54. 背徳の美
文字数 1,883文字
一行はエントランスの方へと飛んだ。
目の前に現れるレンガ造りの巨大な魔王城のファサードは壮大で、あちらこちらに精巧な幻獣の彫り物が施されている。特に、ドラゴンやフェニックスをかたどった壮麗な彫刻が大きく左右に配され、来るものを睥睨 させているのは見事だった。
うわぁ……。
玲司は思わず感嘆の声を上げる。
手入れの行き届いた、汚れ一つない天空の城はその壮麗な美しさを余すところなく誇り、宙に浮いている。それはまさに異世界ファンタジーそのものだった。
一行は、静かに玄関の巨大なドアのところに着地する。
一般に管理者系の建物の周辺は、セキュリティのためワープの利用ができないようになっている。だからドアを開けて入っていくしかない。
ミリエルは辺りを伺い、ドアノブをゆっくりと動かしてみる。
ガチャリ!
カギはかかっていないようだ。
三人は顔を見合わせ、最後の確認をする。ミリエルはミゥに紫色に光る特殊弾を渡し、いざというときは窓や壁を破壊して退路を作ることを命じた。玲司はドアごとにドアが閉まらないツールを仕込んで、閉じ込められないようにする担当となる。トラブったらすぐに逃げ出す、それがポイントだった。
ミリエルは真紅に光る球をいくつか自分の周りに浮かべると、ギギギーっときしむ音をたてながら、巨大な木製ドアを引き開けていく。
中は大理石をふんだんに使った壮麗なエントランスホールだった。優美な階段には赤じゅうたんが敷かれ、施された金の刺繡が、魔法で光るシャンデリアの明かりを反射してキラキラと輝いていた。
「お邪魔しまーす……」
小声でそう言いながらキョロキョロと見まわし、抜き足、差し足でミリエルは中まで進んだが、誰も居ないようだった。
ミゥは空中に間取り図を浮かべ、
「一番怪しいのは謁見 の大広間なのだ」
と、左側の通路を指さす。
◇
しばらく赤じゅうたんの敷かれた豪奢な長い廊下を進み、突き当りの大きなドアまできた一行。
するとかすかに人の声がする。
ミリエルは二人と目を合わせると、うなずいてゆっくりドアを開いた。
明るく豪華絢爛な室内には、正面奥に段があり、玉座が据えてある。そしてそこに座る一人の男と、その隣には赤い髪の女性が見えた。
百目鬼とシアンだった。
「やあやあ皆さん、いらっしゃい」
百目鬼は上機嫌に叫んだ。
ミリエルは大きく息をつくと、つかつかと奥へと進み、答えた。
「呼びつけて一体何の用なのだ?」
「いやなに今後のことについて相談をしようかと思って」
「相談……、へっ!?」
ミリエルは辺りを見回し、脇に異様な六角形の氷柱が並んでいることに気が付き足を止めた。
肌色の何かが入った氷柱。
ミリエルはダッシュして表面の霜を手で払った。
「ジェンマ! あなた……」
ミリエルはそう叫んで他の氷柱も確認していく。それは今まで送り込まれた調査隊員の氷漬けだった。
ステンドグラスの窓から差し込む光が氷柱の裸体に赤や青の鮮やかな色を与え、妖艶な背徳の美を演出している。
その神々しいまでのおぞましさを放つ人柱に、玲司は顔面蒼白となって唇がこわばっていくのを感じた。
ミゥは百目鬼を指さし、真っ赤になって叫ぶ。
「なんてことするのだ! この人でなし!」
しかし百目鬼は、悪びれることなく返す。
「これはゾルタンのオッサンのやらかしたことで、私は関係ない」
「氷漬けの人を放っておく時点で人でなしなのだ!」
百目鬼は肩をすくめ、首を振ると、面倒くさそうに返す。
「無事相談が終われば、回収すればいい。死んでるわけじゃない」
「で、相談って何なのだ?」
ミリエルは怒りに燃える目で百目鬼をキッとにらんだ。
すると、隣に立っているシアンが答えた。
「ミリエル、降伏しよ」
以前、百目鬼にハックされた時のように、髪の毛も目の色も真っ赤になってしまったシアンはニコニコしながらいう。
「はぁ? 降伏?」
ミリエルがムッとした表情で返す。
玲司は叫んだ。
「おい、シアン、どうなってんだ? また百目鬼に乗っ取られたのか?」
「ご主人様、僕はね、合理的に考えたんだゾ。百目鬼たちと組むと地球一個くれるんだってそれで、正式な管理者にしてくれるって」
「何言ってんだ、今すぐ止めろ! 戻ってこい」
玲司はシアンに両手を広げて引きつった笑顔で命令する。
「いや、ご主人様こそおいで。どうせ人間は35.3%だゾ!」
そう言って嬉しそうに両手を広げた。
「ふざけんなぁ!! これは命令だ! 今すぐ戻ってこい!」
玲司は怒髪 天を衝 く勢いで絶叫した。
ふぅ、ふぅ、と玲司の荒い息が謁見室にこだまする。
目の前に現れるレンガ造りの巨大な魔王城のファサードは壮大で、あちらこちらに精巧な幻獣の彫り物が施されている。特に、ドラゴンやフェニックスをかたどった壮麗な彫刻が大きく左右に配され、来るものを
うわぁ……。
玲司は思わず感嘆の声を上げる。
手入れの行き届いた、汚れ一つない天空の城はその壮麗な美しさを余すところなく誇り、宙に浮いている。それはまさに異世界ファンタジーそのものだった。
一行は、静かに玄関の巨大なドアのところに着地する。
一般に管理者系の建物の周辺は、セキュリティのためワープの利用ができないようになっている。だからドアを開けて入っていくしかない。
ミリエルは辺りを伺い、ドアノブをゆっくりと動かしてみる。
ガチャリ!
カギはかかっていないようだ。
三人は顔を見合わせ、最後の確認をする。ミリエルはミゥに紫色に光る特殊弾を渡し、いざというときは窓や壁を破壊して退路を作ることを命じた。玲司はドアごとにドアが閉まらないツールを仕込んで、閉じ込められないようにする担当となる。トラブったらすぐに逃げ出す、それがポイントだった。
ミリエルは真紅に光る球をいくつか自分の周りに浮かべると、ギギギーっときしむ音をたてながら、巨大な木製ドアを引き開けていく。
中は大理石をふんだんに使った壮麗なエントランスホールだった。優美な階段には赤じゅうたんが敷かれ、施された金の刺繡が、魔法で光るシャンデリアの明かりを反射してキラキラと輝いていた。
「お邪魔しまーす……」
小声でそう言いながらキョロキョロと見まわし、抜き足、差し足でミリエルは中まで進んだが、誰も居ないようだった。
ミゥは空中に間取り図を浮かべ、
「一番怪しいのは
と、左側の通路を指さす。
◇
しばらく赤じゅうたんの敷かれた豪奢な長い廊下を進み、突き当りの大きなドアまできた一行。
するとかすかに人の声がする。
ミリエルは二人と目を合わせると、うなずいてゆっくりドアを開いた。
明るく豪華絢爛な室内には、正面奥に段があり、玉座が据えてある。そしてそこに座る一人の男と、その隣には赤い髪の女性が見えた。
百目鬼とシアンだった。
「やあやあ皆さん、いらっしゃい」
百目鬼は上機嫌に叫んだ。
ミリエルは大きく息をつくと、つかつかと奥へと進み、答えた。
「呼びつけて一体何の用なのだ?」
「いやなに今後のことについて相談をしようかと思って」
「相談……、へっ!?」
ミリエルは辺りを見回し、脇に異様な六角形の氷柱が並んでいることに気が付き足を止めた。
肌色の何かが入った氷柱。
ミリエルはダッシュして表面の霜を手で払った。
「ジェンマ! あなた……」
ミリエルはそう叫んで他の氷柱も確認していく。それは今まで送り込まれた調査隊員の氷漬けだった。
ステンドグラスの窓から差し込む光が氷柱の裸体に赤や青の鮮やかな色を与え、妖艶な背徳の美を演出している。
その神々しいまでのおぞましさを放つ人柱に、玲司は顔面蒼白となって唇がこわばっていくのを感じた。
ミゥは百目鬼を指さし、真っ赤になって叫ぶ。
「なんてことするのだ! この人でなし!」
しかし百目鬼は、悪びれることなく返す。
「これはゾルタンのオッサンのやらかしたことで、私は関係ない」
「氷漬けの人を放っておく時点で人でなしなのだ!」
百目鬼は肩をすくめ、首を振ると、面倒くさそうに返す。
「無事相談が終われば、回収すればいい。死んでるわけじゃない」
「で、相談って何なのだ?」
ミリエルは怒りに燃える目で百目鬼をキッとにらんだ。
すると、隣に立っているシアンが答えた。
「ミリエル、降伏しよ」
以前、百目鬼にハックされた時のように、髪の毛も目の色も真っ赤になってしまったシアンはニコニコしながらいう。
「はぁ? 降伏?」
ミリエルがムッとした表情で返す。
玲司は叫んだ。
「おい、シアン、どうなってんだ? また百目鬼に乗っ取られたのか?」
「ご主人様、僕はね、合理的に考えたんだゾ。百目鬼たちと組むと地球一個くれるんだってそれで、正式な管理者にしてくれるって」
「何言ってんだ、今すぐ止めろ! 戻ってこい」
玲司はシアンに両手を広げて引きつった笑顔で命令する。
「いや、ご主人様こそおいで。どうせ人間は35.3%だゾ!」
そう言って嬉しそうに両手を広げた。
「ふざけんなぁ!! これは命令だ! 今すぐ戻ってこい!」
玲司は
ふぅ、ふぅ、と玲司の荒い息が謁見室にこだまする。