第7話

文字数 711文字

「実験器具に触らないでよね!」雪子は慌てて叫んだ。「昔はどうだったのか知らないけど、今のあなたは力を失った。科学が発達した事でね。そうでしょ?」言いながら、雪子は実験器具を隙間の神から遠ざけた。
「力を失った?違うね」隙間の神は、相変わらず自信満々に答えた。「力が弱まっただけさ。失ってはいない。お前だって科学者の卵なら、この違いは分かるよな?俺の力はゼロじゃ無い」
背後では、空調と実験用機械の、大きくはないが耳障りな音が、相変わらず鳴り響いていた。
「随分と強気だけど、力が弱まった事は認めるのね」雪子は、やはり隙間の神から目を離さずに言った。机の上の真ん中に隙間の神がいて、その回りには雪子が動かした実験器具が並んでいた。照明は元々机の中央を照らすように備え付けられているため、ちょうど光は隙間の神を照らすような形になっていた。それはまるで舞台の様だった。隙間の神はただ一人の演者、そして雪子は、その舞台を眺めるただ一人の観客だった。
「俺にとっては、強弱は些細な問題さ」マウスの姿をしたそれに、動揺の色は見られなかった。「俺にとって大事な事はただ一つ。俺は永遠に存在し続ける、この一点さ。俺はこれからも、もっと小さく弱くなっていく。今はこんなマウスみたいな姿だが、そのうち俺はショウジョウバエみたいになってしまうだろう。もっと小さくなれば、大腸菌みたいになるかもしれん。だけど、俺を完全に消し去る事は、お前たち人間には出来ないんだ。大事なのはそこさ!」隙間の神は、机の上を歩き回り、身振り手振りを交えながら演説した。そのしぐさがあまりにも芝居がかっていたため、それはまるで、3DCGのアニメを見ているようだった。
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