死神と堕天使 第八話
文字数 2,821文字
ゼィが野宿する場所から遠く離れた岩山に賊の一団が屯していた。甲冑の仕様やパイロットの風貌も賊に窶しているが、リオス領の正規兵だった。領内の混乱をいいことに、部隊を私物化してスーレ領内を荒らし回り私腹を肥やしていた。頭の大男が、顎髭を摩りながら思案した。
『さてと……、この話を何処まで信じていいものか。』
ゼィが金塊を輸送する情報を仕入れていたが、頭は、情報の出どころに胡散臭さを感じていた。見かけによらず、思慮深い行動が出来る隊長だった。腹心の副長を呼び寄せた。
「お宝の話を、どう聞いた。」
「そうですね。ガセと見ます。」
長年行動を共にしてきた副長の実直な性格と見る目の確かさを信頼していた。
「根拠を聞きたい。」
「運んでいる奴が【死神】です。【死神】が運ぶのは、人の命ですよ。」
頭が苦笑した。副官は、続けた。
「それに、この近辺で金塊なんか見たことありません。」
「そうだな、噂どおりの奴なら下手は打てないな。」
自分の考えが確かめられた頭は、即座に命じた。
「偵察に行ってくれ。」
ゼィの動きは、宿場を出て直ぐにその足取りを掴んでいた。配下の数人に、付かず離れずに追わせていた。
深夜を過ぎて戻った腹心の報告を受けると、頭は決断が早かった。
「試してみるか。まずは、脅かしてやろう。」
自分の領内での戦いに有利性を見出していた。
朝までゼィは、何度かトラップの警報に起こされた。その反応から見れば襲撃でないのが理解できた。
早朝の暗いうちに雨が降り始めた。アナマは、すでに起きて身支度を整えていた。
「用意が出来ているなら、直ぐに出る。」
ゼィは、アナマに隠し立てをする必要もないように思えた。
「昨夜、野盗が偵察に来たと見た。」
その言葉に怯えることなくアナマは、逆に尋ねた。
「……三方向からでしたか。」
「そうだ。トラップに掛かった痕跡がある。こちらの位置は、知られたと見るのが正しいだろう。」
ゼィは、続けた。
「仕掛けてくると見ている。戦いになるが、嬢ちゃんを気遣っている余裕はない。」
「……分かりました。お任せます。」
そう言ってアナマは、ゼィの肩を突いた。
「何だ。」
「……これで、よろしいですか。」
アナマは、頭の後ろで束ねた長い髪を見せた。ゼィが、短く溜息混じりに呟いた。
「助かる。俺は、心眼なんか使えないからな。」
装甲貨車を前に甲冑を進ませた。雨は強くなった。辺りが飛沫で白く霞んでいた。
山間と荒れ地の雨は、甲冑の機動力を落とした。ゼィは、用心深く進んだ。今いる地形の不利さをゼィは、経験から判っていた。この場合は一刻も早く、広く平たんな場所に出る方が対処しやすかった。左に曲がる少し先に地形の広がりを見て取った。
『まずいな……、これでは待ち伏せされる。』
ゼィが、自分の位置の拙さに舌打ちして思った瞬間、アナマが先に気付いた。
「……上。」
アナマの声と同時に、ゼィは迷わずに装甲車両と甲冑を左右に離した。迫撃砲が雨に煙る頭上から落ちてきた。ゼィは、散弾で弾幕を張った。迫撃砲が破壊されて破片が辺りに落ちた。背後から弾が甲冑を狙った。
「教本どおりだな……。」
ゼィは、先読みしていた。煙幕弾を落としながら逆方向に移動させた。手榴弾を投げて不明機の位置を探るように敵の動きを牽制した。煙幕弾を辺りに撒きながら地面を低く移動を繰り返した。
「二つ、三つか……。」
ゼィは、移動中に拾った石を投げた。その石音に機銃の閃光が上がった。ゼィの甲冑は、短槍を手に飛び込むと敵の操縦席を貫いた。直ぐに離れて這い蹲った。ゼィが最も得意とする戦法だった。その泥臭い白兵戦は、昔戦場の混戦で覚えた。
「ここから先は、先に動いた方が負けだ。」
ゼィは、呟いた。辺りを集中して気配を探った。地面に甲冑の動く振動が伝わった。
「数を頼んで戦う奴らに、教えてやるか。」
煙幕が漂う中、ゼィの甲冑は岩のように微動だもしなかった。不用意に近付いた甲冑の下から操縦席を突き刺した。直ぐに別の甲冑の影が、朧げに見えた。ゼィは、人の動きのように甲冑を移動させ後ろから敵の操縦席を刺し貫いた。
「ここは、三つだ。」
ゼィは、そう自分に言い聞かせると、意表を突く動きで後退した。距離を置くと再び甲冑を潜ませた。
「少し装甲を焼いたか。が、問題ない。」
「……面白い戦い方が出来るのですね。やはり、特殊部隊でしたか。」
「隠すこともない。元奇襲部隊に所属していた。それで、褒めてくれるのか。」
「……褒めてほしていですか。」
「残りの野盗を仕留めてから褒めてもらおうか。前にもいるだろうな。」
「……わたしなら、前方に三機配置します。」
アナマの考え方は、軍人のものだった。ゼィは、同僚と話すような違和感のなさに確信を深め始めていた。
「嬢ちゃんこそ面白いな。よく見えている。」
「……軍事オタクですから。」
「納得すればいいのか。」
「……ですね。」
装甲貨車は、破壊された様子もなく位置が予測できた。囮にしているのをゼィは、見越していた。全体の地形を探り目星をつけた。
「俺なら、三か所に狙撃手を置くが。この視界の悪さだ。近いと見るが。」
ゼィは、独り呟き考え作戦を練った。
「さて、お利巧さんかな。」
野盗の残りを十機ばかりとゼィは、予測した。三ヶ所に狙撃手を配置して各所に一人ずつ警備を付けて、装甲貨車の近くに三体潜ませていると読んだ。
『さて……、頭が何処にいるかで、この後の作戦は変わるが。』
そう思いながらゼィは、静かに山腹の側面に移動した。その動きは、獲物を狙う豹のように忍びやかだった。予想よりも近くで狙撃手が待機していた。警護の甲冑も確認できた。
「罠を仕掛けていないと見るが、背後は警戒していないか。」
ゼィは、そう独り呟き動かなかった。まるで大地と一体になったかのように気配を消して潜み続けた。巻き散らかした煙幕弾と強い雨に視界は、失われていた。
根負けしたのは、野盗の方だった。装甲貨車の囮に引っ掛からない用心深さに頭は、考えあぐねた。時間は十分にあったが、この展開は逆に威圧感を覚えた。
『思った以上に厄介な相手か……、どうする。』
そこに、装甲貨車の周りから火が上がった。一瞬にして火の海になった。炎に撒かれて潜んでいた部下の甲冑が損傷した。
「……ナパームか。」
頭は、装甲貨車の時限装置を見ると判断は早かった。後退の命令下した。
「逆に囮にされたか。」
ライフルの音が響き、雨音の中を二射目も続いた。
集合場所に、五機の甲冑が到着しなかった。狙撃手と警護が含まれていた。
「五人、遣られた……。死神の噂は、本当だったか。」
頭は、顔を顰め呻いた。
「この借りは、返してもらうぞ。これ以上、好き勝手はさせん。」
配下を減らされて頭は、計画を練り直した。
「加勢を呼ぶか。」
頭は、一人を伝令に走らせた。
『さてと……、この話を何処まで信じていいものか。』
ゼィが金塊を輸送する情報を仕入れていたが、頭は、情報の出どころに胡散臭さを感じていた。見かけによらず、思慮深い行動が出来る隊長だった。腹心の副長を呼び寄せた。
「お宝の話を、どう聞いた。」
「そうですね。ガセと見ます。」
長年行動を共にしてきた副長の実直な性格と見る目の確かさを信頼していた。
「根拠を聞きたい。」
「運んでいる奴が【死神】です。【死神】が運ぶのは、人の命ですよ。」
頭が苦笑した。副官は、続けた。
「それに、この近辺で金塊なんか見たことありません。」
「そうだな、噂どおりの奴なら下手は打てないな。」
自分の考えが確かめられた頭は、即座に命じた。
「偵察に行ってくれ。」
ゼィの動きは、宿場を出て直ぐにその足取りを掴んでいた。配下の数人に、付かず離れずに追わせていた。
深夜を過ぎて戻った腹心の報告を受けると、頭は決断が早かった。
「試してみるか。まずは、脅かしてやろう。」
自分の領内での戦いに有利性を見出していた。
朝までゼィは、何度かトラップの警報に起こされた。その反応から見れば襲撃でないのが理解できた。
早朝の暗いうちに雨が降り始めた。アナマは、すでに起きて身支度を整えていた。
「用意が出来ているなら、直ぐに出る。」
ゼィは、アナマに隠し立てをする必要もないように思えた。
「昨夜、野盗が偵察に来たと見た。」
その言葉に怯えることなくアナマは、逆に尋ねた。
「……三方向からでしたか。」
「そうだ。トラップに掛かった痕跡がある。こちらの位置は、知られたと見るのが正しいだろう。」
ゼィは、続けた。
「仕掛けてくると見ている。戦いになるが、嬢ちゃんを気遣っている余裕はない。」
「……分かりました。お任せます。」
そう言ってアナマは、ゼィの肩を突いた。
「何だ。」
「……これで、よろしいですか。」
アナマは、頭の後ろで束ねた長い髪を見せた。ゼィが、短く溜息混じりに呟いた。
「助かる。俺は、心眼なんか使えないからな。」
装甲貨車を前に甲冑を進ませた。雨は強くなった。辺りが飛沫で白く霞んでいた。
山間と荒れ地の雨は、甲冑の機動力を落とした。ゼィは、用心深く進んだ。今いる地形の不利さをゼィは、経験から判っていた。この場合は一刻も早く、広く平たんな場所に出る方が対処しやすかった。左に曲がる少し先に地形の広がりを見て取った。
『まずいな……、これでは待ち伏せされる。』
ゼィが、自分の位置の拙さに舌打ちして思った瞬間、アナマが先に気付いた。
「……上。」
アナマの声と同時に、ゼィは迷わずに装甲車両と甲冑を左右に離した。迫撃砲が雨に煙る頭上から落ちてきた。ゼィは、散弾で弾幕を張った。迫撃砲が破壊されて破片が辺りに落ちた。背後から弾が甲冑を狙った。
「教本どおりだな……。」
ゼィは、先読みしていた。煙幕弾を落としながら逆方向に移動させた。手榴弾を投げて不明機の位置を探るように敵の動きを牽制した。煙幕弾を辺りに撒きながら地面を低く移動を繰り返した。
「二つ、三つか……。」
ゼィは、移動中に拾った石を投げた。その石音に機銃の閃光が上がった。ゼィの甲冑は、短槍を手に飛び込むと敵の操縦席を貫いた。直ぐに離れて這い蹲った。ゼィが最も得意とする戦法だった。その泥臭い白兵戦は、昔戦場の混戦で覚えた。
「ここから先は、先に動いた方が負けだ。」
ゼィは、呟いた。辺りを集中して気配を探った。地面に甲冑の動く振動が伝わった。
「数を頼んで戦う奴らに、教えてやるか。」
煙幕が漂う中、ゼィの甲冑は岩のように微動だもしなかった。不用意に近付いた甲冑の下から操縦席を突き刺した。直ぐに別の甲冑の影が、朧げに見えた。ゼィは、人の動きのように甲冑を移動させ後ろから敵の操縦席を刺し貫いた。
「ここは、三つだ。」
ゼィは、そう自分に言い聞かせると、意表を突く動きで後退した。距離を置くと再び甲冑を潜ませた。
「少し装甲を焼いたか。が、問題ない。」
「……面白い戦い方が出来るのですね。やはり、特殊部隊でしたか。」
「隠すこともない。元奇襲部隊に所属していた。それで、褒めてくれるのか。」
「……褒めてほしていですか。」
「残りの野盗を仕留めてから褒めてもらおうか。前にもいるだろうな。」
「……わたしなら、前方に三機配置します。」
アナマの考え方は、軍人のものだった。ゼィは、同僚と話すような違和感のなさに確信を深め始めていた。
「嬢ちゃんこそ面白いな。よく見えている。」
「……軍事オタクですから。」
「納得すればいいのか。」
「……ですね。」
装甲貨車は、破壊された様子もなく位置が予測できた。囮にしているのをゼィは、見越していた。全体の地形を探り目星をつけた。
「俺なら、三か所に狙撃手を置くが。この視界の悪さだ。近いと見るが。」
ゼィは、独り呟き考え作戦を練った。
「さて、お利巧さんかな。」
野盗の残りを十機ばかりとゼィは、予測した。三ヶ所に狙撃手を配置して各所に一人ずつ警備を付けて、装甲貨車の近くに三体潜ませていると読んだ。
『さて……、頭が何処にいるかで、この後の作戦は変わるが。』
そう思いながらゼィは、静かに山腹の側面に移動した。その動きは、獲物を狙う豹のように忍びやかだった。予想よりも近くで狙撃手が待機していた。警護の甲冑も確認できた。
「罠を仕掛けていないと見るが、背後は警戒していないか。」
ゼィは、そう独り呟き動かなかった。まるで大地と一体になったかのように気配を消して潜み続けた。巻き散らかした煙幕弾と強い雨に視界は、失われていた。
根負けしたのは、野盗の方だった。装甲貨車の囮に引っ掛からない用心深さに頭は、考えあぐねた。時間は十分にあったが、この展開は逆に威圧感を覚えた。
『思った以上に厄介な相手か……、どうする。』
そこに、装甲貨車の周りから火が上がった。一瞬にして火の海になった。炎に撒かれて潜んでいた部下の甲冑が損傷した。
「……ナパームか。」
頭は、装甲貨車の時限装置を見ると判断は早かった。後退の命令下した。
「逆に囮にされたか。」
ライフルの音が響き、雨音の中を二射目も続いた。
集合場所に、五機の甲冑が到着しなかった。狙撃手と警護が含まれていた。
「五人、遣られた……。死神の噂は、本当だったか。」
頭は、顔を顰め呻いた。
「この借りは、返してもらうぞ。これ以上、好き勝手はさせん。」
配下を減らされて頭は、計画を練り直した。
「加勢を呼ぶか。」
頭は、一人を伝令に走らせた。