第6話 毛

文字数 400文字

 新任課長のことを俺たちは陰で潔癖オバサンと呼んでいた。

 大掃除の翌朝。
 チリ一つも許しません——という厳命に従って磨き上げた床に、あろうことか毛が落ちていた。太く短く縮れた一本の毛が。

 激怒した課長は、一端を切り取ってDNA鑑定を依頼し、残骸を小さなビニール袋に入れて晒し首のようにホワイトボードに貼り付けた。
 全員が爪か毛髪の提出を求められた。自分のものでないことを俺は願ったが、もし女性だったら出社もできなくなってしまうのではないか?

 全員の鑑定結果が出る日、事務所は静まり返っていた。
 そこに課長の姿はない。鑑定を頼んだ研究所に行っている——とみんなは噂していた。

 しかし昼過ぎになっても課長は現れず、いつも腰巾着のように課長について回っている女子社員は、じっと俯いたまま何も言わない。

 夕方、同僚が長い出張から帰って来た。
「課長が入院したって? ショックなことがあって出先で倒れたらしいね」
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