第30話 夜勤

文字数 484文字

 これも、看護師の知人の話。 

 ナースコールもほとんど鳴らない、落ち着いた夜勤。
 休憩時間にナースラウンジで夜勤食をすませて、一緒に夜勤していた先輩と話をしていた時のこと。
 話しているうちに先輩の顔色は変わり、最後は黙ってしまった。
 最初は貧血かと思い、心配して、
「貧血ですか、大丈夫ですか」
 と声をかけたが、先輩は、
「大丈夫、大丈夫、」
 しか言わない。
 ふと気が付くと、向かい合わせに座っている先輩の目は私の方を見ておらず、後ろの窓を見つめている。
 振り返ろうとしたら、深夜なのに大きな声で、
「窓を見ないで」
 と言う。
 気になったが、振り返ろうとすると止められる。
「何でだめなんですか?」
 と聞いても、
「聞かないで」
 と言うばかりで埒が明かない。
 休憩も終わり、その事を奇妙に思ったが、朝の業務が忙しく忘れてしまった。
 勤務の後に思い出して、窓を見たが、病院の中庭には何も無い。
 その後、聞く機会も無く、病院を退職したので、先輩が何を見たのかは分からないまま。
 あの時、先輩に何が見えていたのか…
 ふと思い出すけど、
「気にしないほうがいいんだろうね」と友人は語った。

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