その十三 進化する呪い

文字数 8,315文字

 鹿せんべいを持っていると鹿にモテると聞いた。だが実際には、鹿は勝手にせんべいを食べようと口を近づけて来る。これはモテるというより窃盗だろう…。
「すまないね。僕は今年はまだ、未成年なんだ。来年からなら飲めるんだ…。居酒屋とかで酒をかわしながら話ができれば一番いいんだろうけど」
 今日の相手は、加賀(かが)入飛(にゅうひ)。入飛はどこにでもいそうな学生って感じだ。
「気にしなくていいよ。それよりメールの話は本当かい?」
 彼から受け取ったメールには、マガタマヲトコのことが書かれていたのだ。
「本当だけど、詳しくは知らないんだ。人から聞いた程度にしか、ね」
 俺は思った。マガタマヲトコの話は、地方で語り継がれているタイプの怪談。なのに別の地域に住む入飛がどうしてその背景すら把握している?
「この手の類の話なら、たくさんあるよ。ムラサキカガミってわかる?」
「ああ、あの二十歳になるまで覚えていると死ぬってヤツだろう?」
「さすがだね。じゃあ、シボウシャは? スズムシなんてのもあるけど? あとは…呪われた灯・留まりの島とか」
 それらは聞いたことはない。
「そうか。でもその旅で、きっと知ることになると思うよ」
 その話、今ここで教えてくれてもいいんじゃないか。入飛は考古学専攻の学生と聞いていたが、随分と色々怪談話が出てくるじゃないか。
 そんな入飛が今話してくれるのは、幼馴染の話であるという。
「さっきのは全部、その子から聞いたんだ」
「ほう。そんな物好きが?」
「今も元気にしているのかな…。生きてることはわかってるんだけど、どこで何をしているかは、知らないんだ」
 オレンジジュースを少し飲むと、彼は話を始めた。

 俺は幼稚園児の頃、近所に住む十六夜(いざよい)まつりという子とよく遊んでいた。先に断っておくけど、まつりがその幼馴染ではない。彼女も俺も、これから話す霊園(れいえん)公美来(くみこ)にとっては特別な存在だったらしい。
「その公美来って子が、怪談を教えてくれるの?」
「手紙でね。もう最後に会ったのは結構昔だ」
 公美来には、親がいなかった。生まれてすぐに事故死してしまったらしい。兄弟もいない。だからといって一人きりってわけでもなく、近所の神代孤児院に、同じような境遇の仲間たちと暮らしていた。
「神代?」
「何か? 普通の孤児院だった。だからなのか公美来の苗字は神代だったよ」
 そういう施設に対して一般人がどんな偏見を抱いてるかは知らない。でも俺もまつりも、公美来としょっちゅう遊んでいた。孤児院の庭には遊具があったから、そこで日が暮れるまで遊ばせてもらっては、泥だらけで家に帰るから親に怒られたな。
 また孤児院には小さな図書室があって、いつでも上がらせてくれた。俺は決まって恐竜図鑑を広げては、調べればわかるような知識を自慢する。まつりも公美来も笑って聞いてくれた。
 じゃあ今度はこっちの番、と言いながら公美来は、怪談話の本を開く。公美来はお化けとか妖怪とか、呪いとかその手の話が大好きだった。
「妙にリアル感をかもし出して音読するもんだから、俺もまつりもいつも震え上がってたよ。おかげで夜中に起きても一人でトイレにいけなかった」
 あの時の公美来は、心の底から笑っていた。俺もまつりもつまらないわけじゃないので、一緒に笑った。
「丑の刻参りの術を知ってる? 俺は全部公美来から聞いた」
 夜中の二時頃、白装束を身にまとい、火のついたロウソクを額に巻きつけ、藁人形と五寸釘と金槌を持って近くの神社に行く。そしてそこに生えている木に藁人形を、呪いたい相手の名前を五回、繰り返し唱えながら打ち付ける。呪いは様々で、打ち付けた場所に怪我をする程度で済む時もあれば、命を失うこともあるらしい。また、丑の刻参りは他人に見られてはいけない。もし見られたら、呪いが全て自分に返ってくることになる。だから目撃者は殺さなければいけない。
「入飛、それなら俺でも知ってるよ。未だにどこかで行われているとかいないとか?」
「僕は、見たことがあるんだ」
 呪いの全行程ではないけれど、少なくともそれを行った人は呪いを信じていて、心の底から恨んでいたんだろうね。
「それが、公美来?」
「おっ、察しがいいね」
 そうだ。あの時見た人影は間違いなく公美来のものだった。
「待ってくれ。何でそれを実践したのか、説明してくれないか?」
「いいよ。僕も言おうと思ってたところだ」

 話は確か小学三年の時に始まる。
 その時期、公美来の里親が決まった。彼女は嬉しそうにしており、早く新しい親に会いたいとソワソワしていた。新しい苗字は霊園。怪談話が大好きな公美来にはピッタリだった。
「来週からフルネームで呼んでくれって言われたよ。新しい苗字がそれほど気に入っていたってのもあるけど、それ以上に家族ができることが嬉しかったんだろうな」
 神代でいる最後の日は、三人でボウリングに行った。別にこれ以降会えなくなるわけではなく、事実里親の家は学区内だったから公美来は転校もしない。でも遊びたいと言うのだ。
 僕たちは近所の遊技場に、公美来の里親が決まったことを記念して、一日中体を動かした。小学生のくせにガーターありで一ゲームプレイしたり、なしにして楽しんだり。片手で持てない重さのボールを両手で投げたりと、とにかく禁止されてないことなら何でもやった。
 その時に見せた公美来の笑顔が、今でも忘れられない。
 というのも、それはマイナスの感情に染まっていない、言わば正の笑顔であったからだ。
「あの時が、僕が思うに公美来が一番正しい幸せを感じていたはずなんだ」

 異変は一ヶ月後ぐらいに起こり始めた。まつりも誘って公美来と遊ぼうとしたのだけれど、断られた。塾か習い事でも始めたから、忙しくなったのかと思いきや、そうではないらしい。
 では、どうして遊べないのか聞いてみたが、公美来は答えてはくれなかった。そんなことが続くにつれ、公美来の顔が疲れきった様子に変わっていく。
 僕はまつりに相談すると、まつりも公美来のことを心配していた。もしかして、新しい親と上手くいってないんじゃないのか? そんな疑問を抱いたけれど、それを公美来に聞くのはさすがに躊躇った。だから僕とまつりは説教を覚悟で学校をサボったり仮病を使ったりして、素人探偵みたく様子を観察することにした。
「そこで驚いたんだけど…。里親には実の息子が二人いた。普通に考えれば、子供がいても養子はもらえるから、何も怪しいことじゃない。でも当時僕はてっきり、里親は子供が欲しいのだけれど産めない体質だから公美来を引き取ったと思っていた。でも違ったんだ」
 実の子供は二人とも男。なら女の子が欲しかったんだと僕は考えた。でもまつりからあることを聞いたら、その考えも捨てた。
 プールの時間の話だ。公美来は名字が変わってから、見学ばかりしていた。それを変だと睨んだまつりは着替えの際に公美来の服を少し脱がせた。そしたら、体にいくつかのアザがあったらしい。
「まさかって思ったね。児童虐待……。アザを見られた公美来はまつりにだけ特別に、家で何が起きているのかを教えた。僕は内容を聞いてないけど、まつりによれば到底許されることじゃないって」
 僕は、何とかしなければいけないと思った。子供に何ができるか、できることなんてないんじゃないのかって思うけど、僕が行おうとしたのはいたってシンプルで、里親に直談判だった。
 何を言われてもいい覚悟だった。大切な幼馴染が傷つくことが僕はどうしても許せなかった。
 でも直前になって、どこから聞いたのか公美来が、それはやめてくれと僕に泣きついてきた。
「後でわかったことなのだけれど、公美来が里親に引き取られる前の孤児院は完全に火の車で、次の日の経営すら怪しいレベルだった。そこで霊園の親は、無償の融資を申し出た。でもその条件が、院で一番綺麗な子を差し出せと…。公美来はそのことを、僕の直談判前に知ったんだ。孤児院の子供たちに辛い思いをさせたくない。公美来はそう思っていた」
「そんなに酷いことが? 俺も孤児院の出だけど、それは許せない…」
「そうなのか。でもね、僕はその時に諦めると同時に捨て台詞を吐いた」
 公美来をこんな目に合わせる奴らなんて、不幸になってしまえばいいのに、と。
 それを聞いた公美来は目の輝きを一瞬で取り戻して、「それはいい考えだわ!」って言った。何で瞳に灯がついたのかは、次の日にはわかった。

 その夜は僕は、習い事が長引いて、日も暮れてしまっていた。早く家に帰りたかったから、ちょっと不気味だけれども神社の中を通るルートを選んだ。
 街灯もない暗い道を進むと、向こう側から弱い光がゆらゆらと進んでくるのが見えた。怖くなって僕は、反射的に木の陰に隠れた。
 それは白装束を身にまとった公美来だった。頭に火のついたロウソクを巻きつけ、藁人形と釘と金槌を持って、暗黒の中を堂々と歩いていた。その美しくも恐ろしさを感じさせる容姿に僕は完全にビクついて、話しかけられなかった。
 すれ違ったのを確認すると僕は、音を立てずに振り向きもせずに逃げた。
 次の日の登校時、僕は寄り道をした。昨晩の神社に入って、木の幹を見て回る。すると探しているものは、そこにあった。
 藁人形だ。全部で四体。木に打ち付けられていた。僕はそれを見ると、言葉を失った。
 普通、一ヶ所にだけ釘を刺すんだろう。でもその藁人形は、全身に釘を打たれていた。呪いなんて信じるかって言われると返事に困るが、明らかにそれは、異常だった。
 さらに僕は恐怖した。丑の刻参りの話を公美来から聞かされたのを思い出したからだ。

 見た人は殺す。呪いがはね返ってきてしまうから。

 僕は怯えながら学校に向かった。今日、公美来が休みならいいのに、とすら思った。でも思いとは裏腹に公美来は元気に登校して来た。
 恐怖に耐えることができず、僕は公美来を放課後の図書室に連れ出した。そして神社で見たものを問い詰めることにした。
 公美来は悪びれた様子も、焦りもなく僕の問いに「この私が呪ったものだわ、間違いはないわよ」と平然と答えた。すんなりと認める態度も怖かった。僕は震える舌で何とか声を出して、「僕は殺さないの?」と聞いた。「何言ってるのよ。この私が心を許せる友達の内の一人には、何の恨みもないわ。それにこの私の呪いは、その程度で自分に返ってきたりしないわ」と言われた。

 僕はそれ以降、夜に神社の道を通るのをやめた。でも昼間は見に行った。行くたびに、藁人形の数は増えていく。多過ぎる釘に打ち付けられたそれは、人の原型すら留めていないものもあった。前に聞いた話によれば、打ち付けられたところに怪我をする。それが全身。一体どんな怪我をするのかと僕は考え……ることはやめた。
 同じ頃、まつりが公美来と話しているのを学校で見かけた。いつもの調子の公美来に対してまつりは必死だった。これに何かあると直感した僕は、話が終わった直後にまつりに、何を話していたのかを聞いた。
 やはり呪いの話だった。まつりも見かけたようで、何とかして公美来にやめさせようとしていたのだ。
 僕は、たかが呪いだからと言った。非科学的なんだし、とも言った。人を呪う行為をすることで、公美来はストレス発散をしているのかもしれない。だから見逃そうとした。
 でもまつりと話していると、何やら様子がおかしい。「神社?」とまつりは僕の話にツッコミを入れた。
 まつりは、「私が見たのは河川敷で、生き物を使って……」と言った。
 一体これはどういうことだ?
 僕はまつりを神社に連れて行った。そして木に打ち付けられたおびただしい数の藁人形を見せた。まつりは、これは初めて見ると言った。
 ここでやっとわかった。
 公美来は丑の刻参りの他にも呪いを実践していたのだ。きっとまつりはまつりで、以前公美来から聞いたことがあったんだと思う。そしてたまたま、見てしまったんだ。僕が見たのとはまた違った呪いを。
 今度はまつりに連れられて、河川敷にやって来た。その橋の下の、日が差さないところをまつりは指で示した。何か、ビクついていたので僕一人でそこに行った。
 落ち葉が山を成していた。誰かが掃除をしていて、一ヶ所に集めたんじゃないかと思ったけど、まつりの方を振り向くと頷いたのでこれで間違いじゃないらしい。
 手で落ち葉を払って中を掘っていくと、動物の足が見えた。猫が一匹その中にいたのだ。どうしてだろうと思いながら足を引っ張ると、その足だけ持ち上がった。胴体と繋がってなかった。
 普通なら先に悲鳴を上げるだろう。でも僕は意味を理解したくなかったからか、掘り進めた。頭、尻尾、そして残りの足、四当分された胴体が出てきた。おぞましいことに猫は、全身の血を抜かれていた。だから落ち葉は一枚も赤く染まっていなかった。しかも猫は、一匹じゃなかった。その下からドンドンと出てきた足の数が、それを物語っていた。
 僕は川に向かうと、吐いた。常人のなせる技でも正気の沙汰でもないそれを近くで目の当たりにした僕は、その日の給食を全部川に、口から捨てた。
 同時に、こんなことをあの公美来が行うなんて信じられなかった。
 近くの公園の水道で口を洗うと、僕はまつりの話を聞いた。

 公美来がかつてまつりに語った呪い。まつりは名前を覚えていなかったが内容は教えてくれた。
「絶対に実践しないことを約束するなら、ここで教えるよ」
「わかった。そこだけ空白にしておこう」
 この呪いには、生け贄が必要だ。それは人以外の赤い血が流れる動物でなければいけない。でも条件を満たしているのなら、猫じゃなくてもいい。鳥でもネズミでも大丈夫だそうだが、体が大きければ大きいほど効果があるという。
 まず生け贄の血を抜く。抜いた血はビンか何かに保存しておく。入れ物であれば種類は問わないらしい。
 そして生け贄の死体の四肢と頭、尻尾を切り落とす。残った胴体は呪いたい人物の数になるように切り分ける。
 最後に穴を掘って、生け贄の体とその他の部位を全て埋める。穴は土以外の物で蓋をする。容器に入れた血は、四十九日後に入れ物ごと燃やす。
 これが呪いの全工程だが、四十九日が来る前に誰かに生け贄を発見されたら、自分に呪いが返ってくる。過ぎた後に生け贄を発見するのもよくない。その人が呪われる。

「当時僕とまつりは、生け贄の呪いと名付けていた。公美来は二つの呪いを同時に行なっていたんだ。表には出さなかったけど、それほど里親とその息子たちを恨んでいたんだろうね」
 普通なら、悪口の一つぐらいこぼさずにはいられないはず。でも公美来は呪いを行ってから明らかに元気になっていった。僕が不思議でたまらなかったのは、罪悪感や後ろめたい気持ちを公美来が微塵も感じていないことだった。
「僕は丑の刻参りを見てしまったし、まつりも生け贄の呪いを見た。でも公美来が呪われるようなことは起きなかった。まあ非科学的と言えば、そこまでなんだけどさ…」
「効果はどうだったんだい?」
「あったんだ。信じられないだろうけどね」
「それは……どんな風に?」
「それも教えるよ」

 二カ月も経っていなかった頃だ。急に公美来の転校が決まった。クラス中が大騒ぎだったのは、学校一の美少女が教室を去ってしまうからではなく、その原因にあった。

 公美来を除く霊園家の人が全員、交通事故で死んだらしい………。

 保護者の間でも噂になっていたほどだ。何でも車で移動中、高い橋から車ごと転落したとのこと。新聞やテレビでも取り上げられた、大きな事故だった。
 しかも聞いた話だと、遺体は人間の形をしていなかったらしい。どれが誰の何の臓器なのかすらわからないぐらい現場は悲惨だったようだ。
 公美来は幸い、その車に乗っていなかった。一人だけ家に取り残されていたのだ。
 クラスメイトはみんな、公美来の無事を喜んだ。中には慰める人もいたし、担任は事故について公美来に聞かないようにと注意を換気したぐらいだ。
 でも僕とまつりには、それがただの事故でないことをわかっていた。ここまでくると、呪いじゃないと考える方が難しかった。だから僕とまつりは、「公美来が家族を呪い殺した」という認識を持っていた。でも呪いで人が本当に死ぬかと言われれば、縦に首を振れない。だからいつも通り公美来と接した。もしかしたら僕たちは無意識のうちに、自分も呪い殺されたくないから、公美来を刺激しない方がいいと思っていたのかもしれない。
 霊園家の親類は、県内にはいなかった。公美来は孤児院には戻らず、その親類に引き取られた。だから転校したのだ。

 遊ぶことができる最後の日に公美来は僕とまつりを誘った。遊園地に三人で行った。僕もまつりも内心ではビクビクしていたが、何とか頑張って表には出さなかった。でもお化け屋敷は避けた。
 ジェットコースターに乗ったり、射的で遊んだりと、恐怖を忘れるために楽しんだ。
 そして最後に観覧車に乗り込んだ。
 半周する頃には、雑談は途切れてしまっていた。するとこのタイミングを待っていたのか公美来が突然、「二人とも、もう知っていると思うわ。でもしばらくは黙っててちょうだいね。約束よ。あなたたちなら、心の底から信じられるわ。だからどんなことがあっても、呪わないであげる」と言って笑った。
 その時に見せた笑顔は、前にボウリングで見せたのと同じ表情ではあったけど、何かが違った。
 あの笑顔は、完全にマイナスに染まっていた。言わば、負の笑顔。純粋な幸せさえも察してやれないその顔を、未だに僕は忘れられない。だってそれが最後に見た笑顔だったから…。

「一つ疑問に思ったんだけど、その子は本当に生きているの?」
 俺は入飛に聞いた。人を呪わば穴二つとよく言うからだ。
「生きているよ、確実にね」
 彼は自信満々に返事した。その根拠は、毎年送られてくるという葉書であるらしい。
「年賀状は律儀に書くのか…。何か、変わって…」
「年賀状? 違うよ」
「はい? だってじゃあ何を毎年送りつけるって?」
 入飛はカバンからそれらを取り出した。
「喪中だよ。公美来は転校してからというもの、毎年身近な誰かが亡くなっているんだ。例外なく毎年ね。そのおかげで今年も、年賀状が送れないってまつりは嘆いている」
 俺はその内の一枚を手に取った。それには、典型文以外に手書きの文章が書かれていて、マガタマヲトコの内容と、
「……鉄と銅を使った新しい呪術を編み出したわ。とても簡単だけど効果はてきめんよ…」
 と書かれていた。
「氷威さん。僕が疑ってならないことが一つある。それは、あの時公美来が行った呪いは、本当に二つだけだったんだろうか? 両方とも他人に見られている。でも呪いは公美来を襲っていないんだ」
「それは違うと思う。聞くだけだと彼女は、誰かを呪うことで呪われた人生に他人を巻き込んでを楽しんでる…。少なくとも俺には、そう聞こえる…………」
 こんなことを言うのは可哀想だが、霊園公美来は呪われている。呪いは返ってこないんじゃない、最初から既に手遅れなのだ…。
「でも、入飛の言うように俺も呪いが二つだけだったとは思わないな。きっと他にもあったに違いなくて、誰にも探せなかったんだと思う。もしかしたら丑の刻参りと生け贄の呪いは、初めから誰かに見せるためのダミーだったのかも…」
 入飛は唾をゴクリと飲んだ。
 人間は文明を発展させてきた。だが同時に感情も持っているために、複雑な心理も生まれてしまう。それが呪いなのだ。科学が進歩し続けるように呪いもまた、進化し続けるのだ。そして公美来からの喪中葉書は、その経過報告でしかない……。
 霊園公美来。血塗られた運命に抗うのではなく、自らも血を浴びて人生を歩み続けるのだろう。もし彼女に俺が会えたとしても、その暗黒の道から彼女を救ってやれることはできそうにない。
「入飛、彼女の幸せは願っているかい?」
 彼は一応、頷いた。
「なら…それがいつの日か、救いになるかもしれない。俺の代わりに願い続けるんだ」
 俺は入飛に、それしか言えなかった。
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