第1話 桃太郎誕生から仁義の犬まで

文字数 3,183文字

むかーしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんがおりました。



 ある日の事。おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。



 おばあさんが川で洗濯をしていると川上から大きな大きな桃がどんぶらこーすっこっこーと流れてきました。



 あらまぁ、大きな桃だこと。持って帰っておじいさんと食べましょう。



 そう考えたおばあさん。桃を川から引き揚げ、洗濯の後に家に持って帰りました。



 そうして晩御飯を終えた後、桃を食べんと包丁を持ち出したおばあさん。



 一刀のもとに桃を断たんと振り上げた瞬間。



 「あいや!!待たれぃ待たれぃ!!」



 桃の中から声が聞こえたかと思うと桃が割れ、中から赤子が生まれました。



 そう、これが有名な桃太郎であり、僕である。





 僕はすくすく育ち、人生のある時思い出した。



 自分の人生。これ、桃太郎だ!と。



 前世の記憶かそれとも異世界転生か知らないが、なんだか知らないがこの後の記憶が在る。何だか知っている。



 年頃になった僕は確か、吉備団子持って、犬猿雉をお供に鬼ヶ島の鬼を締め上げるんだった。



 そうだ!思い出した。日本一有名な童話じゃないか。これ。



 「桃太郎や、桃太郎。本当に行くのか?ワシらは心配でしょうがない。お前が『鬼退治に行きたい』と言うから準備はしてやったものの、お前の行こうとしている鬼ヶ島からは帰って来た者が居ないという。のう…、桃太郎?矢張り鬼退治など止めんか?」



 都に鬼の大将が出たと聞き、僕は鬼退治を宣言した。おじいさんとおばあさんは無論僕を止めた。



 「桃太郎や!ワタシは、そんなことを望んでないのだよ?どうか考え直しておくれ。お前は、私たちの生きる意味なんだよ?そのお前に何かが有ったらと思うと……。」



 おじいさんとおばあさんは心配そうな顔で僕を止めようとしている。確かに、鬼退治をしないで平穏に、「平穏な生活」や「植物の心のような生活」を求めることも出来る。鬼退治も誰かがやってくれるかもしれない。しかし、



 「おじいさん、おばあさん。これは僕にとっての、この『桃太郎』にとっての『試練』なのです。そして、この試練は逃げて良いものでは無いのです。鬼に打ち勝てという「試練」と僕は受け取ったのです。試練は、乗り越えなくてはならないッ!」



 その覚悟はおじいさんとおばあさんの心を打ち、それは二人に、覚悟をさせたッ!



 「そうか……、桃太郎よ……。解った。お前の覚悟が、言葉でなく、心で解ったッ!」



 そう言っておじいさんは僕に素晴らしい装飾の施された刀を託した。



 「いってらっしゃい。桃太郎。栄光は...おまえに...ある...ぞ...やれ....やるんだよ。桃太郎!これは餞別の吉備団子だ。道中食べな!」



 そう言っておばあさんは布の袋をくれた。中には吉備団子が入っているのだろう。



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ



 世界の彩が変り、おじいさん、おばあさんの持っている『スゴ味』がビリビリと、僕を感電させたかのように痺れさせたッ!



 「では、行ってきますおじいさん、おばあさん。『勝つ』とは言いません。そこらの仲良しチームのようなことはしません。『勝つ!』そう思った瞬間にその行動は既に終わっているのですからッ!僕は使いません!」



 ゴ



  ゴ



   ゴ



    ゴ



     ゴ



      ゴ



       ゴ



        ゴ



         ゴ



          ゴ



           ゴ



            ゴ





 この日、僕は鬼を退治すべく、鬼ヶ島へと赴いた。















  「とは言うものの、僕一人じゃぁ話にも相手にもなりはしない。先ずは仲間を集めなくっちゃぁならない。」



 海へと続く道を歩きながらそんなことを呟く。



 この物語が僕の記憶そのままならこの道すがら犬猿雉に出会うはずなのだ。



 「最初は犬……。ゴンゾウさんかぁ。」



 ゴンゾウ。鬼討伐に参加した犬の名前である。名前こそゴツくて土佐犬みたいだが、義理堅く、フワフワした柴犬である。



 「ゴンゾウさん。懐かしいなぁ。」



 色々考えているうちにゴンゾウさんと会った場所に来た。もうそろそろゴンゾウさんに出会う。



…出会う。



……出会う。



………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………あれ?



 出会わない。あれ?俺の記憶違い?



 少なくとも桃から出て来て今まで、記憶にあることを追体験したような人生だった。



 しかし、ここに来て違うストーリーに突入した気がした。



 何処だ?



 ゴンゾウ。何処だ?



 辺りを見回した。犬の毛並みは見えない。



 「あれ?」



 何かを見つけた。木に何か模様が……、違う。字が書いてある!気を付けてみなければ分からないだろう、木の根元に引っ掻いたように書かれた文字。



 近付いてみてみると、それは忘れもしない。ゴンゾウの書いた字だった。



 『桃太郎さんへ これを見ている彼方は、鬼退治に出掛けていて、お供の犬を探していて、そしてこの文字に気付いた。つまり、私同様前世の記憶が在る桃太郎さん。私の知る桃太郎さんなのでしょう。』



 彼にもどうやら記憶が在ったようだ。



 『私も昔同様、貴方から吉備団子を貰い、鬼ヶ島へ渡って大立ち回りを演じようかと思っていたのですが、』



 アレ?



 『嫁のキャサリンが身籠って、丁度貴方との邂逅の日が出産日になりそうなのです。』



 おー!嫁の名に引っ掛かるものがあるけどおめでとうございます。でも、アレ?



 『ジュニア達が早く産まれてくれれば…。とも思ったのですが、そうもいかず、今回はキャサリンについてやりたいと思い、断腸の思いで桃太郎のお供を辞退させて いただきます。』



 嘘!マジで?ゴンゾウと会えないの?しかも、辞退?



 「エェェェェッェェェッェェェェェ!!」



 絶叫。



 お供の犬が居ない事がショックなのではない。ゴンゾウと再び会うことが出来ない事が、ゴンゾウとの冒険が出来ない事がショックなのだ。



 『恩知らずの駄大を許して下さい。とは言いません。てすが.これだけは言わせて「ださい。 鬼退治。無事果たして下さL1。応援してL1ます。』



 「……、馬鹿野郎。」



 何が恩知らずの駄犬だ。馬鹿野郎。お前、爪が震えて字がぐちゃぐちゃだぞ。



 ゴンゾウの気持ち。これを書いている時。アイツがどんな気持ちでコレを書いたか。



 想像を絶する。



 「『鬼退治。無事果たして下さい。応援しています。』だろ。解ったよ、お前の心が。文字なんてちゃちなものでなく、解ったよ。魂で解ったよ!」



 ゴンゾウとの冒険が出来ないのは悲しい。しかし、彼が僕にここまで仁義を通してくれたことが、俺をここまで思ってくれたことが嬉しくてたまらない!



 「鬼退治を無事果たす!お前の元へ行って吉備団子を出産祝いに渡す! 両方やらなくっちゃぁならないのが難しいところだ。」



 覚悟は出来た。後は実行するだけだ。
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