第8話
文字数 1,251文字
コンサートが終わって数ヶ月後。
シュローセンは、フランチェスカと再会を果たした。
ただ、それは一度だけのことであった。
事情はよくわからないが、そもそも二人は生きていく世界が違ったようである。
それはどちらかが優れているということではなく、ただ単純に二人が望む世界が違ったのである。
シュローセンはフランチェスカの望む世界に合わせようとも考えた。
しかし、彼はすぐにその能力が自分にないことに気がついた。
世界の第一線を目指す彼にとっては、犠牲にする能力はあまりに大きすぎたのだ。
そんなわけで『普通になりたい』と彼はつぶやいた。
クリスティーンは、シュローセンとフランチェスカの一部始終を知っている。
メッセージでシュローセンに教えてもらった内容をクリスティーンはメアリーにかいつまんで一部、教えてあげた。
なので、メアリーも少しその事情を知っている。
「あー残念だったね・・・シュローセンさん」
メアリーはそう言った。
「そうね・・・」
クリスティーンは窓の外を見つめながらそう言った。
「でもファンの私としてはよかったかも・・・」
クリスティーンはそのメアリーの一言に振り返る。
「好きだったの?」
「男としてではなく、一人の指揮者としてね」
クリスティーンはうなづいた。
「未来はわからないけど・・・・なんとなく、シュローセンさんはフランチェスカさんが今よりを戻せていたとしたら、シュローセンさんはもう指揮者としての道が絶たれてしまっていたと思うの。普通の幸せと指揮者としての幸せを比べて、どちらが幸せかというと本人としては『普通のありきたりな幸せ』を得た方が幸せのような気もするけど・・・」
この後の言葉についてメアリーは言及するのをためらった。
自分がいかにも稚拙な理論を振りかざしているように思えたからだ。
クリスティーンはそれを見て、再びうなづいた。
「多分正解よ。演奏が終わってみて彼もようやく気づいたはず。彼にとってそのコンサートはフランチェスカさんを取り戻すためのものではなく、関係を終わらせるための舞台であったことに。演奏前の彼の落ち着きのなさは、その胸騒ぎを多分感じ取ったことから起因するものだったのかしらね・・・」
「なんでそんなことがわかるの?」
クリスティーンは大きく息を吸った。
「だって、わたしたちの顔を、彼、ほとんど見なかったじゃない・・」
メアリーは首を傾げた。
「人は嘘をつくと、相手から視線をそらす傾向があるの。しかも彼はいつも人の顔をじっと見つめるタイプなのに・・・おかしいと思ったわ」
メアリーは納得の表情を見せた。
クリスティーンはメアリーのその表情を確認して再び窓の外を眺め始めた。
『自分もあんな風に心の底から人を好きになる経験ができるだろうか・・・もしくは、あんな風に誰かから本当にわたしを好きになってもらうことはこの先あるのだろうか・・・』
クリスティーンはシュローセンを少し羨ましく思うと同時に、思わずため息が溢れた。
窓の外の光景はそんなクリスティーンの想いなど知らず、無慈悲に午後の太陽が芝生を照らしていた。
シュローセンは、フランチェスカと再会を果たした。
ただ、それは一度だけのことであった。
事情はよくわからないが、そもそも二人は生きていく世界が違ったようである。
それはどちらかが優れているということではなく、ただ単純に二人が望む世界が違ったのである。
シュローセンはフランチェスカの望む世界に合わせようとも考えた。
しかし、彼はすぐにその能力が自分にないことに気がついた。
世界の第一線を目指す彼にとっては、犠牲にする能力はあまりに大きすぎたのだ。
そんなわけで『普通になりたい』と彼はつぶやいた。
クリスティーンは、シュローセンとフランチェスカの一部始終を知っている。
メッセージでシュローセンに教えてもらった内容をクリスティーンはメアリーにかいつまんで一部、教えてあげた。
なので、メアリーも少しその事情を知っている。
「あー残念だったね・・・シュローセンさん」
メアリーはそう言った。
「そうね・・・」
クリスティーンは窓の外を見つめながらそう言った。
「でもファンの私としてはよかったかも・・・」
クリスティーンはそのメアリーの一言に振り返る。
「好きだったの?」
「男としてではなく、一人の指揮者としてね」
クリスティーンはうなづいた。
「未来はわからないけど・・・・なんとなく、シュローセンさんはフランチェスカさんが今よりを戻せていたとしたら、シュローセンさんはもう指揮者としての道が絶たれてしまっていたと思うの。普通の幸せと指揮者としての幸せを比べて、どちらが幸せかというと本人としては『普通のありきたりな幸せ』を得た方が幸せのような気もするけど・・・」
この後の言葉についてメアリーは言及するのをためらった。
自分がいかにも稚拙な理論を振りかざしているように思えたからだ。
クリスティーンはそれを見て、再びうなづいた。
「多分正解よ。演奏が終わってみて彼もようやく気づいたはず。彼にとってそのコンサートはフランチェスカさんを取り戻すためのものではなく、関係を終わらせるための舞台であったことに。演奏前の彼の落ち着きのなさは、その胸騒ぎを多分感じ取ったことから起因するものだったのかしらね・・・」
「なんでそんなことがわかるの?」
クリスティーンは大きく息を吸った。
「だって、わたしたちの顔を、彼、ほとんど見なかったじゃない・・」
メアリーは首を傾げた。
「人は嘘をつくと、相手から視線をそらす傾向があるの。しかも彼はいつも人の顔をじっと見つめるタイプなのに・・・おかしいと思ったわ」
メアリーは納得の表情を見せた。
クリスティーンはメアリーのその表情を確認して再び窓の外を眺め始めた。
『自分もあんな風に心の底から人を好きになる経験ができるだろうか・・・もしくは、あんな風に誰かから本当にわたしを好きになってもらうことはこの先あるのだろうか・・・』
クリスティーンはシュローセンを少し羨ましく思うと同時に、思わずため息が溢れた。
窓の外の光景はそんなクリスティーンの想いなど知らず、無慈悲に午後の太陽が芝生を照らしていた。