文字数 564文字

 静かだった。
 遠巻きにする人々の目も、彼をここに留めるための障壁も、すべて意識から失せていく。

 隔てられた内側にふたり。

「会いたかった。……ずぅっと、あなたを想っていたの」
「リィリ」

 彼は信じられないというふうに目を見開いて、舌先でアマリリスを呼んだ。
 懐かしい愛称で。かすれ声さえ透き通る、ハープみたいな響きで。

「ねぇ。契約、しましょ? 私の精霊はあなただけよ」

 彼の気配がこの狭い世界を満たしているのを感じる。深い底の静謐に似た涼やかな揺らぎが、アマリリスを抱いている。
 鼓動が高鳴る。身体がじんと熱を帯びる。

「っ、駄目だ。契約などしたら、」
「信じて」

 うつくしい貌をゆがめ、苦しげに突き放そうとする声を、強く遮った。けして逃さぬように。腕を掴むと、触れた指の先が融け合うようだ。

 淡い青の視線を絡め取って真っ直ぐに見つめ返す。受け取ってほしい。この覚悟を。もう無力な子供ではないのだから。
 彼はしばし瞬きすら止め、そして根負けしたように、こわばりを解いた。

「……オレの契約者も、お前だけだ」

 その表情に迷いはない。今、彼の目に映るのは、アマリリスだけ。不安も怖れもない澄んだ色が、

(私を見てる。あなたが、そばにいる)

 ――あぁ、幸せだ。
 アマリリスはとろとろに笑んで、杖を掲げる。



 さあ、高らかに告げよう。契約(誓い)詠唱(言葉)を。


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