かかふかか:完全変態の7500字

文字数 7,622文字



 ある朝、俺が気がかりな夢から目ざめたとき、自分がベッドの上で1匹の巨大な芋虫に変わってしまっているのに気づいた。
 なんだ? これ。腹部に小さな脚がたくさんついている。順番にもぞもぞ動かすと僅かに後脚に引っかかっていた何かが脱げた。

「ううん」

 左側から声が響く。
 3重にブレた視界はしばらくたつと焦点が定まり、白い背中に浮き出る胸椎に固定された。俺、いま目が左右に3個ずつあるのか。視界は水平方向に広いけど前方が見えない。右側はふかふかと白いままで、多分ふとん。
 小さい脚をもぞもぞと動かし、頭部をふとんの端から出す。俺の部屋。昨日寝たままの。左側に彼女の少し茶色い髪の毛。そして俺が踏んでいるのは、俺の皮。頭部の髪の毛。少しゴワゴワしているそれは、皮だけ残してぺちゃんこだ。骨はどこにいったんだろう。俺は俺から脱皮したのかな。
 もぞもぞと自分の皮を食べる。青虫が自分が出てきた卵を最初に食べるように。味はしなかったけどざらざらした感触があった。芋虫には味覚がないのかもしれない。

 俺は俺が芋虫であると正しく認識している。皮を食べるのは本能。皮を食べるごとに人であった自分が消えていく。そのことに何か深く安心した。
 俺がもぞもぞ動いていたせいか左隣の彼女の頭が起き上がり、ベッドの表面が波打った。転がり落ちないよう小さな脚で踏ん張る。脚先についていた小さな鉤爪を俺の皮に引っ掛けた。

「んん、あら、随分奇麗に変態できたじゃない」

 そんな声と共に背を撫でられる感触。上の方は見えないけど、彼女の手だろう。触れられた表皮が水風船のようにクネクネ動いて妙な感触。

「あの」

 頑張って声を出したら一緒にふしゅると糸が出た。

「あれ? あなた自我があるの?」
「うん、おはよう」
「おはよう」

 前脚を上げて伸び上がってみたけど、全然顔が見えない。芋虫は横しか見えないんだな。上と前は見えない。そう思っていると、抱き上げられて頭を膝にのせられた。

「ふうん? あなたよっぽどおかしいわね」
「そう?」
「なんで落ち着いてるの? 意識があったとしても嫌じゃないの? 自分の姿がわかる? あなたいま芋虫なのよ?」
「うん」

 矢継ぎ早に問われた。
 芋虫。まあ、芋虫だよね。
 口を開くごとに勝手に糸が出て、乗っかってる膝を糸まみれにしていく。

「それになんで自分の皮を食べてたの? おなかすいてるの?」
「そういうものじゃないの?」
「まあ、本能としてはそうかもしれないわ。でも今まで食べてた人はいなかった。自分の皮よ、嫌じゃないの? それから自分の皮って美味しいの?」
「別に」
「たくさんキャベツ買ってきたのに無駄になっちゃったかしら」

 そういえば昨日、彼女は体に優しいからロールキャベツを作るんだと言って、重そうなキャベツを3玉も買って帰ってきた。俺はここ1週間ほど体調が悪くて寝込んでいたから。けれども思い返せば1玉の半分も使っていなかったように思う。

「なんで俺、芋虫になってるの?」
「それはまあ、そうなるような薬を食事にまぜていたから」
「薬で芋虫になるものなの?」

 頭の上で、ふぅ、と息を吐く音がした。

「あなた今、自分が芋虫なの本当にわかってる?」
「そりゃまあ。脚がたくさんあっても動かし方はわかるわけだし」

 俺は前脚から順番にパタタッと一本ずつ脚を浮かせた。それに合わせて俺も波打つ。そういえば何で動かし方がわかるんだろう。芋虫だからかな。反対に指とか、そういう細かいものの動かし方はわからなくなった気がする。

「ひょっとして今まで芋虫にした人もみんな最初は自我があって、起きた瞬間発狂でもしたのかしら。なんだか悪いことした気になってきたわ。あなたのせいで」
「それ俺のせいじゃないんじゃ」
「まあ、そうね。でもどうしたらいいのかしら、気がひけるわ」
「俺も足を糸まみれにして気が引けてる。これ、糸吐かないで話す方法はないのかな」
「どうかしらね。まぁ、そういうものじゃないのかしら。結構たくさん出るのね」
「そう言われるのはなんだか恥ずかしい」

 ひゅるひゅると口から出る糸の所在が気になって頭を左右に動かしたけど、結局10センチくらい先でふよふよ自由落下したから糸は彼女の膝に積もり続けた。
 ジリリとアラームが鳴る。あ、7時か。
 しばらく休んでいたけど今日は体調がいい。

「会社に行かないと」
「馬鹿じゃないの? その姿でいけるわけないじゃない」
「……そうか、でも連絡を入れないと会社から電話が来る」
「職場には退職の連絡を入れておくわ」
「そんな酷い」
「別に好きな仕事でもなかったんでしょう? それにもう人には戻れないわ。だいたいあなたも自分で自分の皮を食べちゃってるじゃない」

 それもそうかも。でも働かないと家賃が払えない。
 そういえば俺の皮。小さな脚をもぞもぞとか動かして膝から降りて、再び皮を食べ始める。

「キャベツあるわよ」
「うん、でもまあとりあえずこれを」
「なんで?」
「……俺は俺が嫌いなんだよ。だから消してしまいたい」
「……つくづく変な人ねぇ」

 俺はずっと俺が嫌いだった。俺がこの世にいなくなる。だから、それは何か、俺をひどく安心させた。
 目の前にドンとキャベツが置かれてシーツが揺れる。

「こっちも食べていいわよ」
「ありがとう。ビタミンいるよね……ねぇ、俺はこれからどうなるの? 蝶とかになるの?」
「それは……」

 声は言い淀む。
 派手な羽根。キラキラした蝶の姿は自己認識と合わない。それは俺っぽくない。そんな気はする。芋虫はひどく俺の姿に合っている気がしていた。この短いたくさんの脚もなんとなく可愛い気がする。

「蝶にはならないわ、ごめんなさいね」
「ああ、その、このままの方がしっくりくるので」
「このままでもいられないのよ」
「そうなの?」

 ためらいを感じる沈黙。なんとなくいいづらそうな。いいづらいこと。ええと。

「俺、死ぬの?」
「まあ、そうね」
「そうか」
「そうかって、それでいいの?」
「わーどうしようー」

 短い脚を順番にパタパタさせてみるとそっと背中が撫でられた。

「本当に変な人ね」
「まあ、正直どうでもいいかな。……どうでもいいけど、じゃあなんでわざわざ芋虫に?」
「ううん……」

 手の皮についた爪を齧るとパキパキした。芋虫の歯って案外丈夫なんだな。そんなことを思っていると左側の視界に顔が入る。どうやら彼女が僕の隣に寝転んだようだ。星が瞬くみたいな奇麗な瞳。遠くの山の稜線みたいに薄く描かれた眉。もぐもぐ。

「食べるため」
「君が食べるの?」
「……いいの?」
「まぁ、仕方が、ないような。芋虫の方が食べやすいの?」

 普通は女の子は虫が嫌いじゃないのかな。特に芋虫は。
 脚をもぞもぞ動かして近寄って、前脚を持ち上げてそっと唇に触れた。ふにふにする。

「その、人のままだと骨が食べられないから全部食べられるよう芋虫に完全変態してもらった」
「俺をすぐ食べる? あ、ごめん」

 口先で話すと彼女の鼻に糸がかかった。
 彼女はくすぐったそうに糸を引っ張る。少し不便だな。

「ちょっと甘くてなんだか綿菓子みたい」
「試しに何かを糸で包んでみようか」
「そうねぇ」

 見渡すと、枕元に飴玉が4つ。
 彼女が青い飴を1つをとって目の前に置き、そこに糸を吹きかける。彼女と初めて出会った冬の氷のような透き通った青色。小さな目的。どのくらい出るのかな、この糸。しゅるる。

「面白いの?」
「まあわりと。せっかく出るなら散らかるよりは」
「ねぇ、食べるのは私じゃなくて、私の子供なの」
「子供がいるの?」
「いないけど、これから産むの。ここに」

 つんつんと側面が押される。

「俺が産むの?」
「ちがくて。私があなたに子供を産み付けて、あなたはその子供に食べられるの」
「ふうん」
「ふうんって」
「まあ、いいかな。でもじゃぁ、ひょっとして俺でなくても、誰でもよかったの?」

 子供の餌にするだけなら俺である必要性はないような。
 それはなんだか、少し寂しい。彼女とは1年くらい前からなんとなくな流れで付き合いだした。家デートが多かったけど、まあまあ好きだった。なんとも思われてないなら、少しだけ悲しいかも。死んでしまうなら、何か少し思いがほしい。
 飴玉がだんだん白い糸でくるまれてきた。たまに前脚で少し回して平均的に糸を吹きかける。

「それも少し違くて」
「そうなの?」
「うんまあ」
「そういえば君は単為生殖なの?」

 ふと、思った。
 なんとなく、他のやつとの子供を産みつけられるのは嫌な気分。托卵みたいな。

「まあ、単性といえば単性で。それから私の種族では相手を気にしない人は確かにいるけど」
「種族?」
「そう。そうね、多分、妖怪とか、宇宙人とか、あなたたちにとって私たちはそういうもの」
「なんとなく虫っぽいものかと思ってた」
「まぁ、虫なら生態としては蜂が近いのかな」
「蜂? まあ、刺すのか。産卵管を?」
「まぁ、そう、かな、あんまり真面目に聞かれるのはなんだか恥ずかしいんだけど」

 青い飴玉はすっかり真っ白になって、その隣にオレンジ色の飴玉が並んだ。彼女とベランダで日向ぼっこした春の光みたいな暖かい色。

「まあ、その、仲間の中には相手は誰でもいいっていう人はいるけど、私はそうではなくて」

 また側面がつんつんと突かれる。

「単性だからあなたたちみたいに遺伝子とかを混ぜたりはしないんだけど、子供には最初に私の好きな人を食べて育ってほしいというか」
「俺が好き?」
「好きだよ。だからあなたにしたの。まさか意識があるとは思わなかったけど、まぁ、そんなに嫌そうじゃなくてよかった」
「そう」

 でもまあ、ちょっと複雑な気分。
 俺が彼女の子供を育てるのか。ううん、まあ、いいのかな。それはそれで。特に労力はいらなさそうだし。

「あなたの方で言いたいことはある? 文句とか」
「俺の?」
「うんまぁ、せっかく話せるなら」
「ううん……俺のどこが好きなの?」
「そうね、なんだかんだいって優しいところかな」
「優しいかな」
「芋虫にしても怒らないし」
「まあ。この姿はなんだかおちつくんだ。人の時はいつも何かにイライラしてた気がするけど、今は妙にしっくりきてるというか」
「やっぱり変な人ねえ」

 白くなった黄色い飴の隣に緑の飴が置かれる。好きだったメロン味。夏の思い出。メロンとスイカと山の色。それから彼女と一緒に食べたかき氷。
 試しにかじってみても味はしなかった。俺は変わってしまったのかな。でもメロン味の思い出は今も好きだ。味はしないのに。

「好きなら俺が死ぬと悲しかったりはしないの?」
「そういう感覚はあまりないわ。私と同じ新しい私があなたを糧にするわけだから、どこかで私という群れと繋がっている」
「世の中には君がたくさんいるの?」
「そうね。まあ、何人かは」

 変な生き物。妖怪か宇宙人らしいから、そんなものなのかな。

「本当は違う姿だったりするの?」
「私はこの姿の生き物よ。変身したりできるわけじゃない。ただ、さっき言ってた産卵管が普段は体内にあるくらいで。まあ、蜂の針みたいな感じで」
「俺、刺されるのか」
「あなたも散々私に刺したんだからお互い様でしょう?」
「まあ、そう、なの、かな」

 子供に食べさせようとしたわけではなかったんだけど。
 でも体内で栄養を供給するなら同じことか。俺は確かに彼女との将来を少しだけ考えていた。
 生きてるか死んでるかなんて、多分ささいなことだ。それに世界平均では出産による死亡率はまだ高い。
 彼女の指がまた背を撫でる。

「今まで見た中で一番キレイな芋虫」
「そうなの? 自分じゃ見えない」

 彼女はスタンドミラーをベッド脇にもってきた。
 そこには黄緑色に花のような模様がついた、ところどころ輪ゴムを巻いたような凹凸のある小さな脚のたくさんついた芋虫がいた。
 これが俺。
 試しに脚を動かしてみると、鏡の中の芋虫も同じように脚を動かした。
 なんだか面白くて、変な感じ。

「そういえば、俺に卵を生んだあと君はどうするの? 出ていくの?」
「ああ、ジガバチとかだとそうなんだよね。どうしようかな? うーん、私もここで死ぬことにしようかな」
「そうなの?」
「まぁ、私とあなたのどちらが先に死ぬかはわからないけど、せっかくだから一緒に死ぬよう祈りましょう」

 別に一緒に死んでほしいわけではないんだけど。
 むしろ死んでほしくはないのだけど。彼女が好きだから。
 彼女が世界からいなくなると考えると、なんとなく悲しい。それは俺が他の俺に繋がっていないからかな。まあ、他の俺なんていないんだけど。

「あの、死ななくても」
「あなた、私何歳に見える?」
「20くらいだと思ってたけど」
「本当は1102歳」
「えっ」
「なんかもう、いいかなと思って」

 そんな長い時の果てで。

「俺27だけど一緒に死ぬのが俺でいいの?」
「まぁ、いいかな。なんていうか、自分のことを正直に話すのってほとんどなかったし」
「そうなの?」
「人に卵を産みつけて増やしてるんですって言える?」
「ああ、まあ、そう、だね」
「本当に変な人」

 赤い飴。この間彼女と見た紅葉の色。これが最後の飴。

「1000年も姿が変わらないの?」
「そう、あなたから産まれてくるのも、ミニチュアサイズのこの姿」
「変なの。でも僕から生まれてくる君が君と同じものなら多分好きかな。だから、食べられてもいいや」

 ふう、と息がかかる。

「あなたは私のどこが好きなの」
「一緒にいてくれたところ」
「それだけ?」
「まあ、俺が一緒にいたいと思える人は実はあんまりいないから。君は一緒にいて落ち着いたんだ。距離感がちょうどよかったんだと思う」
「距離感?」
「そう。絶対的にはそんなでもないけど、相対的にはとても好き。君以上に好きなものはなにもない」
「死んでしまう今でもそう思ってる?」
「うん、まあ、相対的に」
「どう捉えていいのかよくわからないわ。本当に変な人ねぇ」

 飴玉が4個、真っ白になった。俺にはもう来ない、次の冬の雪の色。

「じゃぁ、そろそろ、ちょっと失礼して」

 彼女が起き上がって視界から消える。俺の両脇に彼女の足がみえる。上は見えない。芋虫は少し不便だ。
 しばらくして背中がつぷと破ける感触と、体の中に何か温かいものがふつふつと入ってくる感触。
 背中に違和感がある。自分じゃないものが入り込んだ。痛くは、ない。

「ふう」

 俺の隣に倒れ込んだ彼女は何かカサカサに乾いていた。

「大丈夫?」
「まぁ、多分。これで最後だし、いつもと違って思い切って色々詰め込んだから。今の私は残り滓みたいなもの」
「くっついていい?」
「いいよ」

 小さな脚をよたよた動かす。背中が重くてうまくバランスが取れない。
 なんとかふらふら動いて彼女のカサカサになった腕の間に収まった。
 俺のうちがわに彼女がいる。そとがわの目の前にも彼女がいる。変な感じだ。

 小学校で芋虫を解剖した時のことを思い出す。
 芋虫の皮をむくとそこには芋虫と同じような形の緑色の内蔵といろいろな線があった。
 俺に入った彼女は今、俺の内蔵と皮の間の隙間にいるんだろう。俺の体の中から俺を食べる。
 それはやっぱり、なにか妙な感じがしたけど、そんなに嫌ではない感じ。人の皮もなくなって、芋虫の皮もなくなって、それでさようなら。彼女が全てを食べてくれるなら、何かの役にたっている気がして、なんとなく満足。

「どのくらいで孵化するの?」
「多分、今晩には」
「今から蛹になっちゃだめかな。どろどろになったほうが食べやすそうな気がする」
「どうだろう。でも外側が固くなると外に出づらくなるのかな。この子のことを考えてくれてありがとう」
「この子と言うか、君というか。でもそれもそうか。じゃあやめとく」

 彼女は僕が糸で包んだ飴玉を1個ずつゆっくりと食べた。
 2つ目に手を伸ばす頃には大分動くのが大変そうになっていて。3つ目は俺がなんとか動いて彼女の口に収めた。
 4つ目を口に押し込めるころにはなんとなく窓の外が少し暗くなっていた。それで俺の中で俺とは違うものがもぞもぞ動いているようにを感じた。

「多分、産まれたよ」
「そう、ちゃんと、動いてる?」
「うん、でもよくわからない」
「あぁ、産み付けたときに、麻酔も入ってるから、かな。だから、痛くはない、はず」

 それからすっかり窓の外が暗くなった頃、俺の側面がつぷつぷ動き、食い破られて小さな穴があいて、なにかが出てくる感触がした。
 それはシーツの上をふたふたと歩き回っている。

「つ」
「大丈夫?」
「すぐ、麻酔が効くから、平気。死ぬと、腐るか、ら、生きたままに、する、のよ」

 そういえばジガバチは死なないように重要な部分を残してすこしずつ食べるんだっけ。そんなことを聞いたことがある。
 俺と彼女はちょっとずつ足元からかけていく。できれば一緒に死ねますように。それはなんだかロマンティックで。

 でもしばらく日がたって、外側の彼女の心は俺の前からいなくなってしまった。体は生きてはいるけど、俺の目の前の瞳は何も映していない。もともとカサカサでご飯も食べていないのだから、衰弱してしまったのかも。飴のエネルギーが切れたのかもしれない。少し悲しい。話し相手が減った。
 頑張って糸を飛ばした結果、彼女の顔にヴェールのように糸が降り積もった。なんとなく、満足した。
 俺は俺の皮を齧りながらまだ意識を保っている。

「他には何に注意したらいい?」
「そうだね。四則計算はもう大丈夫そうだから、あとは常識かなぁ」
「常識」

 俺の背中がぱりぱり咀嚼される音がする。なんだかくすぐったい。
 色々ぼんやりして億劫になってきたけど、何かこれはこれで幸せな気分だ。俺が子供を育てるとは思わなかった。自分で思っていたより俺は甲斐甲斐しいのかもしれない。

 小さな彼女は今100センチくらいの大きさまで育っている。といっても幼児なわけではなく、彼女が大人の姿のままでその縮尺まで縮んだ感じ。
 俺と目の前のひからびた彼女を食べきったら、おそらく140センチくらいにはなるだろう。もとの彼女には少し足りないけど、彼女の服をベルトで絞れば着れそうだ。

 俺は彼女がこの部屋から出ていくのに必要な知識を教えていた。多分俺たちが全部食べられてしまうにはもうそんなに時間はなくて。とりあえずパソコンの使い方だけ教えて、あとは自力学習してもらうしかない。

 外側の彼女は多分、僕と一緒に死なないのなら、小さな彼女が孵化する前にこの部屋をあとにしたんだろう。そうすれば小さな彼女は生きていくのは難しかった気がする。多分目の前の彼女が産まれたときと違って今の世界は複雑で。竹から生まれたなんておかしな理屈は受け入れられない。

 俺は小さい彼女を目の前の彼女と同じ名前で呼ぶ。
 俺は目の前の彼女と一緒に死んで、新しい彼女の糧になる。
 こんな変な人生は可か不可かというとゆるやかに可で。それはなにか、幸せな感じ。

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