疑い2

文字数 1,056文字

時折薬指の指輪をくるくると回す彼女は視線を右へ左へと移しながら語る。
彼女の表情からは悩みあぐね、時には自問し、行き場のないフラストレーションを抱えていた。
夫への一途な愛、愛する者への疑念は彼女の尊い想いを底なしの沼へ引きずりこんだ。
「結婚するまでは定時キッチリに退社する人だったの。それが、、ここ最近は帰りが遅くなる事もあって。」
「彼と同じ部署の人が知り合いにいて。もう帰ったって言うの」
「気のせいだったらいいの。彼も色々あるだろうし。でも、、毎朝彼が家を出るとき今日は大丈夫だよねって、辛くなるの」
「帰ってくる時はね。大事に乗ってる古ーい車のエンジン音がするの。それを聞くと、安心するの」
一連の流れはこの通り。順風満帆に築いてたであろう生活には早くもカビ臭いが立ち込める。
ただ相手が悪かった。 一つ目は妻である桐が学生時代から勘の良いタイプで他人の感情や気持ちを読み取ることに長けた面があった事。そして二つ目はこの街で浮気探偵と不名誉なあだ名を持つ私がこの話を聞いてしまった事。 
「ごめんね、恵助。この話、、今はまだ誰にも。ね」
秘密の共有がそろそろ認めてしまっても僥倖かと思ってしまった事は目の前の張本人には心臓破れようとも言えるはずはなかった。
「わかった。やれるだけやってみるよ。まずは桐の旦那、<対象>について詳しく教えて欲しい」

私はペンを取る、彼女の幸福を願い。この心が{ジェラシー}と名前を模した未練の怪物。
いまや、彼女の夫の話は一つ一つが鋭く磨かれた刃物。私を狙う先端。
彼女の愛した男は彼女を裏切ったのか。私を刺し、抉る、ポンプから噴き出た血をしたり顔で舐めとった。 

お前には出来なかった事だ。そこで何ができる。



<対象 一徳> 桐の旦那は僕らよりも2つ年上の地元では大きな企業に勤めるサラリーマン。品行方正でそつなく業務をこなし、後輩からの慕われている。上司との関係も良好。もちろん桐と付き合う前までも黒い噂などなくむしろ硬派寄りな為か群れるタイプではない事から密かに狙う者がいた程だったらしい。また、物持ちが良い性格で未だに初めて買った車を大事に乗っている。古いエンジン音とはこの事だろう。過去交友関係は桐も深くは把握していないらしい。
「昔の事?あんまり多くは知らないよ。私は今の彼と結婚したんだもん」
昔から桐にははあっさりした部分がある。彼女にとって過去とは現在に至るまでの轍。


これからたくさん知っていけば良いの。まだまだ離す気はないんだから。
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登場人物紹介

恵助 しがない探偵 主な仕事は浮気調査と人探し。 学生時代の初恋の女性を忘れずにいる。

桐  恵助の初恋の女性。今春年上の男性と結婚。とあることから恵助に依頼する。

晋  恵助、桐の友人。 隣県に移住した。妻子有。

文成  恵助、晋とは旧知の仲。筋肉隆々の男。

李依  桐の近所に住む学生。桐とは姉妹に近い程仲が良い。今どきの子らしく物言いが鋭い。恵助を疑う。

沢城 恵助にペット探しの依頼をした女性。恵助より2、3年上。ちょっと抜けてる?

一徳 桐の夫 疑惑の張本人。

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