第10話 ルイーナ王国の魔術師(ルイーナ王国側)

文字数 1,183文字

 どうしてこんな事になってしまったのだろう?
 

 ルイーナ王国では、第一王子リッカル殿下の婚約発表が盛大に行われていた。
 お相手は、男爵令嬢と身分は低いが、国が聖女と定めたリリカ・ド・スクリプト様。
 
 男爵令嬢とはいえ、平民に近いリリカ様が王族に嫁がれる。しかも立太子はまだだが、将来国王陛下になられるリッカル殿下に……だ。
 自分たちの代表の様に、国民たちは喜んでいた。

 
 聖女というものは、元の身分が低ければ低い程、国民受けが良くなる。
 歴代の我が国の聖女は、魔術師の家系で魔力の優れた女児を、男爵家の元は平民の側室が産んだものとして作り上げたものだ。
 受け入れた男爵家も、聖女を輩出した家門として優遇されるので本当事は口が裂けても言わない。
 そうやって、政略的に聖女を作り上げて来たのだ。
 決して、王子殿下の恋慕だけで聖女を作り上げて良い物では無い。
 しかも、リリカ様は下級ポーション程度の回復魔法しか使えないのだ。


 王城で、国民に向かって手を振り、お二方は馬車に乗り込む。
 私も、他の魔術師と共に後続の馬車に乗り込んだ。

 リッカル殿下とリリカ様は馬車からにこやかに国民に向かって手を振っているのだろう。
 国民たちの歓声が聞こえていた。

 目的地は、国境の近くの結界。
 その結界の外に、ナタリー様が隠れ住んでいた森がある。
 あの森も一応国内だが……。

 いにしえの魔女の結界を、聖女様みずから強化をする儀式を行うと言うのだ。
 もちろんリリカ様にそのような能力は無いので、形だけだ。
 
 結界は、魔力の無い者、弱い者の目には見えない。
 ナタリー様は10年前結界が弱まった時に盟約通り指輪の力で呼び出され、結界の強化と修復をしてくださった。
 そして、この地に留まって頂く為に第一王子殿下に合わせ外見を幼い令嬢に変え、私の実家であるリフレイン家の養女として迎えたのである。
 リッカル殿下の婚約者として……。
 なのに、リッカル殿下はナタリー様を見もしなかった。
 そして、あんな女……いや、リリカ様を聖女だと言い、ナタリー様との婚約を強制的に破棄してしまった。
 
 本当にどうしてこんな事になってしまったのだろう?

 もう、何もかもが遅いのは分かっている。分かってはいるんだ。

 魔女の盟約は絶対だ。

 魔女であるナタリー様を呼びだす為の一度だけ使えると言う指輪はもう壊れてしまっている。
 あの盟約に滞在期間の期限は無かった。
 ただ、再びナタリー様を害する事があれば、もう二度とこの地を踏まない。
 そういう盟約だっただけだ。
 そして、ナタリー様は盟約によりこの国から弾き飛ばされる前に自ら国外に出て行った。

 ナタリー様は、物事に執着がない。
 故に、感情的にこの国の結界を消し去ることはなさらなかった。

 後は結界が消えない事を、祈るだけだ。


※10/1分の予約を忘れていました。すみません。
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