第一章 『お姫様』と彪

エピソード文字数 7,847文字

 次の日の午後、休憩時間に、彪は再び暎蓮の待つ『雲天宮』へと行くことになっていた。夕方、再び集合ということにはなっているのだが、暎蓮が、『それなら、明日もご一緒にお茶を』と言ったのだ。……今夜の作戦会議も兼ねて、というのが、彼女の言い分だったが、どう見てもそれは言い訳で、彼女が彪と一緒に過ごしたいからだということは、彪でなくとも明白だった。……彪は、またしても照れで顔を赤らめながらも、その気持ちがうれしく、結局その言に従うことにしたのであった。
 部屋を出る時、ふと思い出して、制服の単衣の袖に、昨日から全く進捗していない『術』の陣形を描いた紙を、しまい込む。……忘れないで、今日こそ、お姫様から助言をもらわなきゃ。

「……彪様!」
 『雲天宮』の門が見えてくると、いつもの『斎姫』専用の衣装をまとった暎蓮が、例によって笑顔で手を振って彼を待っていた。
 彪は、顔を赤らめつつも、それでも一応、言ってみた。
「お、お姫様。みだりに、宮殿の外に出ちゃ、だめだよ。誰かに顔を見られたら……」
「大丈夫です。……ここは、城の最奥部。この宮殿に関係のない方は、いらっしゃいませんし、警備の方々は、大半が、私が幼き頃からこの宮殿を護ってくださっている方々です。……皆様は、もはや『親戚のおじさま』たちのようなものなのです」
 彼らがそう言いあっていると、まさにその門前の兵士が、
「姫様。白点様のおっしゃる通りですよ。宮殿外の誰かにご玉顔を見られたらどうなさるのです。……それに、あなた様はこの国の『宝』である、『斎姫』様。わたくしたち兵士などと、『親戚同様』などとおっしゃってはいけません」
 と、口を出してきた。
 言葉の割には、彼女の様子がほほえましいのか、笑いを隠せないように言う兵士に、
「あら。だって、私が小さなころは、よくお庭で遊んでくださっていたではないですか。ご一緒に、お人形遊びや、おままごとなどで。……近ごろ、皆様は、あまり私と遊んでくださらないので、つまらないです」
 少しばかり拗ねたような口調で言う暎蓮に、
「姫様。ご自分のお立場をお忘れですか。あなた様は、もはや、『斎姫』様であるのと同時に、この国の『正妃』様なのですよ。警備兵などと遊ばせておくわけにはいきません」
 彼は、笑いをこらえた顔を崩さないまま、言った。
「お人形遊びは、もう、ご卒業ください」
 暎蓮は、がっかりしたような顔をした。
「お人形遊びも、おままごとも、あんなに楽しかったではないですか」
「今は、お人形の代わりに、白点様と楽しくお話されていらっしゃるでしょう」
 それを聞くと、暎蓮の顔が、輝いた。彪の片手を握り、彼を体ごと自分のそばに引っ張り、言う。
「そうなのです!……彪様は、とても、かわいらしいでしょう?まるで、上等なお人形さんのようだと、思われませんか?」
 そのあまりな言われように、愕然とする彪を尻目に、暎蓮は生き生きと言う。
「彪様は、見た目も愛らしいですが、それだけではなく、とても頼りになるお方なのですよ。私の知らないことをたくさんご存知で、いろいろと教えてくださるのです。……確かに、そうです。普通の『お人形遊び』より、彪様と過ごすほうが、ずっと楽しいのです!」
「それは、よかった」
 兵士は、それを聞いて、ついに、破顔した。
「山緑殿もおっしゃっておいででしたよ、白点様が宮廷にいらしてから、姫様はお元気になられたと。……しかし、姫様」
 兵士は、小さな声で、言った。
「くれぐれも、扇王様がやきもちを焼かれない程度になさいませ。扇王様は、こと、姫様のことになると、理性が吹き飛ぶようですから。ご兄弟分であられる、白点様がお相手では、なおさら、そのお立場がないでしょうからねえ……」
「あら」
 暎蓮は、それを聞いて、真っ赤な顔をした。
「わ、私、そんなつもりでは……」
「そうでなければ困りますよ。……白点様が」
 兵士はそう言って、笑いながら、暎蓮の後ろで、硬直したまま顔を真っ赤にしている彪に向けて、言った。
「……白点様。姫様は、これまで世間と隔絶されていた分、まだお心が幼くていらっしゃいます。どうか、あなた様がお持ちのお知恵で、姫様をお護りして差し上げて下さい。……扇王様とは別の面から」
「は、はい……」
 彪は、なんとか答えた。その彼に、兵士は、さらに言う。
「当分の間は、姫様のお好きな、おままごとやおはじき遊び、貝合わせなどにさんざんおつきあいさせられることになるでしょうが、どうか、御辛抱ください」
「ま、ままごと……」
 さすがに、彪が顔を引きつらせる。……暎蓮はさらに顔を真っ赤にして、兵士に向かって叫ぶようにして言った。
「……もう!彪様にそんなことばかりおっしゃるなんて、お人が悪すぎます!」
 暎蓮は、頬を赤くしたまま、まじめな顔になり、言った。
「私は、もう、『人妻』です。そんな、『子供』ではありません」
「おや。お人形遊びからご卒業なさる御覚悟が、やっとできましたか?」
 兵士の言葉に、暎蓮はあわてて、
「……今後は、お人形で遊ぶのは、彪様と扇賢様とだけにします」
「それはそれは。扇王様は、姫様と遊ぶのだけはお苦手なご様子で、さんざん逃げ回っていらっしゃるようですから。……となると、残された白点様も、大変なことになりますなあ」
「お願いです、私から、彪様だけは、取り上げないでください!」
 暎蓮が、真剣に懇願する。その様子を見て、兵士は大笑いした。そして、彪に向けて、
「……白点様。と、いうわけですから、今後とも、姫様のお相手をよろしくお願いいたします」
 と言った。彪が、真っ赤な顔で、どうにか、
「……は、はい……」
 と、返事をする。
 暎蓮がそれを聞いて、ほっと息をついた。
 兵士は、そんな暎蓮をからかうのをやめると、楽しげに笑い、しかし、言った。
「しかし、本当ですね。姫様は昔と比べて、ずいぶんと明るくなられた。それもこれも、扇王様と御結婚され、白点様がいらしてくださったからこそ。わたくしどもは、本当に良かったと、思っているのですよ」
 彪は、悟った。
(この、『雲天宮』の警備の方々は、きっとみんな、お姫様のことが、まるで自分の子供みたいに、かわいくて仕方がないんだ……)
 彪の心は、温かくなった。
 彼は、言った。
「お姫様のことは、俺……私も、出来る限りお護りします。……扇様……じゃなくて、扇王様の補助として」
 それを聞いた兵士は、にっこりと笑って、言った。
「ありがとうございます、白点様。姫様を、これからもよろしくお願いいたします」
 彪は、しっかりとうなずいた。
「はい」
 暎蓮が、彼の手をもう一度握る。その顔が、うれしそうだ。
「……それでは、私たちは、そろそろまいります。……もう、彪様に、私のことで、妙なことをおっしゃらないでくださいね!」
 暎蓮は、文句を言っているようだが、それにしてはご機嫌な顔で、彪の手を引き、兵士に一礼して、彼を連れて門内に入っていった。
 彪が門内に進みながら、兵士を振り向くと、彼も振り返って、優しく彪に向かって微笑んでいた。……お互い、気持ちが通じ合ったかのように、うなずき合う。
 彪は、暎蓮が皆から愛されていることを感じて、再び、うれしさで心が満ちていた。

「……彪様、今日は、なにをして遊びましょうか」
「えっ!?」
 『応接の間』内で、卓をはさんで向かい合って座し、暎蓮は、例によって、彼のために茶を淹れながら、言うのだった。
「あ、遊び?」
「はい。今日は、ご一緒に、午後のお茶を楽しみながら、『お遊び』をしようと思っていたのですよ」
 暎蓮が、急須のふたを押さえながら、楽しげに言う。
「お、お姫様。……今日は、『作戦会議』だって、言ってなかった?」
 どもる彪の言葉に、暎蓮は、そこで初めて、我に返ったようだった。顔を赤らめる。
「あら」
 しかし、気を取り直したように、茶を淹れつづけながら、再び、彼女は、言う。
「ですが、まだお時間は充分にあります。もちろん、『作戦会議』も大事ですが、それは楽しく遊んでからでも……」
 彪は脱力した。
「お姫様……」
 暎蓮は、その彪の様子を見て、ふくれっ面になった。
「少しくらい、私と遊ぶお時間を作ってくださっても、よいではないですか。……『作戦会議』は、あとで、ちゃんと、やりますから!」
 ふくれていてもかわいらしい暎蓮の姿に、彪は、……負けた。
 一つ、ため息をつくと、彼は暎蓮に向かって、笑ってみせた。
「なにをして遊ぶ?……お姫様」
 暎蓮の表情が、再び輝いた。
「実は、彪様とご一緒に遊ぼうと思って、以前からずっと、紙で『着せ替え人形』と、そのお衣装を作っておいたのです!」
「……き、『着せ替え人形』?」
 その言葉に、『女児の遊び』の雰囲気を感じ、微妙な年齢である少年の自分には、なんともいやな予感がした彪が、問い返している間に、暎蓮は立ち上がり、部屋の隅の棚の上に置いてあった木箱を取り出してきた。
 彪と、卓をはさんで、再び向かい合って座し、卓の上に乗せたその木箱のふたを、両手で持ち上げ、箱を開ける。
 ……中に入っていたのは、おそらく暎蓮の手書きだろう、意外に上手い絵で描いてあるかわいらしい女児の、現代でいう、肌着に近い、『薄物』をまとった立ち姿の切り取った紙人形と、同じくかわいらしい男児の薄物をまとった立ち姿の紙の人形に、薄物だけの姿の人形の上に着せるための、やはり紙で作った、さまざまな形の衣服の絵の数々だった。
 紙でできた衣装には、ちゃんと、色筆(いろふで)(この世界では、色ペンに当たる)で、仔細に色彩や紋様がつけられている。
 彪は、それを見ただけでも腰が引けたが、その男児の絵の顔が、どことなく自分に似ている事実に、もっと慄然とした。
 ……俺の顔は、漫画にしやすい顔なんだろうか。
 これは、明らかに、自分と一緒に遊ぶために作った紙人形だ。……再び、彪の顔が引きつる。
 暎蓮は、彼のその様子には全く気付かず、その紙人形と衣服の数々を箱から出しながら、楽しげに言った。
「……はい、これは『彪様』です。こちらは、私、『暎蓮』。……昨夜、『彪様』用のお衣装もたくさん作っておきましたので、どんなものでも着せ替え放題ですよ」
「き、『着せ替え』っていうのは、文字通り、こ、この人形の服を、着せ替えて遊ぶわけ?」
 単衣の袖で、こめかみを伝う汗をぬぐいながら、彪は問い返した。
「そうです!このお人形のお衣装を、場面や場所によって取り替えつつ、『彪様』と『暎蓮』が、ご一緒に、遊ぶのです」
 そう言って、暎蓮は、彼の手に『彪様』人形を押し付けた。……彪は、その人形を思わず受け取ったが、すでに、心の底から、……参っていた。
 しかし、自分とは真逆に、心の底から楽しげな暎蓮の姿を見ると、『もう、勘弁してくれ』とも言えず、仕方なく、言った。
「えーと、じゃあ。……どれを着せればいいの、俺は、この人形に?」
「『人形』ではなく、『彪様』です」
「……『彪』に」
 彼は、ぼそぼそと、言い直した。
「まずは、新しいおうちにお引越しをするところから始めましょう。……そうですね、お引越しは、おそらく『汚れるお仕事』でしょうから、ひとまず、この『雲天宮・特別整備班』の方々の『作業着』をお召しになってください」
「わ、わかった」
 庶民の出の彼にとっては、この、木箱の中に用意された、紙でできた貴族たちの衣装の中では異色である、この『作業着』が一番抵抗なく着せられるものかもしれなかった。
 彪は、暎蓮から、
「この木箱の中のお衣装の半分が、『彪様』用のものですから、場面によって、ご自分のお好みのものをお選びになって、お召替えを」
 と、指図を受け、再び、
「わ、わかった」
 と言った。作業着の端が、フックのように折り曲げられており、それを紙人形の肩に引っ掛けると、衣装が装着できるというわけだ。
「……着せたよ」
 彪が言うと、暎蓮は、うなずき、言った。
「では、私は、この、侍女の方のお衣装が、お引越しには、動きやすそうですので、これを着せます」
「う、うん」
 暎蓮は、なにを考えているのか、姿勢を正し、厳かな手つきで、まじめに『暎蓮』人形に侍女の衣装を着せかけた。
「それでは、お引越しです」
「どうすればいいの?」
 彪の問いに、彼女はにっこりして、木箱一式を持ち、立ち上がった。
「ここからは、『遊戯室』で、お遊び開始です。お引越しも、そこで始めましょう。……とにかく、まいりましょう、彪様」
「『遊戯室』?」
「私がここ『雲天宮』に住み始めたのは、二歳の時からですから……」
 彼女は、部屋を出ようとしながら、彪を振り返った。彪も、『彪様』人形を持ったまま、あわてて立ち上がる。
 彼女は廊下に出て、歩き出しながら、言った。
「子供のころから、遊び相手は山緑一人でしたので、山緑がお仕事の間、一人で遊ぶ時もつまらなくないよう、先代のこの国の王様である『一王(いちおう)』様からのお許しを得て、この宮殿内に、私の父である『清河大臣(せいがのだいじん)』が、一人遊びをするための設備のある部屋……つまり、『遊戯室』を、もうけてくれたのです」
 彼女につづいて歩きながら、彪は、彼女のその言を聞いた。
「……さびしかった?」
 彼女の小さな背中から、どことなく沈んだものを感じた彪は、問うてみた。
「……『一人』というものは、よい時もありますが、大好きな方々が増えてくるようになると、それだけさびしくも感じられる時もあるものです。ですから、子供のころの私には、大好きな山緑がそばにいてくれて、よかったのですが。……でも。山緑は、私の乳母でもありますが、この宮殿に勤務なさる方々の責任者というお仕事がありましたから、そういつも一緒にはいてもらえず。私は、子供のころに、一人で時を過ごすことも、多かったのです」
「じゃあ、今は、山緑さんもいるし、それから、扇様もいてくれて、よかったね」
 暎蓮は、振り返り、彪に向かって微笑んで見せた。
「はい。そして、私には、彪様もいてくださっています」
 彪は、顔を赤らめ、目を伏せた。
「お、俺なんか……」
「いいえ。……初めて彪様とお会いした時から、思っていたのです。『彪様と私の『気』の相性度は、抜群だ』と」
 暎蓮は、照れている彪の手を取って、彼と手をつなぎ、今度は並んで歩いた。
「そして、それは、決して間違いではなかったのです」
 彼女は、そう言うと、彼に向かってにっこりし、……そして、ある房の前で足を止めた。
「ここが、『遊戯室』です」
 彪は、その入り口を見た。大きな扉の中央に、札がかかっており、その札には、『天地文字(てんちもじ)』で、……もしかすると、山緑が作ってくれたものかもしれないが、『えいれんのあそびば』とカラフルな布地でアップリケがついていた。 
 彪は、思わず笑った。
「ずいぶん、かわいいね」
「子供の時からのものですから……」
 暎蓮は、さすがに照れたように、言った。
「さあ、中に入りましょう」
 彼女はそう言って、彪のために扉を開けてくれた。中を覗き込んでみると、……思ったより、ずいぶん、広い部屋だ。……彪は、思った。
 中には、今も体の小さな彼女や、彪ぐらいの子供なら、まだ遊べそうな、滑り台や、鞦韆(しゅうせん)(ブランコ)など、遊具の類がたくさん並んでおり、そのほかにも、人形遊び用だろう、リアルな家のミニチュア模型や、積木やブロックなど、それから、女児の好きそうな、人形、動物のぬいぐるみなど、おもちゃの数々が置いてあった。
(……確かに、かわいいけど……)
 彪は、まだ小さかった彼女が、この広い部屋で一人で遊んでいたことを考えると、少し胸が痛くなった。……お姫様は、はたから見れば、恵まれた、貴族の『お姫様』だけど、……俺たち『庶民』と同じ気持ちを味わうこともある、『一人』の時もあったんだ。
 そう思った彼は、腹を決め、暎蓮に付き合うことにした。
 彪は、笑顔を作り、暎蓮に向かって、言った。
「それで、『引っ越し』は、どこにするの?」
 それを聞いた暎蓮が、うれしそうに答えた。
「はい。……あの、おうちの模型がいいかと思います。ご一緒に、家具を運び入れましょう」
 二人は、紙人形を片手に、家のミニチュアのところまで歩いていき、その周りに置いてあった、おもちゃにしては精巧な家具の数々を、選びだした。
 彪は、暎蓮が楽しそうな姿を見て、自分もうれしかった。……これで、少しは、さびしかった思い出が、消えるといいけれど……。

 ……暎蓮を喜ばせるためとはいえ、彪は慣れない女児の遊びに疲れ切ったが、彼らは結局、休憩時間いっぱいを使い切って、『遊戯室』で遊んでしまった。

「……楽しかったですね、彪様」
 日時計を見て、休憩時間が終わりに近いことを知り、残念そうに、おもちゃの数々を片付けだした暎蓮は、言った。
「もうお時間だなんて、残念です」
 彪は、疲れを顔に出さないようにしつつも、笑って見せた。
「……お姫様が、楽しかったなら、よかったよ」
「ありがとうございます。……あら。でも。結局、『作戦会議』はできませんでしたね」
 いかに精神的に子供の暎蓮でも、さすがにまずいと思ったのか、彼女は少しあわてて、言った。
「もう、しょうがないよ。あとは、夜、本番の時、『出たとこ勝負』で、決着をつけよう」
「そうですね……。申し訳ありません、彪様」
「気にしないでいいよ。……俺も、楽しかったから」
 彪は、多少苦しいと思いつつ、それでもなんとか、言った。そして、話を改めた。
「だけど、今日の夜のこと、本当に扇様に言わなくてもいいの?」
「扇賢様は、きっとご公務でお疲れでしょうから……」
 暎蓮が本当に彪と二人だけで今回の仕事をしようとしていることに、彪は改めて気を引き締めた。
(本当は、こんな遊びをしている場合じゃなかった気がするけれど。……まあ、仕方がないか)
 ……あらかた、おもちゃの類を片付けたところで、二人は一度、居間に戻った。
「じゃあ、俺はそろそろ『宇天宮』に戻るよ。……仕事もしないとね」
「はい。……では、ご門までお見送りします」
「わざわざそんなこと、いいよ。……また、夕方にはすぐに会えるんだから」
 暎蓮は、彼に向かって、優しく微笑んだ。
「……それでも、私は、お見送りしたいのです」
 彪は、その彼女の発言と微笑みに、また照れで顔を赤らめた。……だが、それ以上断り切れず、結局二人は門まで一緒に行った。
「それでは、お仕事、頑張ってください、彪様」
「ありがとう。……お姫様も、修行、頑張って」
「はい。ありがとうございます」
「それじゃ、仕事が終わったら、また」
「はい。お待ちしております」
 彼らは、微笑み合い、別れた。……暎蓮は、彪の姿が見えなくなるまで、門の中から、彼の姿を見送っていた。それに対して、彪は、何度も振り返り、彼女に手を振った。
 その二人の純な姿は、誰が見ても、とても微笑ましかった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

白点 彪(はくてん ひゅう)

十三歳。『玉雲国』の『宮廷巫覡』で、強力な『術』を使える『術者』でもある。

この国の『斎姫』で初恋の相手、十一も年の違う憧れの『お姫様』である暎蓮を護るのに必死。

温和な性格。

甦 暎蓮(そ えいれん)

二十四歳。しかし、『斎姫』としての不老の力で、まだ少女にしか見えない。『玉雲国』の王である扇賢の妃。『傾国の斎姫』と言われるほどの美女。世間知らず。

彪が大のお気に入りで、いつも一緒にいたがる。しかし、夫の扇賢に一途な愛を注いでいる。

使う武器は、『破邪の懐剣』と『破邪の弩』。

桐 扇賢(とう せんけん)

十七歳。暎蓮の夫にして、『玉雲国』の王。『天帝の御使い』、『五彩の虎』の性を持つ。単純な性格ではあるが、武術や芸術を愛する繊細な面も。

生涯の女性は暎蓮一人と決めている。

彪とはいい兄弟づきあいをしている。愛刀は、『丹水(たんすい)』。

関 王音(せき おういん)

二十代後半。扇賢のもと・武術の師で、宮廷武術指南役。美しく、扇情的だが、『天地界』中にその名と顔が知れ渡っているほどの腕の『武術家』。

暎蓮にとっては、優しい姉のような存在。彪や扇賢にとっては、やや恐れられている?

愛刀は『散華(さんげ)』。

ウルブズ・トリッシュ・ナイト

二十代後半(王音より少し年下?)。扇賢のしもべで、『玉雲国』ただ一人の『騎士』を自称する、人間界の西方が出自の金髪美男。暎蓮に懸想しており、彪や扇賢とは好敵手関係?戦うときは銀の甲冑と大剣を持つ。マイペースな性格。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック