第15話 死霊術師は小鬼と遭遇する

文字数 2,052文字

 私は一人で森の中を探索する。

 ここにはいないが、遠隔操作で一部のアンデッドも動員させていた。
 それらのアンデッドには、朱殻蟻の殲滅に使った猛毒と感染の術式を仕込んである。
 アンデッドの攻撃を受けるか、アンデッドを捕食した魔物は、即座に死亡して私の手駒となる。
 この方法で多方面を同時に調べ上げ、同時並行で戦力を増強する予定だった。

 少し念じるだけで他のアンデッドの視界を利用できる。
 さらには肉体の切り替えも可能だ。
 状況次第では私が乗り移って行動してもいい。

 もっとも、不測の事態はそうそう起こらないだろう。
 世界規模で見れば、この森など非常に安全な部類である。
 魔物の変異進化種――魔族や魔人、魔獣といった存在が出てこない。
 迷宮の戦力とするにはちょうどいいので、個人的には数体ほど欲しい。

 余裕が出てきたら、遠征して確保しに行ってもいいかもしれない。
 それら三種の肉体は死霊魔術との親和性が高い。
 手元に置いておくと便利なのだ。
 かつては私も頻繁に使っていた。

 冒険者によっては、人間や弱い魔物のアンデッドでは対処できない場合がある。
 英雄や勇者などはその代表例だろう。
 彼らが辺境の迷宮を訪れることなど滅多にないだろうが、いずれ対策はするべきだ。

 迷宮を攻略されると、最下層にいるテテが見つかる。
 そうなれば迷宮が人為的に造られたものだと察知される。
 望ましくない展開であった。

 人工迷宮は攻略されてはならない。
 ほどほどに冒険者を殺し、ほどほどの収穫を彼らに与えるのが一番なのだ。
 それを維持するためにも保険となる戦力を用意しておかねば。

 森を歩いていると、前方の茂みが不自然に揺れた。
 顔を出したのは数匹の小柄な鬼。
 ゴブリンだ。
 私は少し意外に思う。

 全く見かけないので、この森には生息していないと思っていたのだ。
 小規模ながらも群れを作っているのかもしれない。
 後で周辺を探索した方が良さそうだ。

 ゴブリンは弱い魔物だが、それなりに賢い種族である。
 罠や毒物も扱う狡猾な存在だ。
 人間を襲って攫うことも珍しくない。

 開拓村の平穏を願う私からすれば、とにかく害悪なのだ。
 一匹残らず駆除するとしよう。

 ゴブリンたちは、私を一瞥して嫌そうな顔をしていた。
 そしてこちらを襲わずに距離を取ろうとする。
 彼らは私の肉体がアンデッドであることを察知したらしい。
 食糧にならないから襲わないのだ。

 ただ、こちらは彼らに用がある。
 私は包丁を逆手に持ち、ゴブリンたちに駆け寄った。

 ゴブリンは急な攻撃に慌てながらも、棍棒を横薙ぎに振るってくる。
 脇腹に木製の棍棒が炸裂した。

 肋骨の折れる感触。
 口から息と共に少量の血が漏れる。
 気にせず私は包丁を振り下ろし、ゴブリンの眼球に突き刺した。

 激痛のあまり、ゴブリンが絶叫する。
 棍棒を手放して蹲った。

 その拍子に包丁を引き抜かれる。
 刃には串刺しになった眼球もついていた。

 これでは上手く刺せない。
 包丁を捨てた私は棍棒を拾い、呻くゴブリンの頭部に殴り付ける。

 ゴブリンは血を散らして昏倒した。
 痙攣する手が地面を掻く。
 重傷だろうが、即死ではない。
 やはり無強化の人間の死体では、効果的な攻撃が望めなさそうだった。

 その間に他のゴブリンが襲いかかってくる。
 私を無視できない敵と判断したようだ。
 ゴブリンの数は四匹で、手製の槍や斧を持っている。
 乱雑で連携できていない動きだが、私の技術では避けられなさそうだった。

 故に私は死霊魔術を発動し、体内に細工を施す。
 直後、ゴブリンたちの武器が命中した。
 槍の穂先が胸を貫き、斧が頭部を割る。
 すると傷口から黒い液体が飛散した。

 ゴブリンたちはそれをまともに浴びて、焼けるような音と白煙を上げる。
 彼らは喚きながら後退する。
 しかし、すぐに倒れて吐血した。
 やがて激しく震え初めて、苦悶の末に絶命する。

 私は身体に刺さった武器を引き抜いて捨てた。
 無感情にゴブリンの死体を見下ろす。

 攻撃を受ける直前、死霊魔術で体内に猛毒を仕込んだのだ。
 ゴブリンを殺す程度のものなら、瞬時に生成可能である。
 彼らは自らの攻撃で猛毒を浴びたわけだ。

 私は追加で死霊魔術を使用する。
 死んだばかりのゴブリンたちが残らず蘇った。
 アンデッドと化した彼らに表情はない。

 ついでに同行させよう。
 猛毒の術式を施しておけば、立派な武器にもなる。
 強い魔物が見つかった際に食わせるだけで効果を発揮する。
 温存しても頭数にはなるので無駄にもならない。

 まずはゴブリンの巣だ。
 村人たちに被害が出る前に破壊する。
 この周辺を探索すれば見つかるだろう。

 新たなアンデッドを従えて、私は森の中をさらに進むのであった。
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