北条 瑠華《ほうじょう るか》 四

文字数 602文字

「いい加減、家に帰って来なさい」
 叔父さんの言葉にちゃんと従ったのは、戻るところを失ったからだ。「俺の家に来いよ」と誘ってくる男もいたけれど、大吾以外の男に身体を触れられたくなかった。
 肩身が狭くなる、窮屈な家。でも、その家にも少しだけ癒しもあった。
 叔父さんと叔母さんの息子の、圭太と颯汰。二人はよく私を慕ってくれて、二人の存在が、私をこの世界に繋ぎ止めてくれた。
 圭太はちょうど反抗期真っ盛り。叔母さんにクソババアとか言ったり、叔父さんにも反抗的な物言いをする。でも、本当は人知れず悩みを抱えていて、ひとりで苦しんでいた。圭太がその悩みを私にだけ打ち明けてくれた時、私は救われた気がした。
 颯汰は小学生だけど、やんちゃ盛りという言葉ぴったりだ。友だちと無茶な遊びをして怪我をしたり、学校の共有物を壊したり、とにかく叔父さんも叔母さんも手を焼いていた。でも、「お姉ちゃんが欲しかった」と言うだけあって、私の言う事をちゃんと聞いた。
 圭太と颯汰の二人の面倒を看ているうちに、叔父さんと叔母さんとの関係も変化してきた。二人のことで話し合うことから始まり、私自身のことを話すことも始まった。
 歩み寄っていなかったのは、私もそうだった。少しずつ、少しずつ。叔父さんと叔母さんの気持ちを理解することができるようになってきた。
 でも、何故だろう。
 胸の中にある空虚な思いは、消えることはなかった。
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