「──っ」

エピソード文字数 907文字

「──っ」
 攣れる感触が、痛みと快楽を交互に点滅させる。そしてそれが、やがて溶け合う。立ち上がっている私自身を、ハクビが大きく熱い掌で包み込んだ。ゆっくりと圧迫する。聞かない子供を優しく諭す大人の手つきに思えた。ちりりと疼いた畏れと屈辱は、成す術もなく淡く消滅していく。私の先端から、精がほろほろと吐き出される。淫らと、貞淑。
 その時、乱れてきた呼吸に合わせるように、ハクビが強く私の腰を引き付けた。傲岸と、慈愛。
「っ!」
 身体の深奥から光が溯る。奥を叩かれたはずなのに、脳天をざっくりと開かれた錯覚を起こした。ああ、と声にならない悲鳴が、代わりに唾液となって口の端から零れ出た。四肢が意味を失った。生きているのは、私の奥深い一点と、少しばかりの意識。私は違う生き物に変化した。──進化。その言葉が私を漫然と覆う。
「お、う……」
 けれど。目覚め始めた二人の身体に反し、背中に落ちてきた彼の声は、酷く細いものだった。手指は依然私の肌をくまなく弄し、さらには私の奥をも、愛液で濡れそぼった自身で揺らがしつづけているというのに。彼の唇が私の首筋に押し付けられる。その時、はらりと、雫がうなじを滑り落ちた。
「王……」
「……」
 私と繋がりながら、私の背後で涙を零す、この男が理解できなかった。昂ぶりが眸からも零れ落ちたのかと思った。
「王。あなたの身体が、怖い」
 怖い。そう言いながらも、私の中心へと突き進んでくる。私の身体はほとんど感覚が飛んでいて、感じるのは彼の身体の触感と、草の青臭さ。さらには世界を照らす、滴り落ちそうな月光。私はすでに透明で、おそらく世界で一番、微力だ。その私を怖いと彼は言う。
 ハクビがうなじを甘噛みした。彼の涙ごと。
「王。私はあなたからひと時も離れられない。この身体の甘さを知って、どうしてあなたから離れられよう。あなたをお慕い申しておりました、その無垢な魂ごとすべて。けれど今は、そんな他愛のなさは吹き飛びました。王、あなたを想うことは狂うことだ。王。離したくない。あなたを私一人のものにしたい。進化など遂げずともよい、あなたをほかの誰にも触れさせたくないっ……!」
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