神官戦士の矜持

文字数 1,285文字

 魔導騎士団との戦いの中、ジエイは現在攻撃を受けている砦の救出に向かい、そのジエイを魔導騎士団副官トーラスの従士が追いかけ、現在この場でムルカとトーラスの一騎打ちが始まろうとしている。

 トーラスは一切の武器を持たないムルカに対して疑問の言葉を放つ。

「何故武器を持たん?体術で兵士を倒せても私に通用するほど甘くはないぞ」
「これが私の神官戦士としての矜持だ。元々私は人を殺めるために戦っているのではないからな」

 ムルカの言葉が自らをなめたような態度に思えたトーラスはムルカに対しすぐさま攻撃にいく。

「その甘さが命取りとなるぞ。神官戦士殿」

 トーラスは剣を振るいムルカに向ける。ムルカはそれをかわし、トーラスに対し拳をはなつがそれをかわされる。距離をとったトーラスは左手より石つぶての魔法を放ち、ムルカは魔力障壁でそれを防ぐことに成功する。

「魔力障壁か、だがやはり武器を持たないことはそちらにとっては有利には働かないようだ」

 トーラスは武器を一切使用しないムルカでは、魔法、そして剣を高度に使いこなす自分には及ばないと考えるが次のムルカの行動でそれが間違いであったと知ることになる。

「ならば貴殿に見せてやろう、武器がなくとも戦えるという事を」

 そう言ってムルカは両手からまばゆい光を自らに向け放った。

「魔法か、一体何をした?」

 トーラスがそう言うとムルカが体を光で覆い素早い動きで接近してくる。

「何⁉ぐはっ……」

 ムルカの動きが急激に速くなり、また先程よりも拳が重くなっており、トーラスにかわす暇すら与えないほどトーラスを殴り続ける。トーラスへの体のダメージは大きく、トーラスはその場で意識があるものの倒れこんでしまう。

 トーラスが倒れるとムルカは体を覆っていた光を消す。その光が消えたのを目にしたトーラスはムルカに尋ねる。

「……、ど、どういう……ことだ。ま……さか……肉体……強化魔法……なの……か?」
「そうではあるが、貴殿が想像しているような強化魔法ではなく、これは治癒魔法を応用したものだ」
「……な、に……どういう……ことだ?」

 ムルカの強化魔法。それは治癒魔法を応用したものである。ギンが使う速度強化魔法が一時的に肉体の能力の限界を超える者であるものである。

 だがムルカは治癒魔法を駆使して肉体を強化しているのだ。治癒魔法はそれ自体が肉体の損傷した部分を修復しているのではなく、対象者の生命エネルギーを高めることで快方へと向かわせるものだ。

 ムルカはその仕組みを応用して無理のない肉体強化の魔法にするために魔力コントロールを駆使して完成させることに成功したのだ。

 だが敵であるトーラスにその説明は不要と判断し、ムルカはその場を立ち去ろうとするがトーラスに呼び止められる。

「……待て、何故……とどめを……ささない……、私は……もはや……戦うことが……できんぞ……仕留めるなら……今を……おいて……ないぞ」
「騎士殿、先程も申したが私は人を殺めるために戦っているのではない。それに少しでも早く砦を救出せねばならん。ではさらばだ」

 そう言ってムルカは砦の方へ向かい走っていく。
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