元勇者魔王「リア充死すべし」

文字数 1,496文字

★★★

 村を出たふたりを茂みから見送る元勇者魔王。
 魔王自ら偵察という掟破りをしたが、得るものはあった。
(リア充死すべし)
 そう。リア充ではなかった元勇者魔王にとって、女の子とイチャコラしながら冒険する元魔王勇者は許しがたい存在だった。
 ちなみに元勇者魔王のパーティは物語中盤になるまで女キャラが加入しなかった。
 男ふたり旅である。
 しかも女キャラがふたり加わった途端に、すぐに男格闘家と女白魔法使いは恋に落ちたのだった。そして、黒魔導士女はフードをかぶった不気味な無口キャラ。よく独り言を言ってひとりでニヤニヤしているヤバイ奴だった。
 世界最高峰の四人だからこそ魔王を倒すために組んだわけだが、なかなか微妙なパーティだったと思う。カップル一組に、極度のコミュ障一人、戦闘狂の勇者一人。
(あいつら……元気にやってんのかな……)
 あのとき、魔王と相打ちになって死んだのはおそらく自分だけ。つまり、残り三人はおそらく今もこの世界にいるはずだ。十五年の歳月で歳はとっただろうが……。
(まぁ、どうせリア充とコミュ障がどうなろうと知ったこっちゃないか……)
 なんにしろ、自分の姿は完全無欠に魔王である。
 角のついた兜をかぶり、顔つきだけでもゾッとするような冷酷さ、鎧は黒で統一されており、体の周りは常に闇のオーラが漂っていて禍々しい。しかも、なんか勝手にオーラが出ているので、自分で引っ込めることができない。
 これで元勇者ですといっても信じてもらえないだろうし、そもそもそんな事実が公になったところでなにも変わらない。
 魔王を倒さねば、魔物は消えないのだ。
 ならば、魔王の中身が元勇者だろうとなんだろうと世界に平和を取り戻すためには魔王を倒すしかない。
(こう考えると、魔王も難儀な生涯だな……)
 生きてると迷惑がられ、死ぬことを望まれる。
 魔族のような知能がある者なら言うことを聞くが、末端の獣のような魔物の中には知性が低さすぎて統御できないものもいる。それに襲われたからといって、なんでもかんでも魔王のせいにされても困る。
 しかし、悪の象徴である魔王は人々にとって極悪でなければならず、倒すべき存在であり続けねばならない。
 ささいな悪行も誇大に喧伝され、残虐さを物語るエピソードになったりする。
 たとえば、ちょっと蚊を殺しただけで魔物を潰して血祭りにする冷酷な魔王という噂が流れたりするのだ。
(……まぁ、魔王に転生しちまったもんはしょうがねぇな。どうせ滅ぼされる運命なんだ。こうなったら徹底的に魔王を堪能してやるかな……それとも)
 いっそ低レベルのうちに勇者を倒してしまうか。
 そうなれば、世界は魔王のものになるかもしれない。
(そうなれば、世界の美女も俺の妃にすることもできるか……)
 勇者時代は叶えられなかったハーレムを構築することができる。
(ん、それって、魅惑的な未来じゃねぇか……!?)
 別に今の王様はろくでもないんだし、いっそ自分が新世界の王――魔も人も統べる新の王になればいいのでは――?
 それは魅力的なアイディアだ。
 しかし、魔の勢いが強くなればなるほど世界は魔物で溢れかえり、人間にとっては地獄の時代になるだろう。
(あー、それは微妙かー……俺も一応元勇者だし、魔物に襲われてた村を命がけで守ったりしたからなぁ……)
 ここでやりたい放題やれば楽しいかもしれないが、かつて自分が救った人たちがまた苦しむ姿を見たくはない。
(さしあたっては、彼女ほしいな……)
 とりあえず元勇者魔王は大幅に目標を下方修正することにした。
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登場人物紹介

ルーファ。

元魔王。人間に転生して村で暮らしていたが、勇者に選ばれてしまう。


リイナ。

ルーファの幼なじみ。宿屋の娘。

冒険者だった父母から武術を学び、ルーファと共に冒険の旅に出る。


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