第108話  絆で結ばれた家族 3

エピソード文字数 2,972文字



 ※



さて、みなさん。少しばかり私のお話を聞いていただけませぬか?
 ん? 平八さん?
先程、車の中でお話した。あのお話の続きをしとうございましてな

 ああ、平八さんが親父と白竹ママの親友って話だな。

 ぶっちゃけ言わせて貰うと、すっかり忘れてしまっていた。

何故、私達はこの事実を隠していたか。そのお話でございます
 えらく真面目な話っぽいので、みんなは平八さんの周りに詰め寄ると、平八さんは淡々とした口調で理由を話してくれた。
入れ替わり体質を持った人間は、幼少から思春期にかけて、普通の人間に比べ、非常にハンデを持った暮らしを余儀なくされたと思います
…………
男と女に入れ替わるのは勿論、制限時間の拘束や、片方の性別を隠す必要もあります。これでは普通の生活を送るのもままならない状態。ましてや幼少期など。子供の頃からそんな生活を強いられては、真っ当な人間に育つのは困難を極めるでしょう。そうお二人は言っておられました
…………

 平八さん……

 あなたからこんな話を聞くなんて、思いもしなかった。


楓蓮お嬢様も華凛お嬢様も、そして麻莉奈さんのご子息も、今までも随分と苦労なさったと。平八めは理解しておりますぞ。


入れ替わり体質特有の理不尽な目にも遭われたと思います。

それではなぜ。親友である二人は、ご子息達を紹介しなかったのか。それについてですが……
 その時、聖奈だけが「そっか」と納得したようだ。
お前。分かったのか?
うん。紹介しなかったのは、あんた達の為だわっ
え? どうして?

 華凛もぽろっと口に出した。

 俺だって納得いかない。

何故教えてくれなかったんですか?

ちっちゃい頃から美優ちゃん達を知ってれば……俺は……俺達は

そうです。私達も楓蓮さん達を知ってれば……
 魔樹までそう零すと、その横にいた美優ちゃんだけが「違うんです」と口に出したのだ。
そうなっちゃうと、えっと……お互いに依存。しちゃって、その……

 依存?


 そこまでいうと、美優ちゃんは黙ってしまった。

それは、麻莉奈さんが言っておられたのですか?
はい。そうです。わ、わたひ。説明が下手で……

確かに。麗華さんもその事をとても気にかけておりましたな。

入れ替わり体質の家系はみな、とても強い絆で結ばれておりますゆえ、幼少の頃から紹介してしまうと、外部との接触に興味を持たなくなるのでは、そう思ったのでしょう

しょ、それが依存……

 なるほど。そういう事か。


 確かに小さい頃に美優ちゃんと魔樹っていう友達がいたら、それだけで……満足しちまいそうだ。

入れ替わり体質の人間は極少数です。いずれは外部との連携も取れなければ生きてゆけません。だからお二方はきっと……断腸の思いで、息子や娘達につらい現実と向き合わせたのでしょう

麗華さんや麻莉奈さんも、同じような体験をしておられます。だからこそ。愛する我が子の為、そう言う取り決めを行ったのでございます。


そして、子供達が物心が付く頃にお互いの娘達、息子達を紹介しようと、そういうお話になっておりました。

 だけどな……親父の言い分も分かるが……

 どうせならもっと早く、言ってほしかった。

まぁ別にいいじゃない。いずれは紹介するつもりだったんでしょ?
ですな。ちなみに、今の麗華さんの仕事が終われば、黒澤家と白竹家が面会する予定だったのです
それならちょっと時期が早くなっただけじゃない。全然構わないわよ
聖奈お嬢様の言う通りです。これからは何のわだかまりも無く、末永く付き合って頂きたいものですな

 少しだけ平八さんの顔が緩んだように見えた。


 ふと美優ちゃんや魔樹と目が合うと、無性に照れくさくなってしまう。



 そんな時、部屋に仲居さんが入ってくると、風呂の準備ができたと告げる。

 すると聖奈が立ち上がり、とても大きな声で叫ぶのだ。

よ~し。みんなでお風呂入るわよ! その間に出前も取ってあげる。ねぇみんな。何が食べたい? 何でもいいわよ

おっと聖奈お嬢様。


もう一つだけ平八からみなさんにお伝えしたいことがあります

なによもうっ!
ちょっとくらい待ってやれよ!
 すると平八さんは座りなおすと、こんな質問をしてきた。
みなさんは……その入れ替わり体質はお嫌いですか?
 そんな質問に、しどろもどろに答えるのは華凛だ。
……嫌い
 華凛はそう言うと、下を向いてしまったので、俺は慌てて抱っこする。
私も、あまり好きではありません
 美優ちゃんもか……

俺は別に……もう慣れちまったし。

好き嫌いじゃなくって、上手く付き合う方法を考えないとって思います

私も楓蓮さんと同じ意見です。

そうでも思わなきゃ……ううん。そうしなければならない。

 魔樹も一緒の考えなのか。
ねぇ。何が言いたいの?
 聖奈に煽られるが、平八さんは暫く目を閉じてから淡々と語り出した。

入れ替わり体質とは、一人の人間で二人を操れる素晴らしい能力です。

その力は、あなた方が大きくなり、より人生経験を積むことによって、その真価を発揮するでしょう。


今はまだ、この力の凄さを、十分に理解出来ていないだけに過ぎませぬ

そして今日、両家が結ばれた事により、あなた達は、自分を理解してくれるかけがえの無い仲間が増えました。


それがどういう意味なのか……それがどれほど素晴らしいことなのか。

これは自分自身でよく考えてみてください。


その答えが出るころにはきっと……

入れ替わり体質で良かったと。そう心から思えるはずです。

平八……あんたがそこまで言うなんて。珍しいわね
 そんな風に言う聖奈に平八さんが向き直ると、
聖奈お嬢様。私達普通の人間からすれば、入れ替わり体質とは……とても羨ましい能力でございますな?
そうよね。私だって入れ替わってみたいわよ
持たざる者からすれば、至極魅力的な能力でございます
 いい訳させてもらうと、本当に大変なんだから。 そう声に出したいけど、平八さんや聖奈の顔を見てたら、言い出せないでいた。

聖奈お嬢様。あなたも特別な存在なのです。

入れ替わり体質の人間を知り。傍にいられる。

選ばれし人間なのですから

わ、分かったわよ。

っていうかさ、選ばれし人間とか、どっかの中二病みたいなこと言わないでよ。

 平八さんの視線に聖奈が照れてるぞ。


 非常に珍しい光景だったが「そろそろお風呂」と逃げた聖奈は立ち上がる。

左様ですな。では平八めのお話はこれにて……ご免!
 そう言い残し、あっという間に消えた平八さんであった。
ちょ! 早すぎね?
お風呂よ。平八が楽しみにしてるに決まってるじゃない
 あ~~そういうことか。


 ※

 

 とりあえずはお風呂。ということで、俺と平八さんと魔樹は男湯に案内される。

 

 身体は女だが、男湯にはいるのが正しいだろ?

 というか、女湯には聖奈や美優ちゃんと一緒になるなんて、俺の中ではありえないのだ。

 

 案内された仲居さんが俺を見て驚いてるが、どーってことはない。


 そして脱衣所で下着姿になり脱ごうとしたその時だった。

…………
平八めのことはお気になさらず。ささ、どうぞ。
ん~~~しょうがねぇ。
か、楓蓮おじょうさ……
 そんなスマホ持って身構えられたら、蓮になるしかないでしょ。
魔樹も行こう。さっさと風呂に入っちまおうぜ。

どうしよう。私は女なのに……

まだ四時間経過してないから、女になれない。


あと、もう少し……

――――――――――――


次回。私は女。男じゃないわよ 1~3

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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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