4.夢
文字数 1,152文字
夢なのか、遠い昔の記憶を思い出しているのかはっきりしない意識の中、千秋の高校入学前の頃の姿を心に描いていた。
二つ結びでまだスカートの丈も膝下のころだ。
花々が咲き初めて地味なこの街も少し色鮮やかになり始めていた。
静かな小道を2人で歩いている。
まだ少し風が冷たくて、千秋はピッタリ私の腕にしがみついていた。
「私…高校に進学して良いのかな。うち、お金ないのに。」
大丈夫、お母さんもまだ働けるし、私ももう社会人だからお金の心配はないよ。
そんなこと気にしないで学生生活を謳歌して!
「うん…。」
千秋が小さくうなずいた。
さーっと冷たさの残る風が私たちの間を通り去って行った。
「ひゃー寒い!もう4月だって言うのにまだ冬みたい!」
ぎゅっとさらに力強く私の腕にしがみついた。
きゃっきゃと子供のように笑う。
もしかしたら人生で一番幸せな時だったかもしれない。いつからか父がいなくなり、私、千秋、母の3人暮らしが始まった。金銭面はもちろんのこと、家に私たち女しかいないと言うのはなんだかとても心細い気がした。
そんな暗い空気を千秋は払いのけてくれた。
千秋がケラケラ笑うと、どんより淀んでいた空気がすーっと澄んでいくような気がした。
この子のためならなんだって乗り越えられる。姉としてというより、ほぼ母性に似た感情が芽生えていた。
「高校生になったらね、勉強も頑張るけど、友達と色んなところ遊びに行ってみたいな。東京とか!」
うんうん、と頷く。もっと千秋のやりたいことが知りたい。
「そしたらお姉ちゃんとはあまり遊べなくなるかも…。」
いいよ。千秋が楽しめればそれで良い。でも寂しいからたまには相手してね。
「ふふふっ。」
千秋がくすくす笑う。上から千秋の顔をのぞくとふさふさのまつ毛が見えてとても可愛い。
なんて幸せな時間なんだろう。
目に映るもの全てが輝かしく見える。
「あとね…。」
千秋がカバンの中をゴソゴソし始めパッとそれをカバンから取り出し私の顔につきだした。
ふさふさのうさぎのキーホルダー。
キーホルダーと言ってもぬいぐるみと言ってもいいほど大きい。
「これ!昨日お姉ちゃんにもらった誕生日プレゼント!これを高校のかばんにつけるんだー!」
ああ、やっぱりこれは夢だ。
だって千秋の誕生日は名前にも入っている通り秋。10月12日。
夢だから少し事実とは違うことがもりこまれているんだ。
違うよ、千秋の誕生日は秋でしょ。
千秋がきょとんとして大きな目をくるんとこちらにむけた。
「お姉ちゃん私の誕生日忘れちゃったの?」
千秋の目元が少し歪んだ。どこか苦しそうな表情だった。
ざぁーっと冷たい風が私と千秋の間を流れ、そのまま千秋をさらって行ってしまったのか気がつくと私1人になっていた。
千秋にあげたはずのうさぎのキーホルダーを両手で抱えて一人その場から動けなくなった。
二つ結びでまだスカートの丈も膝下のころだ。
花々が咲き初めて地味なこの街も少し色鮮やかになり始めていた。
静かな小道を2人で歩いている。
まだ少し風が冷たくて、千秋はピッタリ私の腕にしがみついていた。
「私…高校に進学して良いのかな。うち、お金ないのに。」
大丈夫、お母さんもまだ働けるし、私ももう社会人だからお金の心配はないよ。
そんなこと気にしないで学生生活を謳歌して!
「うん…。」
千秋が小さくうなずいた。
さーっと冷たさの残る風が私たちの間を通り去って行った。
「ひゃー寒い!もう4月だって言うのにまだ冬みたい!」
ぎゅっとさらに力強く私の腕にしがみついた。
きゃっきゃと子供のように笑う。
もしかしたら人生で一番幸せな時だったかもしれない。いつからか父がいなくなり、私、千秋、母の3人暮らしが始まった。金銭面はもちろんのこと、家に私たち女しかいないと言うのはなんだかとても心細い気がした。
そんな暗い空気を千秋は払いのけてくれた。
千秋がケラケラ笑うと、どんより淀んでいた空気がすーっと澄んでいくような気がした。
この子のためならなんだって乗り越えられる。姉としてというより、ほぼ母性に似た感情が芽生えていた。
「高校生になったらね、勉強も頑張るけど、友達と色んなところ遊びに行ってみたいな。東京とか!」
うんうん、と頷く。もっと千秋のやりたいことが知りたい。
「そしたらお姉ちゃんとはあまり遊べなくなるかも…。」
いいよ。千秋が楽しめればそれで良い。でも寂しいからたまには相手してね。
「ふふふっ。」
千秋がくすくす笑う。上から千秋の顔をのぞくとふさふさのまつ毛が見えてとても可愛い。
なんて幸せな時間なんだろう。
目に映るもの全てが輝かしく見える。
「あとね…。」
千秋がカバンの中をゴソゴソし始めパッとそれをカバンから取り出し私の顔につきだした。
ふさふさのうさぎのキーホルダー。
キーホルダーと言ってもぬいぐるみと言ってもいいほど大きい。
「これ!昨日お姉ちゃんにもらった誕生日プレゼント!これを高校のかばんにつけるんだー!」
ああ、やっぱりこれは夢だ。
だって千秋の誕生日は名前にも入っている通り秋。10月12日。
夢だから少し事実とは違うことがもりこまれているんだ。
違うよ、千秋の誕生日は秋でしょ。
千秋がきょとんとして大きな目をくるんとこちらにむけた。
「お姉ちゃん私の誕生日忘れちゃったの?」
千秋の目元が少し歪んだ。どこか苦しそうな表情だった。
ざぁーっと冷たい風が私と千秋の間を流れ、そのまま千秋をさらって行ってしまったのか気がつくと私1人になっていた。
千秋にあげたはずのうさぎのキーホルダーを両手で抱えて一人その場から動けなくなった。