第65話  拒否反応の無い男

エピソード文字数 3,059文字



 ※


あれ~? こんな夜中に何してるんですか~~?

 竜王さん?


 まるで尾行していた事など、知らぬ存ぜぬといった軽~い挨拶に、俺も魔樹も、瞬時に愛想笑いを発動していた。


 まさか正面からやってくるとは思ってなかった。

 極上の笑顔で俺達を伺うと、間髪いれずに喋り出す。

あれ? お二人さんってもしかして。恋人同士ですか?
あ~。



 こんな夜中の公園で、男と女が二人っきりだもんな。確かにそう思われても仕方のないシチュエーションだが……



 ていうかこいつ。マジで……しらばっくれるつもりか?


 可愛い顔して、中々神経の図太い女の子だな。


 何となく。王二朗くんがヤバイと言ったのも納得できる。


 

 しかし。こうフレンドリーに接近されるとやりにくい。


 尾行していたネタは挙がっているんだし、ここは一喝して一刀両断してもいいんだが……とか思ってると、魔樹が俺の前に出てきた。

竜王さん。その前に……僕達に何か言わなきゃならない事があるんじゃないですか?
え?
君はなぜ、楓蓮さんの後を付回してたのかな?

 魔樹はストレートに逝きやがった。一瞬でその場が凍りつく。


 まるで蓮と初対面の時を思わせるような、冷酷な目を竜王さんに向ける。
嘘はつかないで欲しい。楓蓮さんを追いかける君を見かけたんだけど。正直に答えて
ごめん。ちょっと意味が分からないんですけど

 ここぞとばかりの上目使いで魔樹を覗きこむ竜王さん。

 

 どうやらストーカーを認めるつもりが無さそうだ。


 

 竜王さんは二人の顔色が変わらないのを見てから、急にしょぼくれた顔になってしまい、ぼそっと呟いた。

何か嫌われてる? お邪魔だったかな?

 俺に対し明らかなヘルプだ。同情を誘おうと言う気持ちが溢れ出てるのはきっと、魔樹の視線が非常に冷たいからだろう。



 俺だってこんなストーカーに情けなど必要ないとは思ったが……


 それじゃまずい。
いえいえ。そんな事ありませんからね

 と、竜王さんを励ます態度を取った。


 

 当然面白くない面をしているのは魔樹だ。一目だけこちらを見てすぐに向き直る。

あの、悪いんだけどさ、少し真面目な話をしてる最中なんだ。この事はまた学校で話すから

 それはつまり、学校で話すから帰れと言っているようなものだ。



 すると竜王さんは、社交辞令用の笑顔を見せ、「ごめん。分かった」と納得し「失礼しました」と一礼するのだった。

じゃあね楓蓮さん。また喫茶店に行きます
分かりました。またね

 手を振られると、こっちも応えねばなるまい。魔樹はその様子を、じっと黙って見ているだけであった。



 魔樹よ。お前の気持ちは分かるが、こういう奴に真っ向から敵意を見せ付ける。そんな態度を取っちゃダメだ。



 


 ※



 竜王さんがいなくなって、俺は再び屋根付きベンチに座ると、魔樹も隣に座った。



 すげー不満そうな顔だな。まぁ相手が楓蓮なので極力顔に出さないようにしているみたいだが、納得できないって面は隠しきれていない。


楓蓮さん。なぜあの子に……愛想よくすればあなたに接近してくるかもしれないのに
そうですよ。そのつもりなんですけど
え?
 え? なんだよ魔樹。もしかして分かってなかったのか?
あの子の注意を私に引き寄せるため。それ以外に理由はありません
まさか……
 そのピコーンと閃いた顔は、ようやく分かったって感じだな。

魔樹くんはあの子に対し、明らかに嫌ってる態度を見せたから。それは彼女だって分かったはず。


あそこで私までも無愛想にすれば、竜王さんはきっと私達の前には来なくなる。あの手の人間は下手に突き放してしまうと、逆恨みするかも知れない。それが一番厄介。


そーなったら今度は誰が狙われるか分からない

 あ~。楓蓮だと喋り難いな。

 一々魔樹に敬語っぽく喋らないといけないのは非常にダルい。



 いいか? 魔樹。

 ああいうストーカータイプは怒らせてはいけない。表向きは愛想の良いやつほど裏で何するかわかんねーだろ?


 それなら愛想よく振舞って、竜王さんの気を引き、ターゲットを俺に固定させた方が安全だ


 この女ならいけそうだと思わせれば……こっちのもんだ。


 襲ってきた時に俺が一刀両断し、今度は言い逃れできないように、ふん捕まえてやるから。

だから私は竜王さんが喫茶店に来た時には普通に接するから。

それは美優ちゃんや……喫茶店の人にも伝えて欲しい。

楓蓮さんは私や美優。紫苑さんの為に……

 魔樹は黙ったままだ。

 口元が歪んでる時点で、納得しきれない部分もあるのだろう。


 多分俺も……お前の立場だったらそんな顔してそーだ。

 



 まぁ表向きは穏便に済ます。これが一番だ。

 向こうだって、ストーカーを認めないように穏便に済まそうとしてきたからな。



 その理由ははっきり分からないが、そういう態度を見せてきたのなら、こちらも下手に刺激しない方がいい。

狙われるのは私でいい。

美優ちゃんや紫苑さんに目を向けさせない

楓蓮さん! でも……

魔樹。そんな心配そうな顔すんなよ。

マジで俺の事を心配してくれてるのは分かってるから。

当面はこのパターンで行きましょう。後は竜王さんがどう出てくるか。それから考えても遅くはない
しかし……

 煮えたぎらない魔樹。

 流石にイライラしてきた俺は、こいつの両肩を持ってドアップ顔をお見舞いしながら、

分かった? 魔樹くん
あ、あぅ。でも……
わかったでしょ。言う通りにして
楓蓮さ……
 こんの野郎! 何が何でも認めさせる! 

 絶対に引いてはダメなんだ!

んん~~~!
 目の前で思いっきりしかめっ面を発動してから、魔樹の無防備な両頬をつまみ、グニグニしてやる。
納得するのだー
は、はひ!
 何だよ今の声は。女の子みてーだったぞ。

 テンパる魔樹の顔見てニコ~と笑顔に戻った俺は、非常に満足であった。


 こいつのそーいう顔見ると……やたら癒される。

 

じゃあ。もう遅いし……帰ろうっ

 さっき入れ替わりのサインが脳内に届くと、十一時半頃か。


 入れ替わった時間を常に把握している俺にとっては、時計を見なくてもある程度時間が分かっちまうという……便利な部分もある。


 公園を出ようとすると、魔樹が付いてくるのはいいのだが……

僕が家までお送りします

 お前っ! いいって言ってんだろ?

 なんと言うか、俺がどれだけ言ってもこいつは聞きやがらない。


 少しばかりジトっとした目を見せると、今度の魔樹は真剣な目を真っ向からぶつけてきた。

このまま帰れません。

楓蓮さんがいくら凄いと言っても……


せめて……男である僕があなたを送り迎えしないと

 あぁ~~そうか。そういうことか。
分かった。すぐそこだけどお願いしますね

 ニコっと笑顔を見せ付ける。

 いつもの笑顔よりもニヤけ成分が3倍くらい入っているが。



 俺が折れたのは、魔樹に気を使ったつもりだ。


 さっきも不本意だっただろうが、俺が提案した竜王さんへの対応を聞き入れてくれたし、今ここで俺を一人で帰らすとなれば……男としての面子が丸潰れだからな。



 ここまで来ておいて、何も戦果を挙げられないまま帰れないだろ? 


ありがとうございます

 おおっ。珍しい魔樹の笑顔に、こちらも笑顔になっちまう。

 マジで嬉しいんだよな? 


 作り笑い成分など入っていない、自然な笑顔というのは、すぐに分かる。





 しかし……なんというか。俺と魔樹って本当に似てるなぁ。

  

 きっと俺の読みは100%当たったハズだし、俺だって魔樹の立場なら、せめて家までお送りしたい。そう進言しただろう。



 しかも今のお前を見てるとなんとなく。

 目を輝かせて尻尾をフリフリする子犬のように見えちまうぜ


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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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