うんこ天皇

文字数 1,258文字

 ある日、天皇がうんこになった。


「おい、困ったな」
 ひそひそ声で、側近の一人が言う。凄まじい悪臭に耐えながら。
「今日は一般参賀の日だぞ」
「よりにもよって、こんな日に」
「そんなことよりも、この臭いはどうにかならないか」
「ああ、臭ぇな」
「お前ら、陛下に対し不敬であるぞ」
「だって、臭ぇものは臭ぇんだから、仕方ないだろう」
「それより、今日の一般参賀をどうするかだ」
「ああ、そうだな」
「やはり中止にすべきだろう」
「いや、一般参賀を楽しみにしている国民もいる。その期待を裏切るわけには」
「臭ぇな」
 そんなことを話している間に、一般参賀の時間となる。
 集まった国民を前に、手を振るうんこ、いや天皇。
 いつもなら、国旗を振って喜ぶ国民たちだが、今日はその鼻を押さえずにはいられなかった。
(おい、なんか臭くないか)
(臭いはずだよ、陛下がうんこになってらっしゃる)
(なんてことだ)
(それにしても臭ぇ)
 そんなこんなで、一般参賀は早々に終了。
 うんこになった天皇を前に、側近たちは頭を抱える。
 医者にも診せたが、原因も治療法も分からない。
「くそっ、このまま陛下は元に戻らないのか。とんでもなく臭ぇ」
「よりにもよって、うんこになってしまうなんて。臭ぇな、ちくしょう」
「これでは公務に差し支えが……たまらねぇな、この臭さは」
「お前ら、あの方はうんこである前に天皇なんだぞ。もうちょっと敬意を払ってだな……」
「それを言うなら、天皇である前にうんこなんじゃないか。うんこに敬意なぞ払えるものか」
「そもそも、天皇がうんこになるなどゆゆしき事態だ。不敬であることを承知で言うが、立場に対するご覚悟が足りなかったのではあるまいか」
 その時、うんこが、いや天皇が席を立たれた。
 皆、一斉に緊張する。
 そのまま天皇は、いやうんこはトイレの方に向かった。
「なんだ、トイレか」
「うんこでもトイレに行くんだな」
「なにをひり出すつもりなんだろう」
 と、それから十分、十五分。
「さすがに遅くはないか」
「うむ、ちょっと怖いような気もするが、見に行ってみよう」
 そう言って、側近たちはトイレに向かった。
「うんこ、じゃない、陛下。ご気分でも優れないのですか」
 側近の一人の呼びかけにも反応がない。と、その時、トイレの中から水を流す音がした。
「陛下?」
 側近たちは不審に思った。辺りに立ち込めていた悪臭が、心なしか弱まった気がしたのだ。
「陛下、失礼します」
 側近の一人が思い切ってトイレのドアを開く。そこには誰もいなかった。
「ま、まさか」
 事態を把握した側近たちは青ざめる。
「大変だ、陛下がトイレで身投げされたぞ!」
 その後、トイレから流れていった天皇陛下の大捜索が始まった。が、しかし、結局、天皇は見つからなかった。果たして、陛下はどこに行ったのであろうか。
 案外、高貴な身分から逃れ、一介のうんことして自由を満喫しているのかもしれないが、真相はついぞ藪の中である。
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