◇ 小学校編 ◇

文字数 1,296文字

 「あ~あ、今日は体育があるんだ……」
 小学五年の私は、ちょっぴり憂鬱な気分で登校班の集合場所に向かった。小さい子から順に並び、道の端を歩いていく。交差点には緑のおばさんが立っていた。小さい子ほど元気よく挨拶をして通り過ぎる。高学年の私はちょこんと頭を下げてやり過ごす。学校に着き、チャイムが鳴り、授業が始まった。
 
 四時間目は体育だった。休み時間のうちに着替えなければならないし、終わった後も急いで着替えないと、給食の時間になる。給食当番に当たった時などはもう大変だ。それでも体育が得意ならまだいいが、あいにく私は大の苦手だった。
 今日はその中でも苦手中の苦手の飛び箱……
 私は一番低い三段の前に並び、先生の特訓を受けていた。三段、つまり全く飛べない子専用で、私ともうひとり、とても小柄な子だけがその前に並んでいた。その横では、四段、五段の飛び箱をみんなはスイスイと飛び越えていく。
 
 ふと、校舎の二階の窓が目に入った。この情けない状況をニタニタと眺めている奴がいた。そう、低学年の頃、同じクラスだったアイツだ。私のすることにいちいちケチをつけ、何かとからかうので、クラスが別れた時はホッとした。
(見るな!)
と睨み返していたら、先生によそ見をするなと叱られた。
(アイツのせいだ!)
 私は、怒りにまかせて飛び箱めがけて走って行った。するとその勢いで、なんと、飛び箱を飛び越えてしまった! 初めて私が飛び箱を飛んだ瞬間だった――
 けれど、勢い余った私は顔から着地してしまった。やっぱりアイツのせいだ。
 
 その日の放課後、下駄箱のところで、私はアイツにバッタリ会ってしまった。
 今日はなんと運が悪い日なのだろう、と顔の痛みとともにあの光景がよみがえった。ツンとすまして通り過ぎようとした時アイツが言った。
「飛べてよかったじゃん。でもすごい飛び方だったな」
(うるさい!)
 私は相手にせずに学校を出た。
 
 秋になり、運動会の季節となった。もちろん、私にとっては憂鬱でしかない行事だ。そして高学年ともなると、係の仕事が忙しい。その上、親や近所の人も見に来るという最悪のシチュエーションだ。
 どこどこの子は足が速いとかはもう情報網が伝わっている。だから、私の親は主に団体競技を見に来ることになる。こっちとしても、徒競走などは絶対に見てほしくないので助かるのだが。
 そのくせ、うちの親はリレーだけはしっかりと見ていく。自分の子が出ていなくても、やはり、競技としておもしろいのだろう。ただ、そのリレーのアンカーが毎年アイツだということが、私には腹立たしいかぎりだ。
 
 こうして、五年、六年の魔の運動会も終わり、いよいよ、卒業が近づいてきた。寒い体育館では、連日のように卒業式の練習が行われている。そしてこともあろうに、総代で答辞を読むのはなんとアイツだ。運動会といい、卒業式といい、目立つことが好きな奴だ。先生や親たちの信頼を集めているというのがますます腹立たしい。
 そして、最も嘆かわしいことには、アイツとはこれから通う中学も同じだということであった。

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