第9話 不安

文字数 1,083文字

会社を出て家に着く頃には、プロマイド写真がメールで送られていた。流石はプロのカメラマン、自分で言うのはなんだがカッコよく写っている。僕は京子に見て欲しくて、さっそくプロマイド写真を送った。

「かっこいい!翔太はもう芸能人だねえ。なんだか翔太が日に日に遠くに行ってしまう気がする」

「遠くになんか行かへん。これからもずっと京子の横に居るで」

「ありがとう、そうならいいけどね……」

メールの文面からは京子の不安感が伝わってくる。それも仕方ない。僕がもし逆の立場ならきっと不安が募るだろう。愛する人が芸能人になり、どこか遠くへ行ってしまう。そして芸能人になると周りからもチヤホヤされ、きっと僕のことなど捨てて、イケメン俳優の所へ行ってしまうのではないかと。僕ならきっと、芸能界入りを反対するだろう。

僕は居ても立っても居られず京子に電話した。着信音が二回鳴った時、京子は電話に出た。

「もしもし京子、そんな不安がらんでも大丈夫やで」

「うん、わかってるけど……なんだかね」

京子は少し涙声だった。なんとしてでも京子の不安を取り除きたい。懸命に頭を働かせたが、いい言葉が浮かんでこない。

「そういえば、京子と初めてデートした時は緊張したなあ。前日の晩寝られへんかったわ」

「懐かしいね。翔太すごく頑張って話してくれてたよね」

「だって京子全然話してくれへんかったもん」

「緊張してたし仕方ないよ。多分翔太よりも緊張してたよ」

なぜか初デートの話を始める自分がいた。初デートに誘うはいいものの、デートなどしたことのなかった僕にデートプランを作るなど至難の技だった。結局、映画を見てご飯を食べて帰った。それはそれで楽しかったが、自分の経験のなさを少し恨んでいた。初デート以降は京子がずっとデートプランを考えてくれている。きっと僕がデートプランを作るのが苦手なのを察したのだろう。

「あの映画は面白くなかったよなあ。最初から最後までずっと退屈やった」

「確かに。ハズレだったよね」

「初デートにこれはミスったってめっちゃ思ってたもん」

「今ではいい思い出だけどね、わざわざ電話ありがとうね。バイト行ってきます」

「いつでも電話するし、かけてきてな。バイト頑張って」

「うん、ありがとう。じゃあね〜」

「はーい」

少しは元気になったようで良かった。

僕はいつも通りジムへ向かい汗を流した。ジムに通い始めてから身体はだいぶ変化した。これなら撮影で脱ぐことがあっても恥ずかしくないだろう。

日に日に芸能人への道が前進していた。




ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み