第225話 サブヒロインが勝つのは難しい

文字数 1,573文字


 俺とひなたが駄弁っている間に、注文していた料理が出来たようだ。
 会計は先払いで、事前にレジでブザーを渡されている。
 テーブルの上に置いていたブザーが二つ揺れ出す。

「あ、出来たみたいですね♪」
「だな。ひなたは待っていろ。俺が受け取ってくるよ」
「え。いいですよ~」
 少し頬を赤くして、恥ずかしそうにするひなた。
「いや、こういうことは男が率先してやるもんだ。女の子のひなたは座って待っていてくれ」
「せ、センパイがそこまで言うなら……」
 ひなたは男勝りというか、ボーイッシュな感じだから、あんまりこういう扱いに慣れていないようだ。
 可愛らしいもんだな。

 俺は厨房近くのカウンターまで行き、店員に片方のブザーを見せる。
「ハンバーガープレートの方ですね~ ポテトを大盛にしておきたました~」
 サングラスをした若い女性店員。
「え、大盛?」
「はい。サービスです」
 ニッコリ微笑む。
「あ、ありがとうございます……」
 俺は首を傾げながら、トレーを受け取る。

「すいません。あとこっちのブザーのやつも……」
 もう片方を渡そうとすると。
「チッ」
 あれ、今舌打ちしなかったか?
「あ、あの……」
「はぁ~あ! ドルフィンプレートとドルフィンパフェの方ですね! はい、どう~ぞぉ!」
 プレートを雑にカウンターへと投げ捨てられた。
 ガタン! と音を立てて。おかげで、ちょっと料理がトレーにこぼれてしまう。
 なんだ、この失礼な店員は?
 全く、社内教育が出来てないんじゃないか。

 とりあえず、俺は二つのトレーを持って、ひなたが待つテーブルへと戻る。

「わぁ! カワイイ、イルカさんのご飯だぁ♪」
 手を叩いて喜んで見せるひなた。
「さ、食うか」
「はい! いただきます~」

 俺は改めて自分のプレートを眺めてみる。
 大盛ってレベルじゃないぐらいの、大量のポテトの山。
 こんなに食えるかよ。

 メインであるハンバーガーが食べることにした。
 味の方は……。
「うん。うまいな。なんというか、どこかで食べたことのある家庭的な料理。作り手の優しさを感じるぞ。む、ゴボウが入っている?」
 なんて食レポしてみる。
 あれ? この食感……どこかで誰かに食べさせてもらったような……。

 ふと、ひなたの方を見つめる。
「……」
 スプーンを口に咥えたまま、固まっている。
「どうした? ひなた。口に合わないか?」
「……か、からあああい!」
 そう叫んだあと、水をガブガブ飲み始めた。
「辛すぎですよ! これぇ!」
「ウソだろ? お子様向けのメニューだぞ?」
「ホントですよ! センパイ、他の人のやつと、間違えて受け取ったんじゃないんですか?」
 顔を真っ赤にして怒り出す。
「いや、それはないぞ……じゃあ、口直しにパフェを食べたらどうだ?」
「そ、そうですね……」
 気を取り直して、ひなたはひんやりと冷たいパフェを食べることにした。
 細長いスプーンで白いホイップクリームをすくってみる。

「おいしそ~♪」

 俺もこれなら、辛くはないだろうと安心してその姿を見守る。

 口にスプーンを入れた瞬間。
「……」
 又もや、固まってしまうひなた。
 顔を真っ青にして、額から汗が吹き出す。
「ど、どうした? ひなた?」
「にがあああい! そして、臭い~!」
「ええ……ウソだろ?」
「ホントですよ! そんなに疑うなら、センパイも臭ってみてくださいよ!」
 彼女にパフェを差し出されたので、俺は自身の鼻で確認してみる。

「うぉええ!」
 あまりの臭さに吐きそうになった。

 なんて表現すればいいのだろう?
 シンクの三角コーナーに一週間ぐらい溜め込んだ生ゴミみたいな臭いだ。

 このレストラン。ヤバくないか。
 ふと、背後から視線を感じたので、振り返ると……。

 柱の後ろに人影が。
 サングラスをかけた先ほどの若い女性店員だ。
「ざまぁ。クソアマ……」

 気色悪い女だな。なんだろ、あれ。
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