第1話 途中下車

文字数 976文字

 とある地方に向かう電車は、途中で単線に切り替わる。
 街並みの多い景色からだんだんと木立が増え、切り立った山肌が迫り、線路と山のあいだには、時折、沿うように川が姿をみせた。
 通り過ぎてゆく駅には、まだ商店街が広がり、大手スーパーの看板も見える。
 それが少しずつなくなり、山を抜けて今度は田畑が広がっていた。

 山の中腹あたりを走っているのだろうか?

 進む右手は上に、左手は下に、果樹園が延々と広がっていて、窓を開けると甘い香りもただよってくる。
 いくつかのトンネルを抜けるごとに田園風景や大手企業の工場、その土地ならではの変わった建物が現れては去っていく。
 目指す場所が少しずつ近づいてくると、また電車は山あいを走り抜けていく。
 うねった川を窓からのぞくと、エメラルドグリーンに染まった水が白いしぶきをあげて岩を削っていた。

 また、トンネルを抜けた。

 今度は右手に田畑が広がり、左手の森に沿ってレールはゆったりとしたカーブを描いていた。

 次の駅まであと数分。

 うっそうと茂る大きな白樺の木々の向こうに、申し訳程度に住民のための商店街が立ち並んでいる。
 その中に一軒だけ、やけに目立つお店があった。
 古い建物に古い商品、少しだけ寂れた食堂やお土産屋さんに挟まれて、それは丸太づくりの山小屋のようなお店だ。
 コーヒーの看板をかかげているところをみると、きっと喫茶店なのかしら。
 ただ変わっているのは、店の入り口の隣に人の背ほどの大きさがありそうな、ランプが飾られていること。

 ガタンゴトン……。

 電車の速度はどんどん緩まる。
 窓に身を寄せ通り過ぎるときによく見てみると、やっぱり大きなランプだ。
 それは通常のオイルやアルコールを使ったものではなく、大きなまん丸の満月を思わせるような、琥珀色の電球を抱え込んでいた。
 昼でもなお白樺並木で薄暗さを感じさせる線路沿いに、誘っているかのように暖かな柔らかい光を発している。

「〇〇駅~、〇〇駅に到着です」

 車掌さんの声が車両の中にひびく。
 目的地は、まだあと四つも先の駅――。
 それなのにたった今、通りすがりに見かけただけのお店が気になり、座席を立ち上がるとホームに足をおろした。
 セミの合唱、カエルの唱和。
よくある田舎の風景、田舎の楽団に迎えられ、いまだ自動ではない改札を抜けると、初めての土地に一歩を踏みだした。
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