詩小説『今日の東京』3分の都内風景。上京した人へ。

エピソード文字数 900文字

今日の東京

溶けだした粉雪を乗せて、からっぽの道、突き抜けた車。

温めかけの朝はまだ薄暗く。ヘッドライト私を照らし、追い越した。

都内の河口下で買った自転車は、ホットミルクで温めた身体を乗せて。

段差に私の心は跳ねる。マフラーに埋めた顔を風に当てる。

肌寒さ残す風はなんだか心地いい。舞い上がる前髪も気にしないで。

泪で街は潤っていくの。

言葉は雑踏が搔き消すの。

嘘みたいな静寂の中。

少しずつ街は、自分のために灯りを灯して。

今日の東京が始まる。

私の東京じゃない。誰かさんの東京。
砂利道も、草花茂る道も、道じゃない。綺麗に舗装された東京。
去る者は追わず、来るもの拒まず。ただ受け入れずの東京。

誰かが生きる東京。

私の生きる東京。

母からの電話には気づいていたけど、
何故だか、出ることは出来なかった。
なにかに押し潰されそうで。

あの子宛に書きかけの長文なメールは。
未送信のまま、なんだか削除した。
振り返るにはまだ早い気がして。

線路沿いの冷たいアパートで、小窓から垂れた電線を眺めている。

この街では安い六万五千円の五畳一間。からっぽすぎる所も余計気に入って。

眠れない夜。突き抜ける電車の甲高い音。より目覚めさせる。

夢は軽やかに描けるのだが、書き出すにはなかなか筆が重い。

誰かを笑い飛ばすことで賑わう街。

洗礼を浴びるにはちょうどいい街。

いくつも枝分かれする駅が映し出される、ホームの電光掲示板に。

迷子みたいな私の心を重ねた。

私だけの東京。

ありがとうではない。ごめんなさいが喜ばれる街。
それぞれがそれぞれの事情を抱えて訳ありな東京。
それでも、なんにもなかったような顔して生きている東京。
生まれた意味を知り。生きている。この命に気づかされる東京。

誰かが交差点に消えていった東京。

誰かが交差点に取り残された東京。

私の東京じゃない。誰かさんの東京。
砂利道も、草花茂る道も、道じゃない。綺麗に舗装された東京。
去る者は追わず、来るもの拒まず。ただ受け入れずの東京。

誰かが生きる東京。

私が生きる東京。
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登場人物紹介

主人公はあなたです。それぞれの恋愛模様を『詩小説』で。

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