第16話 時代のカワリメ、退位礼の日

文字数 2,702文字

平成最後の日を迎えちゃったけど……。
総裁が倒れちゃったまま、平成が終わって令和になっちゃうの? ヒドイっ!
ほんとにヒドイよねー。著者さんもなんとか復旧してくれないとねー。
総裁も著者さんもほんとうに心配ですわ。
その著者さんが具合悪い中描いたらしいですよ、これ。
総裁のイラスト……。でも総裁、笑ってない……。
なにか思いつめた表情ですわ。
著者さんもしんどいんだろうねー。
少しでも総裁と著者さんの心配の種が減ってくれればと思って、私も頑張ってるけど……。
私もなにかできることがないかなって探してます!
それに、明日は令和初日だけど、そこでYouTubeライブやるのかなあ。ここまでのライブスケジュール見るとやる感じだけど。
えええっ、著者さん轟沈のままライブは出来ないわよっ。ヒドイっ!
どうするんでしょうか。せっかくライブへのお便りも届いているのに。
天気が悪い……。ただでさえ体調崩しがちの著者さんだからなあ。
雨だもんね、外は。こういう気圧の乱れが体調に来るんだもんね。著者さん。
ねー、天気が回復したら著者さんといっしょに総裁も回復するんじゃない―?
そうだといいんだけど……。
これはわたくしたちエビコー鉄研の存続に関わる重大な危機ですわ。
おもわぬことになっちゃったね。でも、ここでぼくたちになにができるんだろう。
うーん、うーん……ぜんぜんおもいつかないよー!
あれ、ミエさんこんなときに工作してる。
こんな時だからです。
ケムリクサ電車ですか。東京タワーのお土産置物をつかってケムリクサの世界観に。
そうです。総裁と著者さんにもしものことがあったとしても、それで私もくじける訳にはいかないですから。

それにこれ作ってる間、LEDを点灯させる回路をショートさせて片方壊しちゃったんです。

ひゃー、本当ですか! ヒドイっ!
その時思い出したんです。

「回路を焼損させないで一人前になったやつなどいない!」という総裁の言葉。

ああー、総裁ならそう言うよね。
私もしっかりしないと。総裁が復旧するまで、がんばらないと。
総裁、復旧するかなー。さすがに心配だよー。
私は信じてます。総裁も著者さんもそんな簡単に諦めたりしない、と。
でもさすがに今回は厳しそうだよー。
それでも信じてます。そして、それが叶わなかったとしても、私は続けます。

それが総裁といっしょにやってきたことの本当の意味だし。

意味、か……。されど鉄道模型、って総裁、言ってたね。
このジオラマ、総裁といろいろ話しながら作ってたんです。

だから、完成させないと。

いい廃墟感が出てますわ。アニメ「ケムリクサ」の劇中の世界がよく表現されてますわ。
廃墟の「埋もれ感」とか、「最後に彩度を落とす」とか、そういう話、総裁としてきたの、忘れないです。

そういう楽しい日々がこれで終わるとしても。

なんにでも終わりはありますわね……寂しいことですが。
幸いショートの原因はある程度つかめました。これで回路焼損は防げると思います。
でも、これで終わっちゃうのかなー。
わたくしたちも、今度という今度は、少し覚悟しなくてはならないかもしれませんわ。
辛いけれど、いつか訪れる日だからなあ。
寂しくてヒドイっ、と思うけど……仕方ないのかな。
永遠を誓って永遠だったことはないと思う。この世の全てはそういうものだし。
そういえば、私達はほとんどみんな、昭和から平成へ変わる瞬間を知らないのよね!
みんな、ジトッとした目でセンパイを見る。
えーっ! 私もいくらなんでもそんな前から生きてないです!
まあセンパイもいくら歳ごまかしてても30歳以上ではなさそうだから。中の人はどうかわかんないけど。
中の人なんていません! って、それはそうと!

著者さんが高校生になるときがちょうど平成元年だったのよね!

そういえばそうですね。
たしかJR相模線の電化の年だったのですわ。著者さんはその相模線のディーゼル車時代から電車化されるところを写真に収めていたはず。そして相模線の西寒川支線の廃止の様子も知っていると思いますわ。
そうか……天気も悪いけど、こういう追い詰められた状態でいろんなことが胸に去来しすぎて、それで著者さんは気持ちがオーバーフローしてるのかも。
著者さんの作家人生も平成そのものだったわけだよねー。
著者さんの作家デビューは平成9年。作家になろうと思ったのはほぼ高校入学と同時。

だから、そうかもしれない。

デビューまで10年の助走期間。デビュー後20年で平成が終わる。有名にはなれなかったけど、ほんと、平成の作家だったのよね。ヒドイっ。
そう考えると、著者さんも総裁も胸の中がぐっちゃぐっちゃかもしれないよねー。

少なくとも晴れやかに令和を迎えるには、ちょっといろんなことがありすぎたよー。

心の整理が全然ついてないのね。そりゃ、天気のせいだけじゃない、かも。
でも。
カオルが言葉を切って言い出した。
著者さんにはいい加減、ココロの整理をつけてもらわなくちゃ困ります。

でなきゃ、ぼくら、こうして活動できないんですから。

カオルの思いの外の強い口調に、みんなちょっと驚いている。
ここまでぼくらとこの話をしてきたのに、著者さんに勝手に途中下車されては困ります。

たとえ運転を打ち切るにしても、運転士である著者さんが先に途中下車しちゃってはいけないですよ。

カオルはなおも強い口調で続ける。
ここで風呂敷たたむのが難しいのは承知しています。

でも最悪、たたまないといけないかもしれないのもわかっています。

でも、たたむならぼくらもたたむの手伝うんですよ。その覚悟もしているんです。

それなのに、ぼくらを放っておいて著者さんがとっとと途中下車するのは、ひどすぎます。


すごくそうしたくなる気持ちはわかりますけどね。

カオルちゃん……。
それがぼくらがここにいる意味ですよ。

それがぼくらが著者さんの手でここに生まれ、ここまでこの話になってきた意味ですよ。


著者さん、いいかげん、しっかりしてよ!

カオルの叫びが、部室に響く。


それにほかのみんなも言葉がない。

そうしているうちに、部室に持ち込んだテレビが、退位礼の様子を放送していた。



このジメッとしたトイレの隣の小さな部屋。


みんなで鉄研の部室にするためにいろいろ持ち込んで、いまこうしてみんなの秘密基地のようになった部屋。


捨てられていたものを修繕したソファ。


もちこんできた三面鏡やテレビや電子レンジやぬいぐるみ。


そして、みんなで作ってきた鉄道模型ジオラマや模型車両。



その一つ一つに、鉄研のここまでの思い出が詰まっている。



それをみんなで、言葉もなく見つめる。

著者さん、しっかりしてよ!


ぼくらの総裁を返して!!

カオルの叫びが、その部屋にさらに響いた。
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登場人物紹介

長原キラ ながはらキラ:エビコー鉄研の部長。みんなに『総裁』と呼ばれている。「さふである!」など口調がやたら特徴ある子。このエビコー鉄研を創部した張本人。『乙女のたしなみ・テツ道』を掲げて鉄道模型などテツ活動の充実に邁進中。


*総裁のびっくりヒミツ能力(順次公開)

・隠れオッドアイ。安いラノベのキャラだと思われたくないので視力は悪くないのにカラーコンタクトをはめて眼の色を合わせている。しかしこのオッドアイのその眼を見てしまうと自白させてしまう作用がある。あまりにも危険なのでそれを抑制するためにもカラーコンタクト。


 ほかにもまだまだあります。


葛城御波 かつらぎ みなみ:国語洞察力に優れたアイドル並み容姿の子。でも密かに変態。しかしイマジネーション能力は随一。


武者小路詩音 むしゃのこうじ しおん:鉄研内で、模型の腕は随一。高校入学が遅れたので、実は他のみんなより年上。鉄道・運輸工学教授の娘で、超癒し系の超お嬢様。模型テツとしての腕前も一級。

芦塚ツバメ あしづかツバメ:イラストと模型作りに優れた子。イラストの腕前は超高校級。「ヒドイっ」が口癖。

中川華子 なかがわ はなこ:鉄道趣味向けに特化した食堂『サハシ』の娘。写真撮影と料理が得意。バカにされるとすぐ反応してしまう。

鹿川カオル かぬか カオル:ダイヤ鉄。超頭脳明晰で、鉄道会社のダイヤをアルバイトで組んでしまうほどの『ダイヤ鉄』。プロ将棋棋士を目指し奨励会所属。王子と呼ばれるほどハンサムな女の子。電子回路やプログラミングが得意。


田島ミエ たじまみえ:総裁の古くからの友人。凄腕の模型テツ。鉄研のみんなと一緒に大洗などを旅行したものの、関西在住で滅多に会えない。なおかつその実像は不明。

小谷奈々 おたりなな


総裁の友人。凄腕のBトレ自動運転の模型鉄。地下アイドルをしているらしい。ウサミン星がどうとか言っていたが詳細不明。

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