カエル
文字数 952文字
手袋のように手に突っ込んでパクパクとやるやつだ。正式にはハンドパペットと言うらしい。だが言うまでも無い事だが、あれはパペットをつけている人間が、腹話術でしゃべっているのだ。いや、そんな事は言うまでもないことだ。誰でも知っている。
「何をぶつぶつ言っているのだ? 自閉モードか?」
カエルのパペットは俺に語りかけた。
俺はうつろな目でパペットをじっと見つめる。
「そんなに見つめても何もでんぞ」
ピシャっと、俺の顔に水がかかった。カエルのパペットが口から水を出したのだ。
…………。何もでないんじゃないのかよ?
「なんで取れないのだ?」
「言ったであろう。おぬしとは縁(えみし)でつながっておる。いまや我らは一体じゃ、体の一部を取り外しできる訳などあろうか?」
「いったい何故? 誰がどうして? 何故こんな事に?」
「おぬしが、このパペットを選んだからじゃ。すべてはおぬしの意思決定に由来する」
俺が一体どこで間違えたのか? 誰か教えてください。
「つけたら取れないって説明は無かったですけど」
「おぬしが尋ねぬのが悪い。別に隠していた訳ではない、聞かれたらちゃんと答えたのだな」
「って、さっきまで普通のパペットのフリをしてたじゃないですか? パペットが話すなんて思わないでしょう?」
ふるふると怒りにうち震える。このカエル燃やしてやろうか? もっともカエルは俺の左手と一体化してるようで、感覚や痛みは全て左手に変換されて伝わるのだが。
「それは、おぬしの想像力の欠如じゃ。ハンドパペットがすべて使い手の腹話術だなどと、誰が決めた? おぬしの勝手な思い込みじゃろて」
「普通、そうとしか思いません」
「おぬしは、池から女神が出てくるなどと想像してたか?」やれやれとカエルは首を振りながら言った。
「そんな事、考える訳ないでしょう」
「なら、自分の想像しえないことが発生した時点で、自分の常識を疑うべきであったな?」
どうも話が通じる相手はないらしい。同じカエルなら、せめて平面カエルのような、気の合う友達みたいなのが良かったのに。
「もう、どうでもいいから、早くはなれてください」
「無理だな」
もうやだ。