第2話
文字数 845文字
ヘイジは、これといって特徴のないごく普通の人間だった。強いて言い換えれば彼は猿の子孫で、具体的には身長も体重も平均並みで卒業までに必要な単位をわずかに残していた就活生である。
残念なことにヘイジは知らなかったが、先日、最終面接を終え、手応えを感じていた企業のお祈りメールがスマホに受信を許してしまった。もっとも、今はそんなことを確かめている余裕はなく、スマホも部屋に置き忘れていた。ヘイジがそのことに気が付いたのは、線路内トラブルで東武東上線の電車が十分以上遅延していると知ってからだった。失態が失態を呼び、こねくり回されて、取り返しのつかない事実に陥る。この時のヘイジに何か一つの良かった点を挙げるとするならば、完全に二日酔いの呪縛から解放されたことぐらいだろう。
ヘイジは決して賢く立ち回れる人間ではなかった。それどころかいつも肝心なところであたふたして力を出し切れずに終わってしまう。パニック状態だったヘイジは目的地までの道のりを自ら走って向かったのである。
「それで四十分も遅れたと・・・」
面接官は言った。
「はい! しかし、途中でタクシーに乗った方が早いと気が付いて乗ってきました」
この何とも言えない雰囲気を和まそうとヘイジなりのアイスブレイクを繰り出すも面接官の表情は変わらないままだ。
「遅れるなら連絡ぐらいできたはずですが」
「すみません。携帯を家に忘れてきまして」
「それなら、公衆電話とか、通行人に借りるとか連絡しようと思えばできたはずです」
「・・・・・・」
「一応面接はしますか、結果は変わりませんが」
「しかし、万が一ですよ。私が質問に対して完璧に答え、なおかつ可能性を感じられるほどの斬新なアイデアをお伝えすることが出来たとしたら・・・」
「知りたいですか」
「はい」
「ぜんぜん、一つもです」
面接官は言った。
「帰ります。ご迷惑をおかけしました」
ヘイジは、一礼して混沌の闇の中のような空間をあとにした。
残念なことにヘイジは知らなかったが、先日、最終面接を終え、手応えを感じていた企業のお祈りメールがスマホに受信を許してしまった。もっとも、今はそんなことを確かめている余裕はなく、スマホも部屋に置き忘れていた。ヘイジがそのことに気が付いたのは、線路内トラブルで東武東上線の電車が十分以上遅延していると知ってからだった。失態が失態を呼び、こねくり回されて、取り返しのつかない事実に陥る。この時のヘイジに何か一つの良かった点を挙げるとするならば、完全に二日酔いの呪縛から解放されたことぐらいだろう。
ヘイジは決して賢く立ち回れる人間ではなかった。それどころかいつも肝心なところであたふたして力を出し切れずに終わってしまう。パニック状態だったヘイジは目的地までの道のりを自ら走って向かったのである。
「それで四十分も遅れたと・・・」
面接官は言った。
「はい! しかし、途中でタクシーに乗った方が早いと気が付いて乗ってきました」
この何とも言えない雰囲気を和まそうとヘイジなりのアイスブレイクを繰り出すも面接官の表情は変わらないままだ。
「遅れるなら連絡ぐらいできたはずですが」
「すみません。携帯を家に忘れてきまして」
「それなら、公衆電話とか、通行人に借りるとか連絡しようと思えばできたはずです」
「・・・・・・」
「一応面接はしますか、結果は変わりませんが」
「しかし、万が一ですよ。私が質問に対して完璧に答え、なおかつ可能性を感じられるほどの斬新なアイデアをお伝えすることが出来たとしたら・・・」
「知りたいですか」
「はい」
「ぜんぜん、一つもです」
面接官は言った。
「帰ります。ご迷惑をおかけしました」
ヘイジは、一礼して混沌の闇の中のような空間をあとにした。