう見てもそれは言い訳で、彼女が彪と一緒に過ごしたいからだということは、彪でなくとも明白だった。……彪は、またしても照れで顔を赤らめながらも、その気持ちがうれしく、結局その言に従うことにしたのであった。
 部屋を出る時、ふと思い出して、制服の単衣の袖に、昨日から全く進捗していない『術』の陣形を描いた紙を、しまい込む。……忘れないで、今日こそ、お姫様から助言をもらわなきゃ。

「……彪様!」
 『雲天宮』の門が見えてくると、いつもの『斎姫』専用の衣装をまとった暎蓮が、例によって笑顔で手を振って彼を待っていた。
 彪は、顔を赤らめつつも、それでも一応、言ってみた。
「お、お姫様。みだりに、宮殿の外に出ちゃ、だめだよ。誰かに顔を見られたら……」
「大丈夫です。……ここは、城の最奥部。この宮殿に関係のない方は、いらっしゃいませんし、警備の方々は、大半が、私が幼き頃からこの宮殿を護ってくださっている方々です。……皆様は、もはや『親戚のおじさま』たちのようなものなのです」
 彼らがそう言いあっていると、まさにその門前の兵士が、
「姫様。白点様のおっしゃる通りですよ。宮殿外の誰かにご玉顔を見られたらどうなさるのです。……それに、あなた様はこの国の『宝』である、『斎姫』様。わたくしたち兵士などと、『親戚同様』などとおっしゃってはいけません」
 と、口を出してきた。
 言葉の割には、彼女の様子がほほえましいのか、笑いを隠せないように言う兵士に、
「あら。だって、私が小さなころは、よくお庭で遊んでくださっていたではないですか。ご一緒に、お人形遊びや、おままごとなどで。……近ごろ、皆様は、あまり私と遊んでくださらないので、つまらないです」
 少しばかり拗ねたような口調で言う暎蓮に、
「姫様。ご自分のお立場をお忘れですか。あなた様は、もはや、『斎姫』様であるのと同時に、この国の『王妃』様なのですよ。警備兵などと遊ばせておくわけにはいきません」
 彼は、笑いをこらえた顔を崩さないまま、言った。
「お人形遊びは、もう、ご卒業ください」
 暎蓮は、がっかりしたような顔をした。
「お人形遊びも、おままごとも、あんなに楽しかったではないですか」
「今は、お人形の代わりに、白点様と楽しくお話されていらっしゃるでしょう」
 それを聞くと、暎蓮の顔が、輝いた。彪の片手を握り、彼を体ごと自分のそばに引っ張り、言う。
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登場人物紹介

白点 彪(はくてん ひゅう)

十三歳。『玉雲国』の『宮廷巫覡』で、強力な『術』を使える『術者』でもある。

この国の『斎姫』で初恋の相手、十一も年の違う憧れの『お姫様』である暎蓮を護るのに必死。

温和な性格。

甦 暎蓮(そ えいれん)

二十四歳。しかし、『斎姫』としての不老の力で、まだ少女にしか見えない。『玉雲国』の王である扇賢の妃。『傾国の斎姫』と言われるほどの美女。世間知らず。

彪が大のお気に入りで、いつも一緒にいたがる。しかし、夫の扇賢に一途な愛を注いでいる。

使う武器は、『破邪の懐剣』と『破邪の弩』。

桐 扇賢(とう せんけん)

十七歳。暎蓮の夫にして、『玉雲国』の王。『天帝の御使い』、『五彩の虎』の性を持つ。単純な性格ではあるが、武術や芸術を愛する繊細な面も。

生涯の女性は暎蓮一人と決めている。

彪とはいい兄弟づきあいをしている。愛刀は、『丹水(たんすい)』。

関 王音(せき おういん)

二十代後半。扇賢のもと・武術の師で、宮廷武術指南役。美しく、扇情的だが、『天地界』中にその名と顔が知れ渡っているほどの腕の『武術家』。

暎蓮にとっては、優しい姉のような存在。彪や扇賢にとっては、やや恐れられている?

愛刀は『散華(さんげ)』。

ウルブズ・トリッシュ・ナイト

二十代後半(王音より少し年下?)。扇賢のしもべで、『玉雲国』ただ一人の『騎士』を自称する、人間界の西方が出自の金髪美男。暎蓮に懸想しており、彪や扇賢とは好敵手関係?戦うときは銀の甲冑と大剣を持つ。マイペースな性格。

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