第53話 ほんとうにすきなもの

文字数 3,139文字

わたくしたちは追い立てられすぎです。生産性がなければ死んでしまえ、という優生思想になんの疑問もなくハマる方のなんと多いことか。わたくしたちの登場前のSNSのない世界ではそれは見なくてすんだことかもしれない。でも今は自分のタイムラインからそれを追い出すのが労力のいる作業となってしまいました。そしてそれを見る度に心が痛むのです。
鉄道自殺するならもっとメーワクのかからない死に方しろ、っていうのも本当に聞き飽きるほど聞きました。聞く度に、なんて薄情で冷血な人たちだろうと思います。鉄道自殺で電車が数分遅れたのがなんだっていうんですか。そんなことを比較してること自身がどうかしてる。それなのに、鉄道自殺の現場を野次馬としてケータイで撮ろうとする人がふつーにいる。ほんと、どうかしてますよ。
そして障害を持っている人は社会の負担になるから死んでほしい、って。自分が怪我して障害者になる可能性があることすら思いつかない。ここまで浅はかがヘーキな世界だと、私、絶望して自殺したくなりすらします。踏みとどまってるけど、浅はかが当たり前に大手を振るのは見てて、辛いです。ヒドイっ。
でもそういう浅い経済効率性とか生産性でこの自由経済が成り立ってると勘違いしてる方も多いですね。そんな浅い考えではろくなことはないのですが、そういう方でも生きてることを許容されるし、それどころか常識人、普通人とみなされてしまうこともある。そのなかで凡庸に埋もれたくないからと心無い「逆張り」をする方もいる。
でも、それで逆張りしたり炎上ネタやっても結局は凡庸なんだよね。なんにもぜんぜん変わんない。逆張りしても炎上ネタやたりバズっても、その後まともに人々から認識されてる人なんてほとんどいないよー。
うむう……。無名地獄の外側は凡庸地獄、さらにその外は無情地獄であろうのう。

この世は不条理が逆巻く地獄そのものであるのだ。

わたくしたちも、きっとこうやっていても、そしてどうやっても凡庸なのでしょう。でも、わたくしたちは非実在女子高校生でも、わずかではあるけど存在をみとめられている。

もちろんその存在はいつどうなるかわからない。ボイスドラマで総裁が叫んだ「なにもかもがなかったことになるのはたまらぬ!」の気持ち、わたくしもそうですわ。そんなのたまりませんわ。

でも、どうやっても、結局はなかったことになるんだろう、と思ってます。でも、埋もれても存在してるほうが、なにもなかったことにされるよりはマシな気がします。たとえその存在が今だけ、私達だけにしか認識できなくても。
うう、虚無の寒い風が聴こえるぞよ。夏だというのにこの寒さはどうなのだ。

いったい斯様な世界でなにをせよというのだ。昨日は是とされたことが、いともかんたんに今日は否になってしまう。こんななかでまともな神経でおるのはあまりにも難しすぎる。

総裁そんな苛立ったり落ち込んだりしてるけど、そう言いながらバズったりしてるよねー。
6万いいね、って、なにバズってるんですか!

ひどいっ!

ワタクシもこれには驚いてしもうた。やや苛立ちまじりのツイートとはいえ、こうなるとはまさに予想外。
で、この直後YouTubeライブだったんだよねー。
人いっぱいきたんじゃないですか!?このバズった効果で!
ところが、ほとんど普段から増えてはおらぬのだ。
ええっ、他の人みたいにバズったツイートに宣伝ぶら下げなかったからじゃないですか?せっかくのチャンス、もったいないなー。
これがチャンスなのか?ワタクシはフツーに呟いただけである。それにこのツイートもワタクシとしては大したことないので、なぜこんなのがバズったか、理解不能だ。
そうですか……総裁厳しいなあ。ちょっともったいない気、僕もしますけど。
こんな不条理に突然バズるなど、下手こいて炎上するのとたいして変わらぬ。それよりこんな凡庸なツイートをバズらせるTwitterのアルゴリズムが全くどうかしておるのだ。
でもこのツイートの元になった、旅館の料理が多すぎることに苦言してる方も、少しお気の毒な気が致しますわねえ。
やはり旅行文化の断絶があるのだ。格安ビジネスホテルとコンビニ弁当しか知らない人々が増えてしもうたのだ。それはやはり、ここずっと続いてるデフレマインドが文化を破壊してしもうたのだ。

たくさんの料理に「すごーい!」と素直に感動できないのもまた、現代の貧しい文化の結果なのだと思うぞよ。

なんだかため息が出ちゃいますね。
しかもバズるとたくさんのリプがつくのだが、それを見ておると読解力不足のいわゆるクソリプも多くなるが、さらにそれにクソリプが返される地獄の底辺のようなことも起きておった。
本当ですか……なんだかなあ。
ほかにもこれに便乗しようとネタツイなるくだらぬ投稿、さらにはもっとくだらぬ逆張り投稿が相次いだのだ。だからなんなのだとワタクシはさらに悲しくなった。
そうなのかー。
ワタクシはこんなことでバズりたくなかったぞよ。自分の頑張った結果でバズりたかった。しかし、こんなただの寸時の呟きがバズり、頑張った渾身の模型完成報告はほとんどバズらない。まさに無情、不条理なことこの上なし!
そう言うものなのかもしれませんわね。それは自分で選ぶことなどできないのですわ。
詩音くんの言う通りなのだ。これはワタクシにはどうにもできぬこと。


だがこれでわかり、はっきりしたことがある。

なあにー?
頑張りや評価や価値とバズリの間に相関などなにもないのだ。頑張ったからウケるなんてことはない。ウケるなどと言うのは宝くじ以下の偶然でしかないのだ。


ゆえ、そんなものを基準にするのは全くの人生の無駄であるのだ。

ということは……。
そんなものをあてにせず、自分のやりたいことをやりたいように、より一層励むのが正解であるのだ。

バズるなどくだらぬ。ワタクシもバズるまではバズってみたいと思うたことがある。しかしそれがなんだというのだ。くだらぬ。じつにくだらぬ!

それはバズったから言えるんですよ。ほとんどの人はバズることなんてないですもん。
だが、にもかかわらず、バズったところで人は寸時の関心しか寄せぬ。圧倒的な無名地獄には変わりはないのだ。


ゆえ、遥か昔の漱石先生の芥川への手紙「馬になるな、牛になれ」のメソッドがやはり有効であると結論したのである!

あたりまえのようですが、それをひとはしばしば見失ってしまうものですわねえ。人間は弱いものですわ。
ゆえ、これもまた人間の修行と思い、ただひたすら自らの道、ワタクシの「乙女のたしなみ・テツ道」をさらに邁進することとするのである!
ようやく軌道復帰ですね。
しかもこの時、別件でYouTubeの我がチャンネルの他の動画のアクセス解析を見て気づいたのである。


それがこのグラフなり!

あれ? グラフの帯からずっと下いってたのに、あとでグググッと伸びて、最後には帯のずっと上にいってる! ひどいっ! 54日めまでどん底なのに!
要するに初速だの平常値との比較だのといった指標に、少なくとも我々のYouTubeチャンネルでは全く意味がないってことですね。
さふであるのだ。ロングテールになるオンラインコンテンツの正しい評価は、初速を見てもわからぬものと見るべきなのだ。


ゆえ、こんなアクセス解析などくそくらえである。知ったことか。ワタクシたちはワタクシたちの作りたいものを作るのだ。それに変更の必要などないのだ。

自分の価値観を信じて続けるべき、ってことですね。当たり前だけどそれがなかなかできないですね。
ゆえ、ボイスドラマも第2話以降、悔いなく恨みなく、頑なに信じ勇敢に作って公開していくこととするぞよ。
それが良さそうですわね。
というわけで、さらに続くのである!
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登場人物紹介

長原キラ ながはらキラ:エビコー鉄研の部長。みんなに『総裁』と呼ばれている。「さふである!」など口調がやたら特徴ある子。このエビコー鉄研を創部した張本人。『乙女のたしなみ・テツ道』を掲げて鉄道模型などテツ活動の充実に邁進中。


*総裁のびっくりヒミツ能力(順次公開)

・隠れオッドアイ。安いラノベのキャラだと思われたくないので視力は悪くないのにカラーコンタクトをはめて眼の色を合わせている。しかしこのオッドアイのその眼を見てしまうと自白させてしまう作用がある。あまりにも危険なのでそれを抑制するためにもカラーコンタクト。


 ほかにもまだまだあります。


葛城御波 かつらぎ みなみ:国語洞察力に優れたアイドル並み容姿の子。でも密かに変態。しかしイマジネーション能力は随一。


武者小路詩音 むしゃのこうじ しおん:鉄研内で、模型の腕は随一。高校入学が遅れたので、実は他のみんなより年上。鉄道・運輸工学教授の娘で、超癒し系の超お嬢様。模型テツとしての腕前も一級。

芦塚ツバメ あしづかツバメ:イラストと模型作りに優れた子。イラストの腕前は超高校級。「ヒドイっ」が口癖。

中川華子 なかがわ はなこ:鉄道趣味向けに特化した食堂『サハシ』の娘。写真撮影と料理が得意。バカにされるとすぐ反応してしまう。

鹿川カオル かぬか カオル:ダイヤ鉄。超頭脳明晰で、鉄道会社のダイヤをアルバイトで組んでしまうほどの『ダイヤ鉄』。プロ将棋棋士を目指し奨励会所属。王子と呼ばれるほどハンサムな女の子。電子回路やプログラミングが得意。


田島ミエ たじまみえ:総裁の古くからの友人。凄腕の模型テツ。鉄研のみんなと一緒に大洗などを旅行したものの、関西在住で滅多に会えない。なおかつその実像は不明。

小谷奈々 おたりなな


総裁の友人。凄腕のBトレ自動運転の模型鉄。地下アイドルをしているらしい。ウサミン星がどうとか言っていたが詳細不明。

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