13話 【変】お七じゃないのに「お七の井戸」
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ええ。
ありましたね。
それはいいんですが、
なんで以前やったときに
一緒に紹介しなかったんですか?
おう。
これにはいろいろ理由があってな。
まずこれは文京区じゃなくて、目黒区のものなんじゃ。
そんなに離れてるのに、
お七さんに直接関連があるんですか?
ちょっと待て!
だったらなんで「お七の井戸」って呼ばれてんだよ!
う~ん、どういったものかのう。
強いて言えば、
「直接はないが、間接的にはある」
いうところなんかの。
よくわからねえな……。
もう水は汲んどらんがの。
これがその井戸じゃ!
うむ。
実はこの井戸には、こういう伝説があるんじゃ。
八百屋お七は恋こがれた寺小姓の吉三に会いたいがまりに放火して、
鈴ヶ森処刑場で火刑にされることになったんじゃが、
そのことを知った吉三はその後僧侶となって
名を西運と改め明王院いうお寺に入ったんじゃ。
明王院?
ああ。
いまはないお寺なんじゃが、この井戸があったところに建っとったげな。
で、西運はお七の菩提を弔うため、目黒不動と浅草観音の間の往復十里の道を
一日置きに念仏唱えながら歩くという一万日の行をしたんじゃと。
で、その一万日の行をする前に、この明王院の井戸で水垢離をやったそうな。
なのでいつしかその井戸のことを
「お七の井戸」と呼ぶようになったということなんじゃ。
じゃあ、これ正確には、
「西運の井戸」じゃねえか?
まぁ、たしかにそっちんが正しいんじゃろうが、
それだと通りがわるかったんじゃろうて。
それだけ「お七」のネームバリューが
すごかったということなんでしょうね。
ま、「八百屋お七」は歌舞伎や浄瑠璃になった上に、
井原西鶴などの文芸作品にもなってるぐらいじゃけえの。
しまいにはそこからさらに、お七の話を元ネタにした
パロディ作品すらも作られているぐらいなんじゃ。
「三人吉三廓初買(さんにんきちさ・くるわのはつがい)」
なんかが、その最たる例じゃろうな。
中身は全然違うが、人物名や設定なんかは明らかに二次作品いう感じなんじゃ。
このタイトルや中身は知らんでも、
歌舞伎の「こいつぁ春から縁起がええわえ」
というセリフはわりと有名じゃの。
ちなみにこのセリフは、主役の一人が遊女から金を巻き上げて、
その遊女を川へ突き落した後に、金を計算したところ百両もあったので、
「こいつぁ春から縁起がええわえ」と高らかに言うシーンなんじゃがな(笑)
歌舞伎ってな、そんなもんなんじゃ(笑)
ま、そういう有名なパロディ作品が作られるぐらい
「お七」っていうのは有名だったいうことじゃ。
だからまたそれを推すなっ!!
いずれ音を置き去りにしそうですな。
これ蓋をとったらどうなっているんです?
>>音を置き去り
代わりに祈る時間が増えるわけですな。
あ、坊さんとしては、それはそれで正しいか……。
ちなみに蓋はとれません(笑)
たぶん空井戸になっとると思いますが、
もしかしたら水があるままかもしれませんのう。