第5話 張り込み
文字数 1,077文字
二階からエレベーターで一階に下り、メーターボックスに入って扉を半ドアにして張り込み開始。靴音、エレベーターのボタンを押す音、エレベーターのドアが開く音。それを合図に扉を少し開けて覗き見る。エレベーターに乗り込む時、人は後ろをふり返らないからだ。
何度めかで要がエレベーターに乗り込む後ろ姿を確認できた。俺はメーターボックスの扉を静かに閉める。開けたままだと、エレベーターに乗り込んでから正面に向き直った要に気づかれてしまうからだ。エレベーターのドアが閉じる音。
俺はメーターボックスから出てエレベーターのランプを確認する。1、2、3、4。アイツは四階に住んでいる。エレベーターで四階に行き表札を確認したが、ワンルームマンションのためか誰も表札を出してなかった。
後日。俺は四階で張り込んでいた。帰ってきた要が部屋の鍵を開けたら一緒に入るつもりだった。だけど、その日アイツは妙に勘が鋭くて、エレベーターから出てきた瞬間に俺に気づいた。
「何してるの? こんな所で」
「お前、何号室だよ?」
「ナイショ♪ あ、雑誌買い忘れちゃった。一緒にコンビニ行かない?」
「行かねーよ」
「じゃ、またね」
アイツは一人でエレベーターに乗り込むとドアを閉めた。ランプは3、2、1と点灯。俺は四階で待ち続けたが、あまりにも帰りが遅いから電話すると要が出た。BGMがやたらとうるさい。
「どこで何してるんだよ!」
「コンビニ行く途中で知り合いに会って、カラオケに誘われたから遊びに来てるの」
「お前、ふざけんなよ」
「ふざけてないわよ。ほんとにカラオケボックスに来てるの。あと一時間ほどでもう一人来るから合流するの」
「お前、何号室だよ?」
「えーとね、
「嘘つけ! 四階だろうが」
「え、ここ四階? ドアには305って書いてあるけど」
「カラオケの部屋番号じゃなくて、お前のマンションだよ!」
「ああ、なんだ。こっちに来るのかと思った」
「行かねーよ! 俺は明日も仕事」
「そう、残念ね。じゃあまた今度。おやすみなさい」
結局、その日の張り込みは失敗した。言っとくがストーカーじゃないぞ。アイツが俺の部屋を知ってるのに、俺がアイツの部屋を知らないのは不公平だからな。