雨を待つ人々

文字数 590文字

 僕とフィロンが草原に降り立つと、そこにはたくさんの人がいて、空を見上げているんだ。

 口をあんぐりと開けたまま、じっと動かない。

「あの人たちは、いったい何をしているんだい?」

 僕がフィロンにそう聞いてみると、

「雨を待っているんだよ」

彼はそう答えた。

「ねえ、ハルくん。あの人たちはね、ああやってずっと、口の中へ水が入ってくるのを待っているんだ」

 フィロンはにこにことしながら言った。

「どうして水をくみに行かないの?」

 僕は彼に聞いた。

「さあ、めんどうなんじゃない? 自分が動くよりも、周りが動いてくれほうが楽でしょ?」

「う~ん、それはそうだけど……」

「あの人たちはね、自分からは絶対に動こうとしないんだ。誰かが動いてくれるのをずっと待っているんだ。だから、見てごらん。あの人たちのあごはすっかり固くなって、ほとんど動かなくなってしまっているんだよ」

「それって、なんだか……」

「誰かが助けてくれると思い込んでいるんだ。自分で自分を助けるんじゃなくてね。そういうものなのさ、あの人たちは」

「あの人たちっていうか、それってまるで、人間そのものというか――」

 僕がそう言いかけたとき、フィロンのまなざしが泥のように濁った。

 でもすぐもとのフィロンに戻ると、にこっと僕に笑いかけた。

「ハルくん、次、行こうか?」

「う、うん……」

 なんだか僕の頭の中は、だんだんとぼやけてきている感じがしたんだ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み