ペンネーム:積木 昇 『第二話「ルザリカ、地獄の新人研修」』

文字数 20,401文字

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積木 昇さま

この度は「ダンジョン屋のおしごと」企画へのご参加ありがとうございます。

投稿いただきました作品につきまして、また企画全体の今後の進め方につきまして検討を行ないまして、編集部での方針が決定いたしましたら、個別にご連絡を差し上げたいと思います。

お手数をおかけいたしますが、連絡用のメールアドレスを
【 kyogen.hensyu@gmail.com 】 までお送り頂けますでしょうか。
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kyogench

第二話「ルザリカ、地獄の新人研修」        ペンネーム:積木 昇


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すごいすごい!ほんとに飛んでる~~~~!!?

飛行船に乗ってすぐに小窓に張り付き子供のようにはしゃぎまくるルザリカ。



今まで馬車しか利用したことがない(他の乗り物はチケットの買う方法が分からなかったのだろう)ルザリカにとって飛行船は未知の乗り物だったのだ。

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これどこ行くの!?ねえどこ行くのっ!?

アホの娘はキラキラしてお目々でムッソに振り返り叫ぶ。



まだ離陸して5分しかたってない。



ルザリカのスライム脳からは村での感動的(?)な離別がもうすっかりと抜け落ちていた。

you0429

うるせえぞ! ここは託児所じゃねえ!
これはもはや動物園なのである
何これ!?何これっ!?

脳みそがノミ以下のルザリカはすでに興味を他のことに移し、飛行船の内側に張り巡らせたエーテル圧配管をよじよじと上り始める。

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猿か貴様ァ!?
社長にこれだけ大声で突っ込ませたのはルザリカ殿が初めてなのである

ムッソはすでにルザリカを社畜にしたことを後悔し始めた。

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おらぁ!
――あごお!?

ムッソは転がっていた岩パン(乗組員の非常食なのだろうが掃除がなってない。5Sからたたき込み直してやる)を投擲しアホの子を壁からたたき落とした。



 

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ふぁにふぉれ~!?あたしの誕生日プレゼント!?

当てられた岩パンを見るやいなや口いっぱいに頬張り、ばりばりとエグい音を立てさせながらかみ砕いていくルザリカ。水で戻さなければ熊でも食えない食い物をいともたやすく食っていくルザリカ。

you0429

こいつ……本当に人間か……?

一周回ってあきれてきたムッソ。



アホの事など考えたくもない。考えたくもないのだが一つだけ懸念が存在する。



 

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ーーーーあのアホ、初めて会った時俺様に一撃を食らわせたのだよな
アレには我が輩も目玉が飛び出すかと思いましたぞ!
――俺様には常に突発的暗殺等に備えた最新式の階差機関(バベッジシステム)の演算詠唱によるエーテル障壁が半永久的に張られていたはずだ
大型スチムゴーレムの攻城パイルバンカーの一撃でも持ちこたえられるという術理思想の一品ですな
それを突き抜けたのか解除したのか分からんがその現象にあのアホが関わっている可能性を否定できん。その原因をつかむ前にアホを逃がすことは考えられん。社長たる俺様は社員達に食わせるために死ぬ可能性はコンマ1%も許されないのだからな。


調べてみて、もし障壁を突破できるような要因をアホが持っていた場合――
持っていた場合――?
我が社の社訓詠唱で脳幹までひたひたに洗脳し、我が社専用の特殊設備として設備投資してやってもいい
しゃちょおおおオオオオー!ふとっぱらですー!いよーーー!世界いちいいいいいッ!!
ふはははは!!もっと褒めろ!!
ねえそろそろいいかしらァ?
はぁ?
なんなのである!?

気持ちよく笑う二人の後ろからアホの娘の声が。無理にハスキーな感じをだそうとしてカスカスな声が出てきている。

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そろそろわたしたちがどこへ向かっているのか未来の勇者たるお姉さんに教えてくれるのかしら……うふん?

なぜかルザリカは不適に微笑み、わざとらしくしなを作り、出来る女風を装っている。右手にもったフリをした空想ワインのグラスをゆらゆらと揺らす。



アホの娘は未知なる空飛ぶ船にのって自分が偉くなったと錯覚しているのだ。

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(イラァ)
(イラァ)
押さえつけとけ
イエッサ!
なにをするだァーーーー!?

ムッソはルザリカの背後までわざわざ回り込んでから右足を限界まで振りかぶる。

スカールに逃げられないように拘束されたルザリカのケツに狙いを定める。

そしてムッソは膝上10センチのミニスカートとくまさんパンツに守られたルザリカの汚れなき(トイレに行った後ちゃんと拭いていれば)割れ目にダイレクトキックをかました。

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おらぁ!
――ぎゃおおおお!?
ムッソのピカピカに磨かれた最高級ブランド革靴のとがったつま先がルザリカのミニスカートの中に潜り込み、くまさんパンツに守られたいたいけな割れ目に遠慮無くめりこみ、丁度二つの谷の間に秘められていた穴蔵にまでくまさんパンツごと容赦なくめりめり食い込んでいく。

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あおおおおおおおお!?❤そんなとこ入っちゃらめえええええええ!?

本来なら床にごろごろ悶絶する痛みだけをくらうはずがさっきがぶ飲みさせられたドM薬により気持ちよくなってしまっているルザリカ。

スカルの拘束から解かれ、床に突っ伏すが、そのままうつ伏せになり変な芋虫のように腰をへこへこ❤尺取っていた。


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……うわっえんがちょ

ルッソはオキニの革靴が思ったよりルザリカのケツに深く突き刺さったことに顔をしかめた。後でルザリカに拭かせてやる。

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うええええええん――!こんな辱め受けたなんてもうお嫁いけないぃぃいいいいーー!

床でばたばたしながら泣き叫ぶルザリカ。そのたびに膝上10センチのミニスカートがひらひらとはためき、むちっとした健康的な太ももがふにふにふにり(動詞)、肉の間に挟まったくまさんパンツが窮屈そうにくしゅくしゅと形を変える。

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……パンツ見えてるぞ

童帝ルッソはアホの娘パンツには興味ない風を装いながらぶっきらぼうに言う。

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おふっおふっおふっ!このおおおおおおおおおおお!お尻が割れて三つになったら魔王に魔改造されましたってニュースペーパーの投稿欄に投稿してやるぅぅ!会社の株価下げてやる~~~~!
……おい今日は槍が降るのか。こいつ株なんて高尚なもん知ってやがったぞ
驚きなのである。極貧冒険者には一生縁の無いもののはずなのである
おい、アホ。なんで株なんて知ってるんだ。しかも悪評が広まったら株価が下がるなんて限られた人間しかしらんぞ
え?みんなが食べたくなったらおいしくなってみんなが食べたくなくなったらまずくなるんでしょ?わたしも株食べたいッ!
それは蕪ちがいだっ!……だが、まあ大筋あってるのが始末に悪いな
この娘にものを教える場合は食べ物と関連付けるのがいいかもなのである
まあいい。どこに行くかだったな。

都心だ都心!都心の一等地にある俺様の会社(ホーム)で俺様自ら監督しての貴様の新人研修だ!

ありがたく思えっ!

えええええええ!?



新人研修とかわたしの一番くらい嫌いな言葉なんだけどっ!?

何個もバイトしてその全部で新人研修切りされてきたんだよぉおおお!研修は嫌だよぉおおおお!

ルザリカはこの世の終わりとばかりに嘆き叫んでいる。

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……書類審査は通るのか。……まあ見てくれは悪くないしな(ボソッ)
――え、あんた今わたしのこと褒めた? なになに~~?ボク、お姉さんのこと好きになっちゃった?♥でもだめ~♥わたしの操はあと一年くらいはタっくんのものだからねっ!なんてけなげなわたし。よよよ
う、うぜえぇぇ……!

地獄耳に聞かれたくなかった事を聞かれてしまったルッソは羞恥に耐えながら脳内新人研修マニュアルにある「叱るだけにせず適度に褒めろ」項目にルザリカ限定で横線を引いた。

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くそっ、これから覚悟しとけよォ。死んでも生き返らせて完全に従順な奴隷(シャチク)に仕立て上げてやるからなァ……!

泣き真似を続けるアホに向かって握りこぶしを震わせるルッソだった。

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――着いたな。


ヒャッハーーー!我らが街だあああーー!!
着いたとたんにうるさくなったのである。
荒くれを標榜してはいるが根は田舎者でしかないモヒカン達は未知のオーパーツである飛行船の中では今にも死にそうな青い顔で震えていたのだった。

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半日かけ、都心のまっただなかにぽっかりと空いたダンジョン屋専用の船ポートに到着したダンジョン屋面々。

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おら起きろォっ!!

げし。

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何事っ!?
船内散策に飽きて従業員用備え付けベッドに勝手に寝こけてしまったアホを蹴り起こすルッソ。

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着いたぞ。

うあああおあおあ……!
寝ぼけたルザリカは珍妙なうめきをあげる。

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一向に歩き始めないルザリカにしびれを切らしたルッソがケツを蹴り上げ追いたてる。

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おら降りるぞ!
うぼあああ……!
ルザリカは家畜が追い立てられるように進んでいく

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――ルッソルザリカスカールの三人はモヒカン他社員たちと別れ都心の中心に突入していく。

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どこだここっ!?いつの間にわたしは魔王の国にやってきたんだ!?



あほ、ここはお前の国の首都だ




えええええ私こんな未来の国に住んでたの!?


ルザリカ殿がそう思うのは仕方がないのである。都会と田舎じゃ時間の進み方が100年違うのである。




300年前くらいはどこもド田舎と同じようなもんだったがな。



???



――まあいい。お前が一生縁のないはずの都心にこれたのは新人研修のためだ。


そしてあの塔がお前の新人研修を行う我社ダンジョン屋の本社ビルだ。




そこには、高くそびえる100回ほどの鉄塔が立っていた





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※※※※※注意※※※※※


ここからは締め切り直前に際し、表情差分や台詞色等の変更が出来なくなってしまいました。

見通しの悪さが露呈してしまい、申し訳ありません。

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え、あれが!?なんか神様が怒って神罰落としそうなあの塔!?


――バベルの塔じゃねえぞ?ていうかお前、バベルの塔知ってるのか?


ほわ?


……まあいい。アレは俺が設計建設を行った建造物だ。


はえええええ!!アレ作ったの!?


フフフ……。驚くのも無理はない。現代の技術じゃ実現不可能な所、俺様の考えた悪魔的設計技術と最高峰のエーテル技師による鋼材補強で補っているのだ。


いっそのこと全部俺様がすればよかったのだが設計魔術でこんな箱物作れば都心一帯のエーテルが枯渇してしまうからな。そこらへんの面倒くさい調整作業をさせるのには社員を使うのが一番だ。


社長があくせく手作業をやっていたら会社が回らないからな。そのために高い金を出して従業員を雇っているんだ。


ふえええええ。あれよじ登るの大変そう……!


ルザリカは話を聞かず偉大なる記録に挑む挑戦者のような顔をしていた。


おいアホわくわくした顔すんなっ!あれは猿の木じゃねえぞ!?内側からのぼれよ!?


内側によじ登る用の突起が付いてるのっ!?


お前ドアホかよ!? 常人は歩いてあがるんだよ!何のために階段があると思ってるんだ!


……ロッククライミングをしたくない人用?


出社のたびに毎日ロッククライミングってそれお前拷問だろ!?やる奴いねえよ!


えっ……?


お前、マジで驚くなよ!上に上がるのは歩きだからな!


ええええ~。


残念そうな顔すんな!


それに100階もあって、歩きで行くわけもないぞ。


え、どゆこと?


昇降機というものがあるのだ。


今まで奴隷が滑車を引っ張るような原始的で小規模な人力昇降機なら存在した。

だが、エーテル圧を駆使した100階にも及ぶ超大な無人昇降機を作れたのは「エーテルの魔術師」とも呼ばれる俺様の手腕のおかげだ。


ほええええ?


驚いたような分かってないような声だすな。


まあいい。乗ったら分かる。驚くぞ。全面吹き抜けだ。


ふむふむほえええ。


……おいアホさっさといくぞ……?どこいった。


何これ何これっ!!?おいしそうっ!


さっそくどっか行くなっ!!


――そのあともルザリカは新型エーテルスチム車が四車線も走る大通り繁華街をあっちへこっちへはしゃぎながら周っていく。


お金などもっていない極貧冒険者なら目玉が飛び出るほどの都会特有高額商品の数々に目をまん丸にさせ、大口を開け驚きながらウインドウショッピングしていく。


もう全貌が見えているのに大通り突き当たりにそびえ立つダンジョン屋本社が遠い。

なげええええ……!


ルザリカの遅遅としてすすまない行程。


ド田舎のお上りさんがルッソの想定の5倍は時間をかけて散策しまくるものだからさっさと本社に行きたかったルッソの脳の血管がプチプチ切れていく。

シュゴオオオオオオオオ。

三人が歩いて行く歩行者道の脇の路面を走って行く路面エーテル蒸気機関車。

排気管から緑色に輝くエーテル光をまき散らして現代の風景の一部となる。


そこにはカジュアルなスーツや流行りのワンピースを着た女性やらが詰め込まれている。

アレに乗っていけば良かったかっーー!

ムッソは今更後悔するが、あのひしめき具合の中に乗る忍耐力はない。

社用車を用意したら良かったのだが、せっかく都心にきたのだから新人奴隷(シャチク)に自慢したかったという面もあったのは否定できない。



この地が首都であり都心と成り得たのはひとえにダンジョン屋の発展があったからだ。

ダンジョンというのは資源と人が集まる要素を兼ね備えているのだが、基本不安定であり危険もあって、突発的な事故が後を絶たなかった。


なので都会にダンジョンを置くことなどもってのほか、郊外の田舎に建てるのがもっぱらのセオリーだった。

そこでムッソは、持ち前の五大技術「魔術」「風水術」「陰陽術」「錬金術」「精霊術」を駆使し、安全安心のダンジョン屋ブランドの一大ダンジョン都市を建設。


「ダンジョンと共に生きよう」という宣伝文句を掲げられた新都市に惹かれた冒険者が殺到し、商売魂を刺激された商人や商社が集い、労働力が必要とされることで他の都市や田舎からの移住民でごった返した。


急激に人口が増え、商業の中心、国の中心になっていく新都市。


となれば政治家のお偉方も黙っておらず、活動の場を新都市に移していく。

そして最終的には議会を新都市に移したことで、政治、商業、工業が新都市に集中し、ついに国の首都へと変都されることになった。


――それが200年前のこと。

すごーい!すごーい!


おいアホっ!静かに歩けっ!


「あ、しゃちょーだ!

「みたことないからしんじんさんだー!

「あほっぽーい!


ダンジョン屋の社長として、人気も積極的にとっているムッソにはファンも多い。

いい服を着た都会の坊ちゃんたちがムッソをみて歓声を湧かす。


いつまでも典型的なお上りさんに成り果てていたるルザリカに根っからの都会の人間であるルッソは恥ずかしいことこの上なかった。


(でも……)


(――まあいいか……)


ムッソは、それでも、自分が作ったとも言えるこの都市を見て喜んでいるのだから少しくらい大目に見てやろうなんて思った。



都心のど真ん中にそんざいする広大な敷地、ダンジョン屋所有地だ。


本社に社宅に、倉庫、そしてダンジョンが多数存在していた。


そして2人はビルに歓声を上げながら突撃し、表面を昇ろうとし始めたルザリカをはたき落とし、本社の中に引きずっていった。




――そして。



――なにこれなにこれっ!?こっわ!死ぬっ!死んじゃう!あははははは!!おしっこ漏れそう!!


アホっ!んなことを大声で叫ぶな!


ルザリカ殿って精神年齢幼児なのである?


ルザリカたち三人はお金がすさまじくかかってそうな側面吹き抜けガラスの床大理石でできたエーテル昇降機の中にいた。


ルザリカはエーテル圧昇降機にのった途端に子供のように叫びまくり、吹き抜けのガラス板(街が一望できる玉ヒュン仕様)にべったりと四つん這いで張りついた。


さすがに怖いのかムッソの方に背中より高くなったへっぴり腰のケツを突き出し、そこにふわりとめくれたように乗っかった熊さんちらりのひらひらスカートとむっちむちなふとももをオスを誘い出すようにふりふり♥させてムッソに見せつけた。


…………。


ムッソはなぜか急に無言になった。


すっご!こっわ!


ふりっ♥ふりっ♥ふりっ♥


………………。


世界一位の社長は鋭い眼光としかめられた眉根でどこか一点を見つめている。そのまなざしは深淵なる疑問を探求し続ける求道者の様相を呈していた。


すごいすごいっ♥おなかきゅんきゅんするんだけど!あはははは!!


……………………。


…………社長って案外むっつ――


――う、うるせぇ!!


うひゃはぁぅ!?


急な大声におどろいたルザリカは全身に力が入ったようにビビクンッっと体とケツを痙攣させ、ガラスからゆっくりへなっと離れ、昇降機の磨き上げられた大理石の床の上にちょこんとかわいらしく女の子座りして両手を膝の間にぺたり。


ちょんちょんに短いスカートがぱさりと優しくその膝に乗っかり、カエルの様にひゅくひゅく震える太ももと一緒にふぁさふぁさと揺れる。


急に大声ださないでぇ……。ほんとにおしっこ漏れちゃう……。


おもっくそ弱気な声を出す涙目のルザリカ。


(なんだこいつ。胸がもやもやする)


――くそっ!くそっ!くそっ!


謎の敗北感を覚えたムッソは胸にやどるモヤモヤを発散するように叫びまくる。


世界最大の社長も大分お疲れさまなのだった。


(社長は精力的に働き過ぎてるので大分お疲れマラなのである)


おいそこの骸骨、いま何つった?




100階にもなると高速昇降機でも大分時間がかかる。


高いところが好きなムッソは最上階の100階をまるごと社長室にしている。


初めて昇降機が100階まで上がる時間を恨めしく思った。


(6大魔術を駆使してめちゃくちゃ速度あげてやろうか)


全然やろうと思えばできるが、そこまで必要で無いと思っていたので機能として付けていなかっただけなのだ。


これでまた世界の技術が何歩も前に進むこととなるのだった。


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じゃあおまえの契約から始める。



 



契約無くして社畜ならずだ。



 



ルッソは社長室に入ったあと、高級調度品にキラキラした目で突進を繰り出したルザリカに魔術で縛り付け、どうせ分からないからと会社の規則や罰則等を高速で説明した。



 



ほわああああああ……?



 



よし、わかったな。オーケーだ。



 



ふむん。



 



カッと目を見開くルザリカ。



 



 るざりかは かんぜんに りかいした !! 



 ぜったいに わかって いないな !! 



 しゃちょう うつって いますぞ !! 



 



 



 



おまえ、前のダンジョン攻略の時に体内エーテル《オド》を使っていないのか?



 



えーてるー? 



 



――使ってる!!



ドヤァ。



 



嘘つけ。脊髄反射で嘘つくな。あと顔がうざい。



 



ほんとなのに?未来の勇者であるわたしにわからないことなんて無いんだぞ!



 



お前は知ってる事の方が少ないだろうが!



 



……フ。



どやあ。



 



いらぁ。



 



じゃあエーテルについて400ワードで述べろ。



 



難しい顔。



 



――私はエーテルについて真に驚くべき真実を知っているが、ここで述べるにはワード数が少なすぎる。



 



どやぁ。



 



すぱん!



 



いったーーー!!



 



それが許されるのは超天才か大馬鹿者かだ。



 



珍しいね……?ムッソがこんなに褒めてくれるなんて……。



 



ルザリカ、後ろ手組んで、ちょっと前屈み。



 



清純派気取るなっ! それにおまえのカテゴリーは大馬鹿者だ!



 



えええええー……?



 



 



 



エーテルについての講釈。



 



エーテルにはオドとマナが存在するが、オドは人間の体内に存在するエーテルのこと、マナとは世界に存在する自然のエーテルのことだ。



 



オドはその人間によって量が決まっており、鍛錬や集中瞑想によって増やすことができる。



 



それに比べてマナは、到底人間1人が使い切れるような量ではない。



 



 



よって術師はオドを着火するための種火として、マナを制御するためのランニングコストとして使う。



 



戦闘者にとっては意識的にせよ無意識的にせよオドを使えていないとまともな戦力を発揮できないはずだ。



 



だからお前みたいにオドを使えていないということは剣も、銃も、斧も、木の棒さえもっていない生身の赤ん坊がドラゴンに挑むようなものだ。



 



命が幾つあっても足りない。



 



まあお前が今までやってきたことが死ななくて済むような低レベルだったんだろうがな。



 



しかもお前は自分の持っている剣のインスタント魔術の使い方すらなってないんだからな。



 



だからおまえには魔術を教えるよりも早い方法を使う。



 



おう!



 



楽そうだと思ったら途端に元気になりやがったコイツ。



 



もちろんスキルも覚えて貰うが、まずは最低限の戦力にならんかぎり、社畜にすらなれん。



 



だから、まずおまえの「門」をこじ開けさせる。



 



――。



 



……?



 



――こ、この鬼畜魔王っ!!わたしのどこの門をこじ開けるつもりなの!?前の門っ!?まさか後ろの門っ!?



 



おい。



 



変態!変態!変態!



 



それはおまえの方だド変態が。



 



えへへへへ……♥



 



なぜ照れるんだよアホが!?



 



ルザリカ殿、もしかして脳みそまでドM薬に染まっているのでは……?



 



そんなドM薬に順応するやつ始めてみたぞ!?



 



 



エーテルの門に決まっているだろうが!



 



えーてるのもんー?



 



アホの子の顔をさらしながら、間延びした声をだすルザリカ。



 



まあ、ルザリカ殿が知らなくてもおかしくないのである。



 



冒険者のなかでも達人〈アデプト〉と呼ばれる境地に至るには必須スキルなのであるが、一般人や一般的な冒険者には出回らない上等な情報なのである。



 



ほおおおおお!なんかすごい!



 



俺様の言葉はすべてすごいものと思え。



 



ねえねえムッソもアデプトなの?



 



……アデプトではあるな



 



社長はアデプトを数段うわまっている世界有数の存在なのである。常人では計測できない位階に到達されておられるのである。



 



ルザリカ殿が蟻、アデプトが人間とするならば、社長は神の使いというところなのである。



なにそれずっこい!わたし蟻なのに!



 



……俺様も神そのものになれていない程度ということなのだ。



意味深な顔。



 



あっ社長すみませんのである!



 



いや的確な表現だ。



 



むー?



 



 



いや、いい。話がとんだ。



 



そこで、まずおまえにはエーテルの門をあける訓練からだ。



 



エーテルの門が一門でも開けば、お前は一般的な冒険者を軽くひとっ飛びできる。



 



ほおおおおお……!?



 



わかっているのか分かっていないのかどっちでも取れるような関心の仕方だ。



 



何も知らなそうなお前がエーテルを感じられないと始まらないだろうし、エーテルの感覚を覚えやすいように補助輪をしてやる。



 



おまえの武器を渡せ。



 



機械剣。



 



どうして手に入れたんだ。安くない代物だが。



 



勝ったのかもらったのかわからないんだよ?



 



忘れたなんて言わないよな?



 



わすれた!



 



元気に返事することじゃないだろうが……!



 



(しかし、最近買ったか貰ったか手に入れたってものじゃないぞ……?)



 



使い古されていた。



 



いつから持ってた?



 



結構前かも?



 



だろうな。



 



アホが気にしなさそうな手垢とか、ほこりとか剣の曇りとかが一切無く、懇切丁寧に手入れをしながら使用されているのが見て取れた。



 



おいアホ、おまえ剣の手入れ誰かにして貰っていたのか……?それともおまえが手入れしていたのか?



 



手入れ……?剣って手入れするものなの?



 



……。



(どういう事だ。鍛冶屋の小人精霊も憑いていない。自己修復機能ももちろんない。)



 



(まあ、いい。あとで検証だ。)



 



おまえのこの剣、改造してもイイか?



 



ムッソは深く考えず気軽に聞いた。



 



………………。



 



振り向いたムッソはいつになく難しい顔をして無言を貫くルザリカがいた。



 



おい、どうした……?



 



………………へっ!?なになに!?



 



ぱっと顔をいつものに戻しきょろきょろと周りを見回した。



 



……。これを改造してもイイかと聞いたんだ。



 



……? いいよいいよ!ルザリカ様の成長に合わせて成長する剣!カコイイ!



 



何事も無かったように了承してきた。



 



…………あとで何か言ってもしらんぞ。



 



そこでムッソが工具空間をひろげ、機械剣の改造を始める。



 



がちゃがちゃがちゃがちゃ。



 



それを面白そうにニコニコと見学するルザリカ。さすがのアホもここで茶化すことはなかった。



 



おい、見られてるとやりにくいんだが。



 



いいじゃんいいじゃん。わたしの剣なんだから見せてよ!



 



ルザリカ殿いまの状況がどれだけ貴重か分かっているのであるか……?(震え声)



 



世界トップクラスののエーテル技術者でもある社長に自分の武器を改造して貰って、しかもその改造現場をタダ見できるとかあり得ないのである。



 



いくら金貨があっても足らないのである。



 



 



しばらくしたあと。



 



 



そのまま、武器が完成する。



 



 



なんか緑のカプセルいっぱい突き刺さってる~~!?



 



いわゆるエーテルガンブレードだ。



俺様作だから世間一般の流通品と一緒にしてもらっては困る代物だぞ?



自分でもいいできだ。



 



使ってみたい!使ってみたい!



 



よし、さっそく逝くぞ。



 



 



あれ……? なんかニュアンスに悪意を感じるんだけど……?



 



きのせいだ(ニヤリ)



 



きのせいなのである(ニヤリ)



 



絶対気のせいじゃない~~~!!



 

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本社敷地内のレジャースポット、都心の民のために開放している施設群がある。



都心に利益還元



お小遣いが稼げるようなテーマパークとしての憩いの場が存在する



資格がなくてもいけるのが苦痛すらしないような本当にお遊びのようなダンジョン。



初めての人間や危険から遠ざけられる子供たちはみんなそこで魔物を倒すという体験をする



そして子供の頃から冒険者という職業に対して憧れを持つようになる



その延長線でダンジョン屋の人気も上がっていく。



子供たちのコミュニティも初心者用ダンジョンで出来上がっている現実が存在する。



 



そして敷地内ダンジョンは難易度が多数ある。



 



ダンジョン屋が決めた規定に沿って振り分けられている



 



資格が要らないのは初心者コースにおける初級中級上級。



資格が必要となってくるのは初級者コースの初級からだ。



 



初心者コースは苦痛すら和らげられ、上級者になってやっと衝撃が来る程度になっている。



初級者コースからは魔物からのダメージは現実に則しているが、死ぬ時にはその苦痛を忘れるようにできている。



 



もちろん会社の敷地内で本物の死人を出すわけにも行かず、擬似的な死の一歩手前で完全再生魔術が行われるようにダンジョン中に魔術回路が張り巡らされている。



 



そういうふうに段階的に強い冒険者になれるようにという願いも込めて設立されている。



 



そして中級者からは全国トップクラスの規模と実績を誇る「ダンジョン屋」の正社員入社試験を受ける資格を得られる。



 



都心の人々もダンジョン屋に就職することが憧れであるし、外の町からダンジョン屋に就職をするためのおのぼりさんも多数存在する。



 



 



 



良い成績を収められたならダンジョン屋が発行している世界初のダンジョン情報雑誌MUSSOに全身写真が載るので、名実ともに有名人となる。



 



オペラ座の男優や女優と同レベルの社会的地位が約束される。



そういう方面に進出したい人間も多数入社してくる。



実際凄腕冒険者から、アイドルに転身し大成功を収めた人間もいる。



 



 



ルザリカが大人物の原石であるかどうかはやってみないとわからない。



 



(初心者コースなんぞからやってられるか)



 



ルザリカはちょっとした刺激程度ではびくともしないようなノミの心臓とノミのような脳みそしかないので、無理やり体で覚えさせるのが一番だとムッソは思った。



 



おいあほ、俺様たちが行くのはこの施設だ。



 



そう言ってムッソが連れてやってきたのは、通称「テバックルーム」だ。



 



なんかあんまりかわいくもかっこよくもないんだけど……。



 



ルザリカがさっきまで見ていたのは外向けの見栄えがよくできている施設であり、デバックルームは実用性重視の製作者側の施設だ。



 



クリエイターが自分の思ったように施設を作ることができる環境が整えられている一番コストがかかっている施設だ。



 



デバッグルームはムッソが陰陽術で見つけ出した巨大な龍穴の上に立っている。



龍脈の集合している龍穴からはエーテルが噴き出してくるので、潤沢に術を使うことができる。



 



 



 



 



 



 



そしてムッソは何をしたか。



 



テバクルームをモンスターハウスとかえてルザリカを中に放り込んだのである。



 



うぎゃあああああああああ!!



 



ルザリカは入った瞬間に多種多様な魔物に集られ、一発で死亡した。



 



デバッグルームの室内生命体(人間)の死亡というトリガーが押されて、魔術回路が起動し



ルザリカを蘇生し再生させた。



 



……ほええ……。



 



災害に巻き込まれたかのような理不尽な死を与えられ茫然自失となっているルザリカ。



 



(門は死にかけのときや、死の直前に見えることが多い。なら擬似的に使用死を経験できるこのダンジョンの仕掛けは人間が門を開け上の次元の存在になれるのだという新たな共通意識(パラダイムシフト)の礎になり得るかもしれない)



 



(それをこの新人社畜で試すのは酷ではあるが、コイツにはまだまだ分からない事がある)



 



(バグを持っているならば速めに潰さなくてはいけないからな……)



 



その物量に慣れて見せろ。



 



無茶言わないで~~~~!



 



涙目で逃げまくるルザリカ。



せっかく作ってやったガンブレードを1回も使えていない。



 



(まあ1回使ったとしても周りの魔物に押しつぶされて終わるだけだけどな)



 



 



 



うわわっ!?



 



……あのアホあんなちっこい石にけつまづきやがっ――――



 



――――ッ!


ガンブレードのエーテルが光を放つ。



 



途端不機嫌にもみえる無表情になるルザリカ。



 



ルザリカは手持ちのガンブレードを腕の延長線のように自然にとりまわし、一番身近で大きな魔物に突き刺すと同時にトリガーを引き、剣芯から放出されたエーテル光が大型魔物の体の内部を破壊し尽くした。



 



――――。



 



無表情のままのルザリカは今までの鈍重な動きが嘘のように3m はある大型魔物の頭の上にぴょんと飛び乗った。



3メートル以上の大きさの魔物はおらず、ルザリカは安全基地を手に入れたように大型の物の頭の上で佇む。



着地の瞬間のミニスカパンチラくまさんが今ではむしろ変なギャップになっている。



 



(おいおいおい……)



 



それは丹念な鍛錬のたまもの、身に染みついた反射的攻撃の時に多い。



 



 



ルザリカ、あいつ火事場のクソ力出すセンスがあるのか? あいつレベルにしてはクオリティ光る攻撃ができてたな。



 



今のはすごかったのである。ルザリカ殿死にたくないときは本気出すのであるか?



 



そういうレベルでもなさそうだな。



 



今の、門を開いてたぞ。



 



本当でありまするか!?



 



しかも多分、今処女開通しやがった……。



 



本当でありますか……。そして何故にその言い方なのであるか……?



 



常人にとってはエーテルという架空要素は本来認識できるようになっていない。



なので認識しようとオーソドックスな方法である瞑想で精神を研ぎ澄ましても、浮かんだ雑念が芽生え始めたエーテル感覚の細い糸を吹き飛ばし、認識を誤解し阻害する。



 



あいつ、迷いが無かった。エーテルを初めて知って、特有の感覚がエーテルだと分かったんだろう。



 



もしかしてルザリカ殿才能あるのであるか!?



 



そんなバカな。



 



ムッソはむしろ信じたくない類の話だった。



あのアホが才能があるなら世の中の凡才がキレて襲いかかってくるだろう。



 



 



なんか今日いけそうな気がする~~~!!



 



――あると思います!



どやぁ。



 



――んなもんねえよ!



 



正気に戻ったようなルザリカがどや顔を決めた後は、攻撃の時にかっこよさや鮮やかさを前面におしだしまくって全く実用的な攻撃ができて無かった。



 



ぎゃうううう!?



 



魔物をひるませることできず、当たり前のようにカウンターアタックをくらっている。



 



ルザリカ殿ほんとラッキーアタックが多いのである。



 



……。



 



 



あ、また死んだのである。



 



 



おらぁ!新しいヤクだぞ――!



 



がぼお!



 



死んだルザリカが蘇生した瞬間、ルザリカのぽかあと開いた口にムッソが遠投したフラスコ首が奥まで突っ込まれた。



 



ごきゅごきゅごきゅ。



 



 



 



……あへあへあへ♥



 



女の子がしちゃいけない顔してるのである。



 



ドM薬漬けになってやがるな。



 



依存症がないのが救いなのである。



 



 



耐久テストとストレスチェックを兼ねていたが、さすがスライム脳だ。全然堪えてねえな。



 



(しかし、本来人間には生存本能があるはず……。すでに三桁に届く回数死んでいてトラウマひとつ出来ないなんてな)



 



 



(……死に対する恐怖という物は消せていないはずなのに全く顔に出ていない)



 



(……なんだこいつ)



ルザリカの謎は深まるばかりだった。



 

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今何時だ。



 



ムッソが金の懐中時計を開いて見てみると5時30分になっていた。



 



おいあほ。休憩だ。



やったーーーーーー!!休めるうううう!



 



 



 



3人は本社ビルに戻り、ムッソとスカールは100階へ上がっていき、ルザリカは50階に存在する社員レストランに降ろされた。



 



ふおおおおおお。綺麗~~~!



 



高級レストランそのもののような豪華な様相であり、調度品一つとってもルザリカの年収ではとても買えないレベルだ。



 



そこで出される料理はムッソ直々にレシピを作った特製レストランだった。



漢方や、食べ合わせ、栄養価、体内循環、血流。



等々の、東洋医学から、西洋医学、ありとあらゆる知識が合わさった濃厚なレシピの数々がそろえられている。



体にいいと言ってもそのどれもが最高レベルに美味であり、若返ると言われるほど健康に良いし、術者的に言うとなんかいつもより頭がすっきりして強くなったように思える程にやばいらしい。



 



 



社長すごいでしょう?



社長は何でもできるからな。



さすしゃちょですわ。



 



テーブルにはある程度見栄えが悪くない社会人たちが思い思いに休憩していた。



ルザリカが見つけたのは、村にいた時に自己紹介くらいはした人たちがいた。



 



ルザリカを見つけた3人は笑顔で手を振り、ルザリカを招き寄せた。



 



ルザリカも顔見知りがいたせいか、ムッソに対する愚痴が溢れる。



 



あの魔王、何回も何回も私を魔物の海の中に叩き落とすんだよぉ!信じられないでしょ!!



 



一杯までは無料で出されるドリンクの中から100%オレンジジュースを選びごくごく飲み干しながらムッソのこと魔王といってぼろかすに言うルザリカに、社員がなだめる。



 



社長は有能な人間しか選ばないから、ルザリカちゃんにもきっと才能があるのよ。それに期待して社長直々に新人研修なんてやってくれてるのよ。本来はもっと下の人間のやることよ。こんなの前代未聞だわ。



 



もちろん、才能云々なんていうのはその時々によって簡単に揺れ動くようなものだ。



 



最初は何もできなくて会社に損害を与えるような能力の無い人間も時にはいる。



 



でも社長はその人間の裡に眠る意志を最優先して監査するから、社長に見初められた人間はどれだけかかっても最終的には成功者として成長することができるのよ?



 



もちろんよっぽどだったらスパルタ研修はじまるけどね。



 



無断欠席、の常習犯だったただのモヒカンが一晩でエリートビジネスマンになった時には怖気が走ったね。なにをされたんだって。まさに別人だって。



 



洗脳魔術でもつかったのですかって。



 



なら社長は、



「魔術なんぞに頼らずとも洗脳くらいできるわ。馬鹿にするな」



だとよ。



 



 



ひえええ。



 



ルザリカびっくり。



 



おまえさんもいつのまにか洗脳されるかもしれんぞ。



 



 



いや~~わたしかわいいからな~~!心配だな~~!



 



……そうだな。あんた見た目はイイからな。



 



見た目だけじゃ無いわよ?内心を重視する社長が雇ったんだから内心も気に入っているのよ。



 



ルザリカちゃんは底抜けに明るいけど、やっちゃいけない一線を越えないとこもポイント高いんじゃない?



 



……なんかまともに褒められると恥ずかしい~~~!!



 



赤くなるルザリカ。



 



あははははは!



 



 



 



ようおまえら。



 



 



ガタタ。



ムッソがやってきたのに気づいた社員全員が一糸乱れぬ動きで椅子から立ち上がり最敬礼の姿勢でピタリと止まる。



 



お疲れ様です!(大声)



 



レストラン中が振動するかのような大声が響き渡る。



 



お疲れで~ごぜ~ま~すぅ……。



そしてワンテンポもツーテンポも遅れてぶすくれつ追随するルザリカ。



 



こら反抗期娘。



 



いやいい。まだ入社したてだからな。明日くらいには嫌と言うまで染みつかせる。



 



 



それで明日は休日だが、今日の終わりに会があるから全員集まるように。



 



いえっさー!×多数(大声)



 



会?何それ。



 



おまえも行くんだ。まあ、行ったら分かる。



 



ふ~ん?



 



話は以上だ。休憩してくれ。



 



社員たちは静かに休憩に戻った。



 



 



――すると突然。レストランの扉が乱暴に開け放たれた。



 



見るからにエリートビジネスマンがやってきた。



 



彼がさっきいった元モヒカンだよ。



 



ひええええ。どうやったらアレからあれに……?



 



 



社長大変です――!!(大声)



 



――――何だ。



 



いつもルザリカにはどこかやんちゃな子供めいた稚気を見せていたムッソが、底冷えするような低い声を出した。



研ぎ澄まされたナイフを首元につき付けられたかのような怖気が社員たちに広がる。



 



わが社の系列の子会社がダンジョン管理に失敗し、報告もせず放置した挙げ句夜逃げしました――――!!



 



 



ルザリカ以外の全員に電流が走ったかのようにびしりと体が硬直した。

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――逃げたやつには解決屋(スイーパー)を送れ。そして俺の前に生きて連れて来い。言うことを聞かなければ2、3度殺しておけと命令しろ。



 



 



 



全スイーパー13人中、1番から3番までが休日、4番から10番までが外回り、11番から13番までが海外出張です!



 



1番から3番をたたき起こして向かわせろ。代休をくれてやると俺が言っていたと言え。



 



了解しました!!



 



ふがふが。



 



ルザリカは、鼻に詰まった鼻くそが気になるのか鼻と上唇をもごもごさせながら。



なんかたいへんそうだね~。ふがふが。



 



と気のない独り言をつぶやいた。



 



ムッソ「イラァ」



スカール「イラァ」



 



――おい……お前の初仕事だ……。



 



ムッソが底冷えのするような声でルザリカに強烈な眼光を飛ばす。



 



あっ!しまった聞かれた!?



 



あの娘怖いもの知らずすぎない!?



俺あの社長に話しかけるの無理なんだけど……



 



後で社員たちが戦々恐々としていると、ムッソはルザリカの首根っこ掴まえると、大きな窓の方に歩いて行く。



気の利いた他の社員が急いでガラス窓を開け、それを当たり前のように受け入れ、そして何の躊躇もなく飛び降りた。



 



 



ひぎゃあああああああああああああああああああ!!



 



 



ダンジョン屋本社ビル中にルザリカの悲鳴が響き渡っていった。



 



 



 



 



再びテバックルームにやってきた3人。



 



ムッソは言葉少なめに。



――お前が先頭だ。かかしくらいにはなってくれるよな。



といってデバッグルームの中心に存在している龍穴からエーテルが放出し始めた。



 



おらぁ!



ムッソは一切の呵責なくルザリカをげいんと蹴り入れた。



 



うぎゃああああああああ――!!



 



ルザリカの叫び声がドップラー効果のようなうわんうわんした変な叫びに変換されながらどこかへ消えていくルザルカ。



 



そのあとムッソとスカールも躊躇なく飛び込んだ。



 



 



 



出てきたのは洞窟の中。じめじめと湿った、典型的なダンジョンの姿である。



 



 



ここどこー!?



 



 



――会社から管理を離れた暴走中のダンジョンだ。



 



おっ!魔王!こんなところに美少女冒険者ルザリカちゃんを閉じ込めて、エッチなことする気でしょ!!



 



……。



 



……。



 



……ごめんなさい。



 



さすがのルザリカも現状がわからずとも、本気モードっぽいのに入っているムッソに謝る。



 



いや、お前はまだ入社1日目だからな。わかっている方が怖い。ちゃんと教えてやる。



 



ムッソはそう言って現状を伝え始めた。



 



 



ダンジョン屋とはそもそも放置や安全になるまで封印処理されていた龍脈や龍穴を資本主義的に有効利用できないかとムッソが考えた業務である。



 



本来龍脈や龍穴は、人間個人がどうにかできるようなものではなく、組織だった存在が計画的に封印するか、費用対効果が悪いという理由で放置されているという現状があった。



 



封印されているものは安全ではあるが封印し続けることに都市が傾くほどにランニングコストがかかる。



放置されれば、そこから強力な魔物が発生してしまい、地方都市や村々が崩壊の危機に落ちることもあった。



 



ムッソは6大術式を独自理論によりまぜ合わせ、龍脈や龍穴から放出されるエーテルを循環できる仕組みを作り上げたのだ。



 



それがダンジョンの走りである。



 



 



ある程度の低出力の龍穴や龍脈なら低ランクのダンジョンで大丈夫だ。



だがエーテル出力が増えていけばいくほど、魔物の中にも突然変異が生まれてしまう。



 



ダンジョン管理とはその突然変異が産まれてしまう前に消去することと、もし産またとしても即座に対応して消去することが求められる。



突然変異の消化の失敗とはすなわち突然変異の魔物の際限ないパワーアップである。



 



そしてパワーアップすればするほど討伐にエネルギーがかかる。



最悪社長であるムッソが本気を出せばどんな突然変異であろうとも難なく倒せる。それでこその世界一ダンジョンクリエイト集団の社長である。



 



だがそれに消費されるエーテルは龍脈や龍穴にダメージが出るほどになってしまう可能性がある。



そうすると他の龍脈や龍穴に異常が発生しエーテル大災害が起きてしまう。



そうなると、幾ら世界一のダンジョン屋でも賠償金で倒産してしまう。



そして責任を取らされる社長であるムッソは国による極刑が言い渡されるだろうとも。



 



魂の消滅を司るエクスキューターによって蘇生も出来ないほどに。



 



 



そんな……。



 



話を聞いたルザリカはそんなにも大問題だとは思っていなかったのだ。



 



まあ今回のはそこまでひどくはないが、それでも子会社が対応できない程度には危険だ。



 



私たち以外の戦力は……?



 



龍脈移動はコストが高い。少数精鋭を送り込む時ぐらいしか使えない。



 



じゃあ私はいらなかったんじゃ……?



 



おいおい、今までの強気はどうした。



 



でも……。



 



大丈夫だ。世界1位の社長であるこの俺様がいるんだ、お前はこれが新人研修の最終試験だ程度に思っておけ。



 



――うん!



 



 



元気を取り戻したルザリカと、稚気が戻ったムッソはダンジョンの最奥に向けて走り出した。



 



 



こっち――!!



 



ちげえ!!



 



こっちか!



ちげえええ!



こんどこそ!



どんだけだよ!



 



ルザリカは放っておくと奇跡的な凶運で即死級の凶悪な罠にことごとくハマろうとする。



 



いちいちルザリカの蘇生を待っていたら手遅れになるので、ムッソはお得意の魔術で罠ごと破壊していく。



 



そんなのあり……?



 



はなわ自動生成されるように設計されているからダンジョンの一部なんだぞ。ダンジョンの一部を削ってるってことはめちゃくちゃコスト送ってるってことだ。



あまり俺には直子はさせるなよ



 



はいいいい!!



 



再び機嫌が悪くなり始めたムッソに威勢良く返事をするルザリカ。



 



 



ぷぎゃああああああああ!



 



おらぁ!



 



大量の魔物が出てきた場合はルザリカがおとりの役割を果たし、死んで生き返っている間にムッソが低コストの魔力弾を連射し、殲滅した。



 



 



3時間から4時間ほどかけて強行軍が最奥に到着した。



 



 



これはもちろん記録的な数字であるし、異常事態のダンジョンということを加味すればさらにすさまじい結果である。



 



――着いたぞ。



 



後から来てるぅうぅ!!



途中モンスターハウスを貫通してしまったルザリカ。



 



殲滅してる暇はないので、そのまま引き連れてきた。



 



スカール。後任せた。



 



了解なのである。



 



そこは長年連れ添った2人。あうんの呼吸で連携を取り合う。



 



 



――行くぞ。



ほんとにいくのわたしがいや、うおおおおおおおおおおおおお!!



 



あくまで冷静なムッソに対して変なテンションになっているルザリカ。


……。」




仕方ない、ちょうどいいからやってみるか。とムッソはそのルザリカを見てうっそりと思った。



 



 



 

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なにあれ魔王(ムッソ)……?



 



おいアホ、魔王と書いてムッソと読むなよ?



 



わかった!?



 



■■■■■■■■■――!!



 



他の存在が入ってきたのに気づいたのか黒の塊が動き出す。



2人の目の前には10mを超える黒鋼の鱗をまとった幻想的な神話的ドラゴンだった。



 



めっちゃ強そうなどらごんんん!?



 



あれはもともと体表が緑色のリザドラゴンだったのだが、突然変異で位階が3個ほど上がってブラックマスタードラゴンまでいってやがるな。



 



ぶらっくますたーどらごん!!



 



ルザリカは現実逃避にアホの娘になった。



 



なぜならBMDはおとぎ話や英雄譚に出てくる時には悪の権化として、時には龍騎士(マスタードラグーン)の得がたき相棒としてでてくるまさに神話的生物だからだ。



 



現代でも数体見つかっており、てなづけた龍騎士はみなアデプト越え《マスター》になって国直属の英雄になっていたりする。



 



 



かてないよぅ……。



 



ムッソは例外として、ルザリカのみだったら指先一つで殺されるだろう。



 



ルザリカが蟻だったとしたらBMDは英雄レベルだ。



 



フフフ。



魔王が壊れた!



突然ムッソが含み笑いをし始め、ルザリカがお手上げ状態で固まる。



 



 



こんな時でもど素人をいっぱしの使える人材にするのは社長の手腕によるんだよな。



 



 



そう言ってムッソはおもむろに背後の異空間を広げた。



 



カチャカチャカチャカチャ。



 



歯車の音が聞こえる。



 



それはムッソがとある天才に助言し完成に至たらせた魔の計算機械。



 



階差機関(バベッジシステム)の起動音であった。



 



 



 



社長命令だ。演算を開始しろ。



 



対象をルザリカ・バッカミールに設定。



 



――――分刻みの傀儡兵(クロッククラッククリエイター)――――



 



己の夢で染め上げろ。



新たな存在へと目覚めさせろ。



そして命をささげさせろ



 



――世界のすべては俺様の願いを叶えるための歯車でしかないのだから。



 



 



 



――――――――。



 



ルザリカは不機嫌そうな、無表情な顔になっていた。



 



ルザリカ。なぜアホはアホなのかしってるか。



 



 



……。



 



 



ろくにしらない頭で無理に考えようとするのがいけないのだ。



 



 



余計なことはとっぱらってやった。



 



 



思う存分やってみせろ。



 



 



――――うん。わかった。



 



 



いつもとは違った静かな声色のルザリカは何の恐怖も浮かばせることなくブラックマスタードラゴンに戦いを挑んだ。

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その後優勢のまま勝利し、

元に戻ったルザリカが入社祝いで心から笑い。お祝いされた。


終わり。

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登場人物紹介

ルザリカ・バッカミール


世間知らずな田舎出身の冒険者。

実力が伴わない自信家。要するにヘタレ。

気持ちが前過ぎて勘違いばかり。


ありとあらゆるトラップにかかる才能(バカ)があり、生成したダンジョンのベータテスター(奴隷)として雇われる。

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ムッソ・ゴルドスキー


見た目は少年だが、世界一のギルド社『ダンジョン屋』の社長。

金こそが全てというマネッサンス社会に君臨する絶対的な支配者。


ダンジョンを中心とした冒険者ビジネスの火付け役であり、その影響力は国も動かすほど。

頭の悪い人間をすぐに小馬鹿にし利用する。性格が悪い。


・恐らく最高齢(?)の種族不明の少年
・社長室に居る間も休む暇なく、ビジネスのことばかり考えている
・会議はだいたいGさんと二人っきりで進めている
 それを幹部に伝え、それぞれの部署ごとに進める感じ

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■ スカール・G・ゴメボロス
・博識な手足がついた頭蓋骨
・休息中はマナ節約のため、返事がないただの屍になる

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■ モヒカン
・実はダンジョン屋の平社員、大量に居る
・かませ犬、やられ役のスペシャリスト、サクラ、雑用
・見た目と言動がアレだが、期待を裏切らない愛すべきモブキャラ

村長

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■ ヤチエ・ゴーニャン
・ギルド社『開運クロネコ鑑定団』に所属する猫耳鑑定士
・金の亡者、ビッチ、自称ムッソの愛人
・貧乏人には冷たい、金持ちには猫をかぶる
・ルザリカに敵意剥き出し、アホを装ってムッソの資産を狙う泥棒猫だと思ってる
・ネズミが怖い

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■ イビール・ダークサイダーZERO世
・モヒカン達を従えるデスメタルロックバンドのリーダー
・モヒカン達に『クイーン』と呼ばれているが男エルフ、ドS
・魔術でメイクアップ、ステージごとに印象変わる
・普段は綺麗なお姉さん風
・魔術の達人でド派手なステージの仕掛けも殆ど一人で発動させている
 巻き込まれているモヒカン達は演出ではなく本当にぶっ飛ばしている

差分

■アナルタシア・P・ゲイホルグ
・メルヘンな衣装に身を包むゲイのおっさんに見えるが、大きな妖精さん
・数々の人気吟遊詩人グループを生み出した業界一のプロデューサー
・部屋も凄くメルヘン(拷問部屋とも言う)
・精霊術の達人で精神操作や拷問はお手の物

差分

■ ユリーシャ・コンペッタ
・案内役を買って出る百合エルフ
・ドMでド貧乳
・一級風水予報士、お天気お姉さん、長い空の旅には欠かせない
・自慢の風水料理は殺人的な不味さ
・占い好き(風水と関係なく、花占いなど)

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■ キューデレラ・ボツリーヌ・ハリー・ボッテー(キューちゃん)
・プライドが高く、落ちぶれても偉そうな態度は変わらない困った王女様
・父と母は行方不明、従者ももちろん居ない
・自分一人でまともに着替えることも出来ないポンコツ
・見栄っ張りでハリボテ(スタイルも)
・すぐに人や物のせいにする(理不尽)
・性格は悪いが浅はかで憎めないタイプに
 悪い事をすれば必ず数倍の報いを受ける、悪だくみが可愛いなど
・ツンツンしてるが涙もろい、素直じゃない
・ルザリカと同じ見た目だけのポンコツキャラだが差別化を
 なんだかんだでルザリカは良かれと思ってバカをする良い子

差分

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■ ペケジ・リーマン
・ジャポネ出身(鬼)の企業戦士、ジャップメン
・仕事が速いが「暗殺しましょう」など直球かつ短絡的
・陰陽術と刀剣の達人で契約が主な仕事
・実は一番の家庭的スキルの持ち主
・いつも居るとは限らず、彼が居ない間の食事当番をどうするかが問題

差分

■ボイルド・ゴリエッグ
・やたらと「ロマン」と「風」を連呼するドワーフ
・説明できないことはロマン、予想外のことはだいたい風のせい
・遠回しな言い方をするので、ルザリカにはほとんど伝わらない
・船長だが機械いじりが好きで機関室の傍の工房が寝床
・制作物には必ず無駄な隠し機能をつける。禁止ワードで自爆など

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