第51話  入れ替わり体質の欠点 2

エピソード文字数 4,135文字

待ちなさい! 蓮! ちょっと!
頼む聖奈! マジで時間がないんだ!

 ああもう。追いかけてくるなよ! お前を待つ時間さえも惜しいんだよ。


 刻一刻と時間が経過するだけで、俺まで頭が爆ぜそうだ。

くそったれが! 早く返事を寄こしやがれ!

 凛からの連絡が無い。

 あいつ……たったあれだけの短文で、俺に何を理解しろと言うのだ。

平八! こっちよ!

蓮。車で行きましょう

 後ろを振り向くと、黒塗り高級車がこちらへ向かって来る。

 タイミングバッチリすぎて、俺は走るのを止めて、もう一度スマホを確認する。

《頭痛いよ。学校終わるまで持たない》

 あの野郎……これだけじゃ俺はどう行動すれば良いのか分からないじゃないか! 

 その後に説明でもしてくれるのかと思ったが、俺の質問にも気付いていないのか、既読にもならない。



 やはり……

 何かの理由で連絡が取れない状況に陥っているのか?


蓮! 乗って! 早くっ!
……助かる

 俺が車に乗り込むと、平八さんが行き先を質問するので、俺は暫く考えた後「まず家にお願いします」と伝える。



 どの道、凛を迎えに行かなきゃ話にならない。

 放課後まで持たないのなら、俺が連れて帰るしかない。



 その時、スマホの画面が切り替わると、親父だった。


蓮か? 今小学校から連絡があってな。

今から凛を迎えに行ってやってくれ。悪いが学校は早退して欲しい

もう早退したよ! で? 凛と連絡は? どうなってるんだよあいつ!

 いつもの調子で喋れない。

 エキサイト寸前なのは、やはり一歩間違えれば大惨事の可能性があるからだ。


分からん。担任の先生としか話ししてねーんだよ。凛に連絡がつかねー。

頼む。早急に保護してやってくれ

くそっ……

分かった。すぐに学校に行ってみる

 これ以上の会話は無駄だと思ったので、通話を切ると、平八さんの運転する車は既に家に到着していた。



 すぐに階段を駆け上り玄関を開け、さっさと着替えていると、スマホの着信音が聞こえる。



 再び親父からの電話に、スピーカーにしてから制服を脱いでゆく。

保健室で寝かせてもらってるらしい。だから安心しろ

 保健室? そうか!


 俺はそれを聞いて盛大な溜息を吐き、その場にへたり込んだ。


 今の今まで制限時間つきの時限爆弾がストップしたような、そんな感覚に陥っていた。

 俺が安堵していると、親父は続ける。
担任の先生には迎えに来るのは楓蓮だと伝えたから、女で行って来い
何でだよ。別に蓮でもいいじゃないか?

蓮は童顔だし幼いしな。いくら私服で行っても高校生っぽく思われるの嫌だろ? 

下手すりゃ学校に入れてもらえん可能性もある。今の小学校は外部からのガードが固いからな

そうかい。分かったよ。楓蓮で行ってくる
すまんな。苦労掛けちまって……頼んだぞ
 そんな風に言うなよ。声のトーンだけで分かるんだ。
もういいよ。だけどたまには……帰って来てよ



 ※



蓮っ! 時間は大丈夫なの? あれ? か、楓蓮?
よし。準備出来た。今から行……ってか聖奈? 何その格好?

 俺は楓蓮となる。現在時刻十四時前。



 本来ならこんなに早く入れ替わると、俺のサイクルが乱れてしまうが、そんな悠長な事は言ってられない。



 家を出て階段を下りながら聖奈に事情を話す。

 そして車に乗り込むと、平八さんはすぐ近くの小学校まで飛ばしてくれる。


成程。それで楓蓮お嬢様に……確かにその方が良いでしょう。

門前払いされる時間などございませんからな

平八さんも凛の保護方法として賛成してくれるのはいいんだが……
なぁ聖奈。何でお前まで着替えてんの?
別にいいじゃない。これしか着替え持ってなかったし、制服で小学校行くのはマズいでしょ?


 聖奈の服装。それは……

 上から下までグレーのスーツ姿であった。


 

 最早高校生とは思えない大人のファッションに驚いていると、あっという間に小学校へ到着する。



 すぐに後部ドアを開けてもらうと、聖奈まで一緒に付いてくる。ああそうか。こいつ一緒に学校へ入る気なんだ。






 でかい校門の横にあるインターホンを鳴らし、早速中の人に事情を話す。


 「少々お待ち下さい」と言われ、じっと待っていたが、これがもう遅くって……このまま校門をよじ登ってやろうかと思った。



 まぁ焦るな。保健室にいるなら凛も安全だろう。


 もし、入れ替わりリミットが二時間を越えて、華凛になっちまっても、布団に包まってじっとして顔を見られなきゃいい。その位はできるはずだ。



 とにかく。俺が凛と接触すればいくらでも隠しようがある。

 それまでバレなきゃいいだけの話だ。



 そして待つこと三分ほどか。

 校舎から出てきたのは、随分とヒゲを生やした男性だったが、妙に若くも見える奴だった。


担任の大熊(おおくま)です。黒澤君の保護者さんですか?
そうです。凛は……大丈夫なんですか?
はい。今、保健室でゆっくりしてます

 とにかく。早く凛と逢わせてくれ!

 あいつが今どんな状態なのか分からないだけに、急に焦りだした。

凛……保健室はどこですか? 凛っ!
ああっ。ちょっと!

 俺は先生や聖奈を待たずして走り出した。



 どうせ保健室なんて一階だろと思いながら、校舎へすっ飛んでいくと、左右の教室を注意深く見ながら進む。


 保健室の表札が見えると、すぐにドアを開けて、凛と叫んでいた。



 そして勝手にカーテンを開けると……

 布団に包まって顔だけ出してる凛を発見した。


お、お姉ちゃん……
凛! 大丈夫か?

 良かった。まだ男の状態だ。



 と、その時、保健室の先生に引き止められるが、後からきた先生や聖奈が事情を説明してくれる。



 その間に凛に近づいて、小声で話す。

どのくらい痛い? 立てるのか?
ううん。も、もうダメ。変わっちゃう。変わっていい?

 凛はそう言って布団に包まってしまった。



 何故だ?


 何故こんな早く? まだ十四時だろ?

 凛が男でいられる時間と計算が合わない。

凛。これを着ろ。着れるか?
ダメ。出来ないよ。身体が動かな……い、入れ替わる……

 着替える事も出来ない?

 その様子を見てやたら違和感を感じたのだ。


 と言うのも凛の様子は、リミット二時間経過くらいの症状だと察した。

お姉ちゃん……も、もう……

 もう限界みたいだ。俺は分かったと告げると、とりあえずベッドから離れてカーテンを閉める。



 カーテンの外にいた先生と保健室の先生。そして聖奈の会話に入ると、俺は心ここにあらずといった状態で喋り出した。






 今まさに凛は入れ替わっている。

 そう思うと、気が気でないが堪えるんだ。

大丈夫だ華凛。俺がいるからには絶対にバレやしない!



 ※



一応黒澤さんのお母さんには聞いていましたが……時折こんな症状が出るのですか?
はい。とても不定期ですが、激しい頭痛がするらしく、その場合はすぐにご連絡下さい。すぐに私が迎えに来ますから

分かりました。しかし……具体的にどのような病気に分類されるのですか?

私もお母さんから詳しく聞いていなかったもので。


もしよろしければお教え出来ませんでしょうか?

 詳しい話なんて出来るかよ。

 この特殊体質の事など、この世界に記録もなけりゃ、症例もないんだよ。


 むしろこっちが聞きたいくらいだ。

医者でもこんな症状の病気は例が無いらしくて……色々と試行錯誤して治療に当たっていますが……原因不明で

 何とか凌ぎきる。今はまず時間を稼ぐ事。

 まずは入れ替わって女にならないと華凛は動けない。

先生。出来れば凛ちゃんが頭痛を訴えたら、保健室で休ませて欲しいんです。

彼女が来れなくても、私が迎えに来ます

 聖奈……お前も……

 俺の援護してくれるのはありがたい。


 頷く担任の先生に、保健室の先生。

 俺と聖奈は二人に連絡先を教えていた。


分かりました。こちらも十分注意して黒澤君を見ておきます

 物分りのいい先生達で助かった。


 そろそろ……いいか。

 もう入れ替わりが終わった頃だろう。



 聖奈に目配せすると、目配せで返してくる。

 しばらく先生達の相手を頼んだぞ。


 俺は「凛? 大丈夫」と声を掛けながらカーテンを開けて、すぐに閉めていた。

凛?
お、おね……
しーっ!

 凛は女の姿になっていた。

 喋るなと言ったのは、声が変わっちまうからだ。

これを羽織れ

 持って来た鞄から取り出したのは、フード付きパーカーだ。

 

 すぐに着替えようとする華凛。俺は布団でその姿を隠し、着替えるのをじっと待っていた。


 ったく。入れ替わった瞬間から動けるようになるからな。

 詐欺みたいな身体にウンザリするぜ。

で、あなたは黒澤君の……親戚の方ですか?
私は凛ちゃんの従姉弟で、一緒に来てる楓蓮の姉です

 は? 聖奈? 好き放題言いやがって。

 などと思っている内に、華凛が着替え終わった。 




 後はフードを深く被れば長い髪も見えないし、顔も見えないだろ? これなら大丈夫。



 俺も小さい頃、こうやって親父に運んでもらったものだ。



 華凛をおんぶして、カーテンを開ける。

 そして聖奈にランドセルを持ってもらい、先生達に一礼した。

黒澤。大丈夫か? しんどくなったらすぐに先生に言うんだぞ

 返事はするな。そう思ったが……

 華凛は俺の背中で顔を隠しながらもうんうんと頷いていた。

ごめんな。先生もこんなに苦しい病気だなんて知らなくて……これからはすぐに言ってくれ

 華凛の肩に手を乗せてくるので、内心ビビった。

 だけど真摯に訴える先生に、良い先生だなって思った。

暫く学校は休みになるの?

 と保健室の先生が言うと、

「分かりませんが、調子が良かったら明日にでも登校できると思います」と言うに留めた。

凛。帰ろう……

 俺が小さくそう言うと、おんぶしてる華凛がギュっと抱きしめてくる。 


 大丈夫だ。華凛。

 俺が来た時点で、大惨事にはならないようになってるんだ。


 お前は俺がずっと守ってやるから。

―――――――――――――

 人物紹介 


 大熊先生。

 

 凛の担任。口ひげがもみあげと繋がっており、かなりワイルドだけどジャニーズ系。

 まだ三十代前半。


 実はとても熱血先生で、生徒からは人気がある。

 その反面、過度の教育に保護者や同僚からはあまりいい顔はされず、既に出世街道を大きく逸れてしまった。色んな小学校を転々としており、この小学校に赴任してきたばかり。


 第二部で再び登場します。


 

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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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