第2話(6)

エピソード文字数 2,702文字

「見つけたっ。今の所、問題はないみたいだな」

 現在魔王勇者にトラブルは発生しておらず、彼女はスキップで歩道を進んでいる。
 ただ、いやまぁレミアに非はないんですけどね。あの子は性格がキツそうな見掛けをしているので、時々横を通り過ぎる方は目を丸くしております。

『にゅっむむっむむー。信頼(しんよー)さっれたー、たっよらっれたーっ』

 妙な歌(?)を歌いながら、角を右折する。ますます好感度を上げながら、角を左折する……。
 わたくしはどうやっても、レミアの好感度を下げられないんじゃないの? と思う今日この頃。

「……なんなの、あの子。バッドエンドが存在しない、恋愛シミュレーションゲームのヒロインなの?」
『らっららっらっら~ん。にゅっむむっりにゅっむむー』
「てか、『にゅむ』ってなんなのさ。レミア、どんな時でも使うよね?」

 嬉しい時も悲しい時も、驚いた時もあの三文字を発する。あれには、いくつ意味があるんだ……?

『今晩の献立はーっ、にゅっむむっむにゅー』

 またバリエーションが増えた。
 どうせ意味はなさそうなので、考えるはよそう。そうしよう。

『にゅむむむむー。夜ご飯は、オムライスさんとポテトサラダさんにしよっかなー』
「それはグッドなメニューだが、ウチの冷蔵庫はすっからかん寸前だ。千円だと足りないんじゃないかな?」

 卵、鶏肉、ジャガイモ、キュウリ、タマネギを買わないといけない。全て少量のやつを購入するとしても、オーバーしそうだな。

『にゅむ。オムポテセットにするには、お金が足りないかもだー』

 朝と昼を拵えてくれた彼女もそれは承知しているようで、足を止めて頭を捻る。
 ところで皆様、オムポテという響きは可愛くありませんでしたか? 俺は、とっても可愛く感じました。

『にゅむぅ……』

 俺をやや虜にした魔王勇者は、にゅむっている。

『にゅむぅ…………』

 まだまだ、にゅむる。

『にゅむぅ………………ぁっ。そこの商店街(しょーてんがい)さんに、スーパーさんより安いお店がないかなっ?』

 にゅむるの、お仕舞い。彼女は左に進路を変え、パタパタと走る。

『早くスーパーさんに行かないと、卵さんが売り切れちゃう。期待を裏切れないから、パパッとすまさなきゃだよーっ』

 うぁぁぁぁっ、Mサイズの卵はもうないの……。騙してゴメンね……っ。

『八百屋さん…………八百屋さん……。あーっ、あったよーっ』

 懸命(けんめー)にお店を探していた魔王勇者(まおーゆーしゃ)様は、お目当ての店の前で急停止にゅむ。早速、緑色のカゴに入っている野菜をチェックするにゅむよ。

『お、いらっしゃい! 初めて見る人だね~、外国の人? 金髪だからそうだよね?』
『にゅ、にゅむ……。い、イエース、ミーはガイコクジンでーす』

 片言にして、調子を合わせるレミアちゃん。あの人、ホントいい子だわ。

『いや~、珍しいなぁ~。ユーは、ナニヲ欲するのでーすかー?』
『ミーは、タマーネギ&キューリー&ジャガイーモを求めてマース。安かたら、ほしーネー』

 コイツら、バカだ。どちらも殆ど日本語じゃねーかよ。

『オー、そだったのデスかー。ユーは初めてのお客サンだかーら、スーパーサービスしてあげまーすヨー』
『うわぉぉーっ、予期せぬハッピーねー! そなた、よいのですカー?』
『よいのですヨー。どれでも1カゴ、ワンハンドレット円で提供しまース』
『ハピネスっ、イッツアハピネス! ありがたーく、キューリーさんたちをバイするでーすヨ』

 エセ外人はエセ外人に千円札を渡し、セブンハンドレット円と袋に入ったキューリーさん達をゲットしたヨ。
 いかん。喋り方がうつった。

『てんしゅーサン、サンクスねー。このご恩、忘れないアルー』
『謝謝。またくるよろしー』

 2人はいつの間にか中国人になり、互いに蛇の構えを取って別れた。
 ダメだー。コイツらの頭の中は、常人にゃ理解できねー。

「……しかしまぁ、三百円で野菜が揃ったのは助かった。禍福はあざなえる縄のごとし、ってヤツかな」

 悪い事の後には良い事がある。この格言はまことだった。

『にゅっむっむっむー。店主さんありがとー、安売り大好きー』
「ウチもそこまで裕福じゃないから、有難味がよーく分かるよ。金欠の時は、世界で一番好きです」
『安売りって、貧乏人さんの味方だよねーっ。ゆーせー君の次に好きー』

 なんともはや。知らない間に、とんでもない位置にランク付けされている。
 はっはっはっはっは。縄の如しだけあって、良い事のあとには悪い事がありますな!

「………………終わった。こりゃ、何をやっても嫌われ作戦は成功できんわ」

 繰り返すがローンの返済などがあってウチもそこまで裕福ではないから、有難味がよーく分かるんだ。それより好きって言われたら、もう手の施しようがない。

「うぁあ……。どうしよう」
『だから、もう諦めな。魔王勇者と暮らせよ』

 だから、謎の声は黙ってろ! 俺の嫌われ作戦は大失敗となったが、別のやり方があるはずだ。そう、信じている!

「………………。これまでは、未熟な自分だけで作戦を立てていたからいけなかったんだ……。人との付き合いが至極上手なあの人に、一部内容を伏せて相談してみよう」

 人付き合いが上手いということは、相手の心を把握できているということ。ならば、どうすれば嫌われるかも知っているに違いない!

「おっし。そうと決まれば、電話電話」

 後をつけながらスマホを取り出し、電話帳にある『草崎五菜(くさざきいつな)』を選択する。
 草崎、その姓に聞き覚えがありますよね? この人は兎瑠ちゃんのお姉さんで、ウチの学校で生徒会長をやっている才女です。

『にゅむーむ。HEYっ、SAY YOU昨今不景気! 戦友サッコン服役!』

 韻を踏もうとして酷いことになったラップは無視。俺はラップではなくタップをして、サッコン……じゃなかった。草崎五菜さんに、アドバイスを受けるべくお電話をする。

「どうかなどうかな? すぐ出てくれるかな――あ! 五菜さんだっ!」

 グッドタイミング。道路を挟んだ向こう側の歩道に、犬のお散歩中のお姉さんがいた。

「ここまで来れば不審者の心配はまずないから、尾行を中止して行こう。おーいっ、五菜さーん――!?

 声を上げていたら、おかしなことが起きた。
 突然……。PCで画像を切り取ったかのように、パッと。お姉さんが、消えたのだ。
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登場人物紹介

黒真レミア 16歳の少女


魔王、でありながら伝説の勇者の能力を持つ。冷徹でクールな容姿と声音を持つ美少女だが、性格はほわほわでお子ちゃま。『にゅむ』という独特な言葉を多用し、時にはにゅむのみで会話を行おうとする。例「にゅむーむ。にゅむ。にゅむりん」。

なお愛用の武器である聖剣は魔王の天敵であるため、使うと痺れる。

金堂フュル 16歳の少女


伝説の勇者、でありながら伝説の魔法使いの能力を持つ。元気一杯の猫っぽい女の子で、高知県の英雄・坂本竜馬の大ファン。そのせいで『ぜよ』と中途半端に覚えた土佐弁を使い、主人公のことは『師匠』、仲間のことは名前のあとに『先生』とつけて呼ぶ(例えばレミアの場合はレミア先生)。

なかなかにおバカな女の子。

虹橋シズナ 17歳の少女


伝説の魔法使い、でありながら魔王の能力を持つ。大和撫子然とした容姿を持つ美少女であり、主人公の義理の従妹。

重度の怒られ好き。

とにかく変で厄介で面倒くさい人。

茶操ユニ 18歳の少女


伝説のドールマスター、でありながら伝説のプリーストの力を持つ。キグルミ族という一族の人間で、閉園したテーマパークのキャラクター・二足歩行ウサギの着ぐるみを着ている。口癖は、ミョン。

実はお笑いにうるさく、親戚は某有名人。

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