第3話 小説投稿サイトに潜む妖怪は黒髪ショートヘア眼鏡の文学美少女だった

文字数 1,758文字

 私は、つい3ケ月前から始めた、小説投稿サイトに夢中である。自分の作品をいくつか投稿し、他の作家さんの作品を読んでコメントを残していくと、少しずつ自分の作品にもコメントがついていくのが嬉しく、病みつきになってしまった。
私の最新作に真っ先にスタンプを付けてくれた作家さんは、見たことのない人だった。

ペンネームは、座敷童。
アバターは、黒髪ショートヘア眼鏡の文学美少女。
スタンプは「応援しています」

私は、迷うことなく座敷童さんをフォローし、返信を送った。

「おはようございます。応援スタンプありがとうございます。これからもよろしくお願いします」

するとすぐに、今度はコメントが来た。

「こちらこそありがとうございます。応援をいただくと元気が貯まります」

その日の夕暮れ時に、座敷童さんが新作を投稿したという通知が来た。
私はさっそく座敷童さんの作品を読んで、コメントを付けた。こうして、私と座敷童さんとの交流が始まったのである。
彼女にコメント、スタンプを付けているのは私だけであった。それは、彼女を独占しているようで嬉しかった。彼女の童話は、正直あまり面白くなかったが、新作の通知が来るといち早く読んで、コメントを送るということが、ルーティーンになっていった。彼女の新作の間隔がだんだん短くなる。3日に1回が、2日に1回、毎日、そして1日2回。

「応援して下さるので、元気が貯まります。貴方に忠誠を誓います」

何故、元気が出ると言わずに、貯まるというのだろう?
ここのところ、体調が悪かったが、彼女のコメントに有頂天となった私は、彼女に読んでもらうラブコメをせっせと書いた。
しかし、ようやく気が付いたことがある。彼女とコメントのやりとりをすると、一瞬、眩暈がし、そしてどっと疲労感が出るのだ。

「あまり無理なさらないでください」

さりげなく体調が悪いことを書くと、気遣ってくれるところが嬉しい。
しかし、体調は日ごとに悪くなる一方だった。そんなある日、座敷童さんのアバターの絵が、変わっていることに気が付いた。

文学少女の唇が真っ赤になり、ニヤリと笑ったその口元にはきらりと光る、大きな八重歯がのぞいている。

私は、ぞっとし、背中が寒くなった。そこで、知り合いの作家さんに、座敷童さんの事を聞いてみた。

「そんな人、知らない。検索でも出てこないよ」

慌てて、自分も検索するとやはり出てこない。通知からたどらないと、彼女のプロフィールにたどり着けないのだ。すっかり怖くなって、私は次のようなコメントを入れて、座敷童さんのフォローを解除した。

「こんばんわ。仕事が急に忙しくなったので、しばらく離れます。今までありがとうございました」

しかし、次の日の夜、また通知が来た。

嘘だろう、と思いフォローを見ると、フォロー状態になっている。

これって、もちろん相手側からはできないはずだが。

新作の頻度は、とうとう1時間に1回になっていた。

そうこうするうちに、コメントがどんどん入ってくる。

「よんで」

「よんで。よんで」

「よんで。よんで。よんで」

「よんで。よんで。よんで。よんで」

「よんで。よんで。よんで。よんで。よんで」

「よんで。よんで。よんで。よんで。よんで。よんで」

「よんで。よんで。よんで。よんで。よんで。よんで。よんで」


「やめろ。やめろ。やめてくれー」

私は、朦朧とする意識の中、救急車を呼んだ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


入院して、ようやく生気が戻った。もちろん、スマホでも小説投稿サイトはもう開かない。主治医の先生に、座敷童さんのこと、彼女とコメントのやりとりをして、生気を吸い取られたことを訴えると、真剣にうなずいたが、精神安定剤を処方してくれただけであった。
明日、退院と決まった日に談話室のテーブルに1冊の童話が置き忘れているのに気が付いた。何気なく手に取り、私は思わず悲鳴をあげてしまった。


「ひっーーーーーーーーいぃ」


そして、そのまま気を失った。


目が覚めると、担当の看護師さんがベッド脇に来ていた。

「検温ですよ。今日から新人が担当です」

カーテンが開き、現れたのは、
黒髪ショートヘア、唇が真っ赤で、大きな八重歯1本をのぞかせる眼鏡の若い看護師さんであった。

手には、童話の本を一冊を持っていた。そのタイトルは…………


『ワタシの本をよんで』

おしまい。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み