4.『AとB』

文字数 858文字

 ある街に二つの会社があった。なにかにつけてその二社はライバルのようにバチバチ競争していた。何から何まで互いが互いと同じものを嫌った。A社がAという商品を作れば必ずB社は負けじとBという商品を作り、対抗するような商品を世の中に提示し続けた。  

 だから街にはAとBという名の商品があふれかえり、住民たちはAとBの商品によって生活が潤った。それでも住民から見ればAでもBでもどっちでも良かった。だってAと言われても石鹸は石鹸だし、Bと言われてもやはり石鹸は石鹸だったからだ。住民たちはみんなAとB関係なしに仲が良かった。それでもA社とB社は張り合い続けた。

 その二社はオナラについても争った。どちらの方がいい音かという内容だった。A社の社員はみんなオナラの音が「エー」だった。一方B社の社員はみんな「ビー」と鳴った。A社とB社では判断がつかないので、ある日住民を巻き込んでオナラの音コンテストを行なった。住民にとってはそんなことどうでも良かったのだが、参加賞としてA社からはAという名のシャンプー、B社からはBという名のリンスがもらえたのでこぞって住民は参加した。B社的にはほんとはBという名のシャンプーを参加賞にしたかったのだが、なぜか売り上げが良すぎて在庫がなかったのでリンスにした。このことでB社の社長は悔しくて枕を濡らしたという(当然B社の社長の頬にはBという形の涙が流れた)。

 大会が始まって会場はどよめいた。本当にA社の社員は皆「エー」という音のオナラをしたからだ。もちろんB社も負けじと「ビー」という音のオナラをかき鳴らした。あまりにも美しい音色だったので審査をする住民たちは審査を忘れて酒が進んだ。酒が進んだ彼らはもちろんタバコが吸いたくなった。そして火をつけた途端会場は爆発した。後日、誰がその爆発について尋ねてみても、A社もB社も皆が口をつぐんだ。爆発音はAでもBでもなかったからだ。A社とB社は、その日からぜんぶがどうでもなんでもよくなった。やがて街から潤いはなくなり、8日後、その街は壊滅した。

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