第26話 ミルキーウエイ①
文字数 852文字
由美子と別れた

「秀一! 早く来い!」
コートに入った途端、凛から大声で呼ばれた。
「公民館に行って、メールしてくる。すぐ戻るよ」
秀一は自分のバックからスマホを取り出した。急いでコートから出ようとしたが、賢人の低い声に呼び止められた。
「母さんと、なに話したんですか?」
秀一は自分より頭半分大きな中学生を見上げた。
あの小さかった子供が九年経って、自分より大きくなったのかと思うと感無量だ。
(賢人に最初にラケットを握らせたのは、オレだもんな)
こんなに上達したなんて、ちょっと誇らしい。
「なにか」賢人は左手でラケットを担ぎながら、怪訝な顔をした。「嫌なことでも、言われましたか?」
「お昼に
秀一は嬉しくて、顔がにやけてくる。
だが賢人は眉間に皺を寄せたままだ。
「野々花さんって、信用できますか?」
「えっ?」
「うちの母さん、人に影響されやすいんですよ。風水に凝るぐらいなら放っておくんですが、俺、野々花さんって、関わっちゃいけない人のような気がするんです」
「野々花さんは、いい人だよ」秀一はキッパリ言った。「母さんが病気の時は、家の手伝いに来てくれたし、今は父さんの世話もしてくれてるんだ」
「そ、ですか……」
「大丈夫。賢人は安心して、凛ちゃんとテニスしてて」
「アタシは、秀一といる」
いつの間にいたのか、凛が秀一のすぐ横に立っていた。
「野々花さんは『後妻業』やってるぞ」と、凛は秀一の手を握った。
「ゴサイギョウって、なに?」と秀一。
「野々花さんが、お前のお母さんになろうとしてるって、ことだよ」
凛の言葉に秀一はニッコリした。
「世話好きな人なんだね」
「お前ってホント、バカだな」凛は秀一の手を引っ張った。「早く行こう。アイス買って」
凛に引っ張られながら秀一は、すぐ戻ると賢人に告げた。
賢人はまだ考え込むような顔をして立っていた。