第28話「最終章」:友との永久の別れ

文字数 1,568文字

 部屋に入ってきた、加藤に、待っていた、佐島がどうだったと言い、加藤が、病院での一部始終を話した。12月も後半を迎え、12月24日、クリスマス、不動産会社の石島さんがクリスマスプレゼントの大きな袋を持ってやってきた。山下さんが病気で入院したと聞いて駆けつけたようだ。

 加藤が、詳細を話したところ、石島さんが、必ず、年内に、入院先へ、お見舞いに行きますと語った。山下さんには、本当にお世話になってますからと言い、12月27日に、お見舞いに行ったが、病状が悪化して面会謝絶で、ついに会えなかった。シェアハウスの庭では山茶花の花が12月になって咲き始め、美しく綺麗な紅い花を1枚、また1枚と開いていった。

 山茶花の花は、2ヶ月間、長く咲き続け、みんなの目を楽しましてくれるのだ。2023年があけて、1月3日、入院中の山下さんが、危機を脱して回復したと病院から連絡があり、みんな、ひと安心した。そこで、石島さんが、1月26日、再び、山下さんの、お見舞いに大学病院へ出かけた。病室に行くと、山下さんがいない。

 ナースステーションでは、看護婦さんが慌ただしく動き回っている姿に何か、ただならぬ気配を感じた。山下さんが急変して喀血し集中治療室に運ばれ、再び、絶対安静となった。急いで、シェアハウスの加藤さんに電話を入れた。少しして加藤、北山、佐藤和美、佐島がやってきた。

 山下さんは、集中治療室に移され会えない。一時間後、医師が来て、病状を説明してくれた。それによると転移した肺がんが肥大、悪化し、今朝、喀血したと言うのだ。現在、呼吸、血圧、脈拍は、正常に戻ったが、意識はまだ朦朧としている。バイタルが、不安定で持ち直して意識が、戻れば良いが、現状では、どうなるか、なんともいえない状況だと告げた。

 変化があったら、すぐ連絡しますと言ってくれた。とりあえず、見舞いに来てくれた石島さんに、お礼を言いシェアハウスに戻る事にした。その後も、悶々とした日々が続いた。そんな中でも庭の満開の山茶花の花が一枚、また一枚と散っていった。4日後の1月30日、庭の山茶花の花びらの最後の1枚がおち、その日の昼、山下が息を引き取った。

 シェアハウスの庭には、落ちた山茶花の花が、まるでピンクの絨毯の様に、綺麗に敷き詰められていた。佐島米子は、それを見ていると、山下との思い出の一つ一つが、花びらの1つずつと重なって思い出された。2019年2月の2025年問題の老人部会で山下さんが、どの様な施設を望まれますかと聞かれた。

 末期老人施設の収容人数の問題もあると思いますが、暗い雰囲気ではなく、花壇に、花が、壁に絵がかけてあり、音楽が流れているホスピスの様な所が、良いと思いますと答えた事を思い出した。木島も、同じ質問を聞かれ、女性として、綺麗な施設で、愛情をもって、看取ってもらいたいと言った。

 いろいろ政治的に、厳しい条件がある事は、わかりますが、それは、私たちのせいではなく、私たちが生まれた戦争中の軍部と政府の「産めよ殖やせよ」の政策の結果です。戦時中の軍部の政策で、意図的に、団塊の世代と呼ばれる突出して人口の多い世代が生まれたわけです。我々は、むしろ、被害者なんですと、毅然と言い切った事をなつかしく思い出された。

 思い返せば、山下さんは、我々4人のリーダーで、正しいと思った意見を通してくれた。また賢い腕白坊主の様に正しいと思った事を決してひるまず発言して実行してくれた。そんな強い心と苦労した人間特有の弱者への海のように大きくやさしい心の持ち主。

 そして、恵まれない人へ、人知れず募金を続けていた素晴らしい人だった。佐島米子は、こんな素敵な人に、巡り会えて、うれしかった、また、山下には、多くの楽しい思い出をありがとうと、静かに黙祷するのであった。【終了】
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