第4話
文字数 1,577文字
実家に戻ってまもなくして、アタシの親友が亡くなった。数日前、急なことだった。サバ柄に白いソックスの賢くて品のある猫、アルテミジア。アタシが16歳くらいの時にこの家に来て、これまでいろんな話をした。よく一緒に映画を観たり、音楽を聴いたりしてた。彼女とはとても気が合うから、きっとそれらを気に入っていたはず。
彼女にはQueen をよく聴かせていたから、声を頼りにフレディの元に今頃たどり着いていることを願っている。
とある日、アタシに会いたいという人がいるということで、父から連絡が来た。父の会社の応接室でその女性に会った。
アタシがティーンの時追っかけしてた女性パンクバンドのギタリストだった。彼女達はもう解散してしまっていて伝説となっていた。
びっくりして理由を聞くと1冊の古ぼけたノートを見せてくれた。読めるような読めないようないろんなことが書き殴ってあったが見覚えのある字が並んでいる。
あの彼だ。年齢を偽って遊んでいたティーンの時付き合っていた、バンドをやってたあの彼だ。
亡くなってしまったあの彼。
彼とギタリストの彼女は同じ時期に活動していたので仲良くて、彼が亡くなったときに形見としてこの最後に残したノートを遺族からもらったという。そして、あの頃彼が仲良くしていた年下の女の子がどうしても気になって、探し、人づてに父までたどり着いたということだった。特徴からして自分の娘だと気が付いた父がアタシに連絡してきたという経緯だ。
あの子は、学校を卒業できただろうか。
大学にいったのだろうか。
恋人はできただろうか。
オレのことを恨んでいるだろうか。
今、幸せにしてるだろうか。
リリック用のネタなのか日記なのか、そのノートには様々なことが書かれていたが、あるページの隅に走り書きしてあった、この文章がギタリストの彼女を駆り立てて、アタシまでこのノートを見せにやって来てくれたのだ。
ページの先頭に書いてある日付とリンクしているなら、これは亡くなる1週間前に書かれたことになる。
当時まだ子供だったアタシは彼のたくさんいる取り巻き達の1人に過ぎないと思っていた。彼の中では小さな存在でしかないと思っていた。でも、会わなくなってからしばらくして、アタシのことを思い出してくれていたことを知った。
アタシは、
大学には行ったけど、途中でやめてしまった。
恋人は失ったばかり。
彼のことを恨んだことなどない。
あれだけダメと言われたタバコをアタシは吸っている。
死んでしまうなんてズルい。
悲しみを通り越してムカついたアタシは、お葬式の帰りに彼と同じタバコを吸ってやった。
そして完全に依存してしまって、それを今更後悔してる。
小さな存在にすぎないチッポケなアタシに、なにかできることはなかったのだろうか。
学校をサボって──もちろんサボってることは内緒だけど、彼とよく図書館に行った。
朝までライブハウスにいた彼は、読みたかったはずの本を途中まででだいたい寝てしまう。風がそよぐ日は、彼のボサボサでブロンドの長い髪が一緒に揺らいでたのをボーっと見てた。
そんな穏やかな日を思い出した。あの時、きっと幸せだった。
だとしたらそれに気づいた今、幸せかもしれない。
アルテミジアは、あちらでフレディではなく、彼に会ってるのかもしれない。
♪ Nirvana - About A Girl
https://youtu.be/t_U5ZIo77UM
THE END
◆◆◆
あとがき
このお話は『最低なアタシ』のスピンオフです。
猫に関する事は多分1回くらいしか書いてないので、だいぶ強引なんですが。
もし先にコチラを読んでしまったという方は『最低なアタシ』お読みいただけたら。
Artemisia Gentileschiと
漱石と
Romeroと
Frank-n-Furter博士に
リスペクトを込めて……。
© 宇田川 キャリー
彼女には
とある日、アタシに会いたいという人がいるということで、父から連絡が来た。父の会社の応接室でその女性に会った。
アタシがティーンの時追っかけしてた女性パンクバンドのギタリストだった。彼女達はもう解散してしまっていて伝説となっていた。
びっくりして理由を聞くと1冊の古ぼけたノートを見せてくれた。読めるような読めないようないろんなことが書き殴ってあったが見覚えのある字が並んでいる。
あの彼だ。年齢を偽って遊んでいたティーンの時付き合っていた、バンドをやってたあの彼だ。
亡くなってしまったあの彼。
彼とギタリストの彼女は同じ時期に活動していたので仲良くて、彼が亡くなったときに形見としてこの最後に残したノートを遺族からもらったという。そして、あの頃彼が仲良くしていた年下の女の子がどうしても気になって、探し、人づてに父までたどり着いたということだった。特徴からして自分の娘だと気が付いた父がアタシに連絡してきたという経緯だ。
あの子は、学校を卒業できただろうか。
大学にいったのだろうか。
恋人はできただろうか。
オレのことを恨んでいるだろうか。
今、幸せにしてるだろうか。
リリック用のネタなのか日記なのか、そのノートには様々なことが書かれていたが、あるページの隅に走り書きしてあった、この文章がギタリストの彼女を駆り立てて、アタシまでこのノートを見せにやって来てくれたのだ。
ページの先頭に書いてある日付とリンクしているなら、これは亡くなる1週間前に書かれたことになる。
当時まだ子供だったアタシは彼のたくさんいる取り巻き達の1人に過ぎないと思っていた。彼の中では小さな存在でしかないと思っていた。でも、会わなくなってからしばらくして、アタシのことを思い出してくれていたことを知った。
アタシは、
大学には行ったけど、途中でやめてしまった。
恋人は失ったばかり。
彼のことを恨んだことなどない。
あれだけダメと言われたタバコをアタシは吸っている。
死んでしまうなんてズルい。
悲しみを通り越してムカついたアタシは、お葬式の帰りに彼と同じタバコを吸ってやった。
そして完全に依存してしまって、それを今更後悔してる。
小さな存在にすぎないチッポケなアタシに、なにかできることはなかったのだろうか。
学校をサボって──もちろんサボってることは内緒だけど、彼とよく図書館に行った。
朝までライブハウスにいた彼は、読みたかったはずの本を途中まででだいたい寝てしまう。風がそよぐ日は、彼のボサボサでブロンドの長い髪が一緒に揺らいでたのをボーっと見てた。
そんな穏やかな日を思い出した。あの時、きっと幸せだった。
だとしたらそれに気づいた今、幸せかもしれない。
アルテミジアは、あちらでフレディではなく、彼に会ってるのかもしれない。
♪ Nirvana - About A Girl
https://youtu.be/t_U5ZIo77UM
THE END
◆◆◆
あとがき
このお話は『最低なアタシ』のスピンオフです。
猫に関する事は多分1回くらいしか書いてないので、だいぶ強引なんですが。
もし先にコチラを読んでしまったという方は『最低なアタシ』お読みいただけたら。
Artemisia Gentileschiと
漱石と
Romeroと
Frank-n-Furter博士に
リスペクトを込めて……。
© 宇田川 キャリー