第二話「年下の上司はやりにくいですか」

文字数 1,741文字

両親を喪い、カミガカリに拾われて16年が経った。

今は高校で非常勤の講師として働く傍ら、

カミガカリとして日々神に仇なすアラミタマと戦っていた。


夕方。まゆみは職務を早々に切り上げて足早に教会へ向う。

教会というのはもちろん騎士団の施設のことである。

今日はどうやら任務依頼のための呼び出しらしいが……?

っ……! いってーなババァ!

途中、角を曲がったところでドンッと誰かとぶつかってしまう。

見たところ中学生くらいの女の子だ。

あら、ごめんなさい。大丈夫かしら痛いところはない?
うっせさわんな

と言って、女の子はそのまま歩き去ろうとする。

引き留めるのも悪いと考えたまゆみは見送ることにした。

見たところケガはないようね、良かったわ。

気を付けて帰りなさいね

女の子は足早に立ち去る。

気を取り直して教会に向かうまゆみ。

教会に着くと見知った顔と出会う。

あ、まゆみさん! お久し~でっす!

テレサ副長、応接室でお待ちですよ~!

露骨に嫌な顔をするまゆみ。

テレサは聖堂騎士団の副長であり、まゆみの上司にあたる。

歳はまゆみの方が上だが、立場はテレサの方がはるかに高い。

あら、テレサが私を呼んでいるのね、あまり行きたくないわね……

まゆみさん副長怖がりすぎでっすよ~。

副長めっちゃイイ人じゃないですか~!

あ、引き止めたらまゆみさんが怒られちゃうか。いってら~でーす

仕方ない、覚悟を決めるか……

応接室に向かい、ドアをノックする。


コンコン

どうぞ
失礼いたします

お待ちしていましたよ、聖アンジェラ・メリチ。

ようこそまゆみ。

何もない応接室で無愛想ですが

お待たせしました、ミステレサ。

私に御用でしょうか

ええ。任務の依頼です。

丁度この地区で手が空いているの、あなたしかいなかったものだから。

魔導書の件、きいていますか?

魔導書……ですか? 申し訳ありませんが、私は何も……。


差し支えなければ、何があったのですか?

……そうですか。ええ。情報統制はされていますからね。

〈アーカム大学〉の手落ちで、魔導書が散逸しました。

〈アーカム大学〉は数を公表していませんが。相当数。


禁書指定込みです

魔導書が散逸……。

それは外部の手によるものでしょうか

〈教団〉の息のかかった者が内部からという線もあるでしょうね。

そのあたりはアーカムが処理する問題です。

今我々にとっての問題は、禁書指定の回収・処分です

つまり、私は禁書指定された魔導書の回収、不可能なら処分任務の為に呼ばれたということ……で良いでしょうか
そうですね

ところで、まゆみ。

あなたは神社の再建を望んでいるのでしたか

テレサは手元の資料に目を落とし、話題を変えた。
ま、まあ先祖代々守ってきた神社ですので……
禁書指定の回収に伴う特別手当、知っていますね?
テレサはこれがアーカム大学からの公式な依頼ではないこと、魔導書を見つけてもアーカム大学に返還する義務はないこと、魔導書は希少価値が高いことを説明した。
ですから、まゆみ。可能なら回収が望ましいですね?

そうですね、回収を最優先に。

どうしても回収が不可能な場合は処分と

ええ。それで、どうもこの街にも禁書指定があるとか、ないとか。


あなたにお任せしてよいでしょうか?

表情は笑顔だが、断らせない威圧感を肌でひしひしと感じたまゆみ。
は、はい。お任せ下さい

ありがとう、まゆみ。

ああ、先ほどはあんな話をしましたが、

いつものように現場のカミガカリの判断で動いてもらって結構ですよ。

けれど、そうですね。


聖アンジェラ・メリチ。私はあなたが“よい報告”をしてくれること、信じていますよ?

(笑顔が……怖い)
“神の御心のままに”
エイメン
テレサに有無を言わさず承諾させられたまゆみは応接室を退室する。
(やっぱり今日も怖かったわぁ)

まゆみはその後、連絡係から詳しい内容を聞く、どうやら他組織のカミガカリと連携して任務にあたるようだ。

後日、指定場所に集合するよう指示された。


やっかいごとを頼まれたと頭を抱えるまゆみは

早くうちの神社が再建しますよーに
と神に祈るのであった。
あ、なんの話でした? って副長がたずねてくるなんて任務依頼しかないんですけどね! もう帰りですか? 送ってきましょうか? ボラボラボラボラで一瞬ですよ! え? いらない? えー?
聖ウルスラ? 教会では静かにして……お願い
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登場人物紹介

氷室 護(ひむろ まもる) 20歳

吸血鬼の血を引く夜魔で現役大学生。
退魔師協会に所属する新人カミガカリ。
【氷結戦士アイスブルート】として街の平和を守っている。
睦月達雄をおやっさんと呼び、
カミガカリの師匠として尊敬している。

久世 竜胆(くぜ りんどう) 17歳

川中高校に通う高校2年生。
それとは別に環境省特別対策室に所属するカミガカリでもある。
魔術師の家に生まれ、
とある事情から卜部正人に育てられた過去を持つ。
品行方正、容姿端麗、成績優秀と隙のないことから
「超高性能一般人」と呼ばれている。

進藤 まゆみ(しんどう) 28歳

聖堂騎士団所属のカミガカリで暗号名"聖アンジェラ・メリチ"。
天狗の血を引く半妖で川中高校の非常勤講師。
焼けてしまった神社を再建してぬくぬく生きたいと考えている。
現在独身である。繰り返す、現在独身である。

睦月 達雄(むつき たつお)

護の師匠でかつては「魔人戦士デアボロス」と呼ばれていた。
現在はカミガカリを引退し、
「バイクショップ ムツキ」と「喫茶 ムツキ」を経営している。

睦月 サツキ(むつき)

睦月達雄の孫娘。
「喫茶 ムツキ」でバイトをしている。

卜部 正人(うらべ まさと)

環境省特別対策室室長。
竜胆にとって父親のような存在。
任務の度に竜胆の無事を願っている。

テレサ・カラス

聖堂騎士団副長。
年下ながらまゆみの上司にあたる存在。
ニコニコしながら凄まじいことを言ったりする。

スージー

人造神器大好きなクレイジー技師。
ある機関から派遣され、護たちに情報を渡す。

アンジェリーク

暗号名"聖ウルスラ"。
どんな乗り物でも乗りこなせる力を持つ。
性格は適当で戦闘は苦手。

木崎宗次郎

ひょんなことから何故か事件の中心人物となってしまう男。
今回もある商売をしていたところ、事件をおこす。

ジョージ・ヒューズ

アーカム大学客員教授。
ある本が流出した際に行方不明となってしまう。

ウルタール

関西弁でしゃべる猫。
中学生くらいの女の子にも変身できる。
猫を使役して情報を集めているようだが……?

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