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文字数 1,790文字
そしていざ課に戻ると、まず朝香は倉庫で待つよう言われた。
手持ちぶさたのまま待っていると、徹が戻ってくる。その後ろには真誉の姿が。
真誉は朝香の姿を見るなり、かなり驚いたようで目を瞠る。
「あ、朝香先輩……ですよね? どうしちゃったんですか、その格好!」
「どう? いけてるしょ? あ、マブいって言うんだっけ?」
朝香はくるりとその場で回ってみせる。
「ま、マブ……?」真誉もかなり面食らう。
徹が今朝のことを説明と、真誉はどうにか理解してくれたらしい。
「そ、そうだったんですか……。道理で化粧も昨日とはだいぶテイストが違うと……。どうやってここまで? 呼び止められませんでした?」
朝香は肩をすくめた。
「チラチラ見てたけど大丈夫だった」
徹は溜息混じりに言う。
「まあ、今さら格好程度でどうのこうのと言われてもどうってことはないしな、安置室だからな」
「先輩。課長には何て説明するんですか?」
朝香は言う。
「聞き込みをする上で当時の状況を思い出してもらう為に、この格好をしたって」
真誉はウンウンと頷く。
「なるほど。それなら課長も怒らないかもしれませんね!」
徹はこめかみを押さえる。
「本当かよ」
朝香は目を反らす。
「た、多分ですが……」
真誉は不躾なくらいジロジロと朝香の格好を見ると、頬を薄く染める。
「先日テレビでバブル時代を特集してましたけど、先輩の姿ってまさにバブリーって感じですよね。真っ赤なボディコンで、身体のラインが出てて……。あぁ、朝香先輩ってば本当に背が高くってプロポーションいいんですね! 私が同じ格好したら、ちんちくりんですよ。胸もお尻も中途半端ですし……」
真誉は心底悲しがり、朝香は苦笑してしまう。
確かに日々のトレーニングで、プロポーションには相当気を遣っているつもりだが、真誉のリアクションでふと、学生時代を思い出す。まるでマンガの世界だが、朝香はとにかく同性にモテた。近隣の女子生徒や後輩、果ては先輩に告白されたことが何度とある。
朝香は自分のセミロングの髪を弄る。
「本当はこの髪もどうにかしたいんだけどねー」
「ワンレンボディコンですもんね。あ、それならウィッグとかしたらどうですか?」
「ああ、それ良いかもっ!」
そこに咳払い。徹がうんざりした顔をしていた。
「バブルのファッション話はもういいか?」
真誉は肩をすくめた。
「吉良せんぱーい。遅れますね。80年代ファッションを今風にアレンジするっていうのも結構人気あるんですよ」
「うるせえ。今は二十一世紀だ。――そろそろ課長とのご対面だ。いくぞ」
徹は顎をしゃくった。
「ただ今戻りました」
徹を先頭に、次に真誉、最後尾に朝香の順で室内に入る。
朝香はそれとなく身体を縮こまらせるが、さすがにそのガタイを目立たなくさせるのは至難の業。
「ご苦労様です」
課長の愛一郎が顔を上げ、それから朝香の姿に目を留めた。
課長の眼差しに、背中を汗がたらりと流れる。
(ああ、どうか! 怒られませんように!)
朝香は心の中で祈る。
「法条君。その格好は」
徹がすかさず口を挟む。
「実は……」
「法条君に聞いているんです」
「……はい」
徹はすごすごと引き下がった。助け船は呆気なく撃沈。
「え、えっと……これは、捜査に必要でして……。被害者がこういう格好をしていたという証言がありまして、その……親しかった人たちの記憶を、これで少しでも呼び起こして貰えたらと……」
愛一郎の柔らかな言葉とは裏腹な、鋭い眼差しでじっと見つめられてしまうと、言葉がうまく出てくれない。
一体どれだけ重苦しい沈黙が流れただろう。
やがて愛一郎は小さく息をつく。
「なるほどぉ。捜一ではかなり我が道を行くというタイプだとは聞いていましたが、なるほどねぇ……。この部署にはあなたのように新しい風が必要ですね。その意気で今後とも頑張って下さい」
「え、あ、はい!」
「あ、それから髪型もこだわったほうが良いですよ。80年代の警察もアフターファイブにはそういう子たちがいたんでねぇ。いやあ、懐かしいですねえ」
「えっと、ウィッグ……カツラをつけようかと思います」
「そうしたほうが良いです。では捜査の方、期待していますよ」
朝香はほっと安堵の息を漏らした。
手持ちぶさたのまま待っていると、徹が戻ってくる。その後ろには真誉の姿が。
真誉は朝香の姿を見るなり、かなり驚いたようで目を瞠る。
「あ、朝香先輩……ですよね? どうしちゃったんですか、その格好!」
「どう? いけてるしょ? あ、マブいって言うんだっけ?」
朝香はくるりとその場で回ってみせる。
「ま、マブ……?」真誉もかなり面食らう。
徹が今朝のことを説明と、真誉はどうにか理解してくれたらしい。
「そ、そうだったんですか……。道理で化粧も昨日とはだいぶテイストが違うと……。どうやってここまで? 呼び止められませんでした?」
朝香は肩をすくめた。
「チラチラ見てたけど大丈夫だった」
徹は溜息混じりに言う。
「まあ、今さら格好程度でどうのこうのと言われてもどうってことはないしな、安置室だからな」
「先輩。課長には何て説明するんですか?」
朝香は言う。
「聞き込みをする上で当時の状況を思い出してもらう為に、この格好をしたって」
真誉はウンウンと頷く。
「なるほど。それなら課長も怒らないかもしれませんね!」
徹はこめかみを押さえる。
「本当かよ」
朝香は目を反らす。
「た、多分ですが……」
真誉は不躾なくらいジロジロと朝香の格好を見ると、頬を薄く染める。
「先日テレビでバブル時代を特集してましたけど、先輩の姿ってまさにバブリーって感じですよね。真っ赤なボディコンで、身体のラインが出てて……。あぁ、朝香先輩ってば本当に背が高くってプロポーションいいんですね! 私が同じ格好したら、ちんちくりんですよ。胸もお尻も中途半端ですし……」
真誉は心底悲しがり、朝香は苦笑してしまう。
確かに日々のトレーニングで、プロポーションには相当気を遣っているつもりだが、真誉のリアクションでふと、学生時代を思い出す。まるでマンガの世界だが、朝香はとにかく同性にモテた。近隣の女子生徒や後輩、果ては先輩に告白されたことが何度とある。
朝香は自分のセミロングの髪を弄る。
「本当はこの髪もどうにかしたいんだけどねー」
「ワンレンボディコンですもんね。あ、それならウィッグとかしたらどうですか?」
「ああ、それ良いかもっ!」
そこに咳払い。徹がうんざりした顔をしていた。
「バブルのファッション話はもういいか?」
真誉は肩をすくめた。
「吉良せんぱーい。遅れますね。80年代ファッションを今風にアレンジするっていうのも結構人気あるんですよ」
「うるせえ。今は二十一世紀だ。――そろそろ課長とのご対面だ。いくぞ」
徹は顎をしゃくった。
「ただ今戻りました」
徹を先頭に、次に真誉、最後尾に朝香の順で室内に入る。
朝香はそれとなく身体を縮こまらせるが、さすがにそのガタイを目立たなくさせるのは至難の業。
「ご苦労様です」
課長の愛一郎が顔を上げ、それから朝香の姿に目を留めた。
課長の眼差しに、背中を汗がたらりと流れる。
(ああ、どうか! 怒られませんように!)
朝香は心の中で祈る。
「法条君。その格好は」
徹がすかさず口を挟む。
「実は……」
「法条君に聞いているんです」
「……はい」
徹はすごすごと引き下がった。助け船は呆気なく撃沈。
「え、えっと……これは、捜査に必要でして……。被害者がこういう格好をしていたという証言がありまして、その……親しかった人たちの記憶を、これで少しでも呼び起こして貰えたらと……」
愛一郎の柔らかな言葉とは裏腹な、鋭い眼差しでじっと見つめられてしまうと、言葉がうまく出てくれない。
一体どれだけ重苦しい沈黙が流れただろう。
やがて愛一郎は小さく息をつく。
「なるほどぉ。捜一ではかなり我が道を行くというタイプだとは聞いていましたが、なるほどねぇ……。この部署にはあなたのように新しい風が必要ですね。その意気で今後とも頑張って下さい」
「え、あ、はい!」
「あ、それから髪型もこだわったほうが良いですよ。80年代の警察もアフターファイブにはそういう子たちがいたんでねぇ。いやあ、懐かしいですねえ」
「えっと、ウィッグ……カツラをつけようかと思います」
「そうしたほうが良いです。では捜査の方、期待していますよ」
朝香はほっと安堵の息を漏らした。